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お蔵入り厳禁【Special】月刊、柏木信吾のこの一番:6月:イリー✖テイシェイラ「根性で勝てる」

【写真】最初から根性でなく、最後まで技術でなく。心技体で最高の戦いを見せてくれたイリー・プロハースカ (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、柏木信吾氏が選んだ2022年6月の一番、お蔵入り厳禁──12日に行われたUFC275よりイリー・プロハースカ✖クローバー・テイシェイラ戦を引き続き語らおう。

<月刊、柏木信吾のこの一番:6月:イリー・プロハースカ✖グローバー・テイシェイラはコチラから>


──分かりやすいですね。

「めっちゃ、興味あるじゃん?って。だから、より良い条件でUFCに進めたことはイリーにとっても本当に良かったです。イリー陣営はお金にゴチャゴチャ言うことはないです。でもRIZINのチャンピオンだし、それ相応の条件で契約して欲しかった。あの時はトントン拍子でUFCと契約ができてホッとしました」

──そして3戦目でUFCの頂点に。この試合、イリーの魅力を引き出したのが42歳のグローバーというのも何ともいえないですね。

「ホントにその通りです。メチャクチャ強いですよ。自分のようにアラフォーのオッサンとしては、希望の星。グローバーもスーパー苦労人のラフロード(Rough Road)ですからね」

──ゴツ男(笑)。

「UFCのチャンピオンになっても、満ち足りていなかったですね。あのピンチを何度も復活して。それはお互いにそういうシーンがあったのですが、3Rのテイシェイラはもう終わりだと思いました。あそこで終わっても誰も文句を言わない。でも盛り返した。最初に言いましたけど、MMAとして全てを見ることができた試合でした。

打撃も寝技の攻防も、スクランブルも、リバーサルも。間違った判断もあったし、ファイトIQの高さも見られた。本当に色々なモノが詰まった──根底に根性があった宝石箱みたいなMMAでした。

互いに諦めても仕方ない場面が何度もあって。イリーなんて、よくあのテイシェイラのパウンドを耐えることができるなって。あのパウンドは本当にヤバいですよ。あれは普通に中型ハンマーです。下半身の決めがあるから、あれだけ打っても軸がぶれない。ヒジも巧かったです。テイシェイラのパウンドは世界でトップクラスですね」

──しかも、あれだけ疲れているのにパンチはゴツゴツと落とすことができていました。

「ゴッツゴッツという音が聞こえて来そうでした。最後のタップはしょうがないです。その直前にあれだけ勝利に近かった。あそこを逃げられて、RNCはもうタップでもしょうがないです。だいたい、あの最後のラウンドだけでどれだけ攻守が入れ替わったんだって。珠玉の名勝負ですね」

──ハイ。そんななか水を差してしまう意見かもしれないですが、ジョン・ジョーンズがいなくなってUFCライトヘビー級戦線は面白くなりました。

「あぁ、そうですね。JJがいなくなったことで、跳びぬけた存在がいなくなって、例を見ない群雄割拠状態になりましたからね」

──イリーはまさに戦国時代を制した形ですね。しかし、改めて感慨深いモノがあるのではないですか。

「試合後、すぐにケージのなかで撮影された写真が送られてきました」

──泣いちゃったんじゃないですか? 柏木さん、泣きそうだなぁ(笑)。

「いやぁ……嬉しかったですね。感動しました。あと28秒ですからね。あそこでタップを奪っていないと、判定負けでした。でも高島さんが言われたように泥試合だったから、あそこまで面白かったんですよね。互いの根性が演出した名勝負ですね」

──強い者同士が戦って、あの根性勝負の泥試合になる。それはやはり最高峰の舞台で最強の座を争う泥試合と、他の泥試合はレベルが違います。五輪のマラソンでトラック勝負になるようなドッグレース、なかなかないです。

「全く別のスタイルの2人が、自分の得意な場所で勝負できた。同時に相手の得意な場面も凌げた。以前、エアータイトという言葉を使いましたが、ああいう隙をなくして相手に反撃の余地を与えない戦い方も最高ですけど、この試合は真逆で穴だらけ。無駄な動きが多い。失敗も多い。でも勝っちゃう……みたいな」

──イリーはそれまでにドミニク・レイエス、ヴォルカン・オズデミアに勝って来たわけですしね。

「そうですね。レイエスなんて、チャンピオンになれる素質を持っている選手ですからね。ジョン・ジョーンズとも、しっかりと戦っていた。その選手にあんな風に勝てるのに、なんでテイシェイラに殴られているんだって(笑)。

レイエス戦も、オズデミア戦も然り、そしてテイシェイラ戦もそうですがRIZINではできなかった相手の魅力を引き出して勝つ──風車の理論ではないですけど、そういう勝ち方をしていますよね」

──それは相手が強いから、自然発生ではないですか。本当な一方的に勝つ方が良いですし。

「いや、その通りです。本当に強い相手だから、そうならないと勝てない。一方的に勝てない相手に、根性で勝てるのが素晴らしくて」

──本当にその通りですね。

「本人は自覚がないだろうけど、気が付けば名勝負になっている。ただし、この試合が続くとダメージの蓄積が心配です。ディフェンス力の強化は欠かせないですね。あれだけ攻撃を被弾していると」

──負けると、下の選手と戦うことになってタフファイトをしないで良いかもしれないですが、チャンピオンですからそうはいかなくなる。

「だから根性勝負にならない試合が、競技を戦う上で必要になってきますね。ただし、彼のMMAへの向き合い方が競技ではないので、その辺が変わりますかね……」

──これはあくまでも私の考えですが、ガンガンやりやっていた金原正徳選手がグラスジョーになり、スクランブルの権化に変化した。でも、その一生懸命さは全く変わりなくて、MMAファイターとして魅力的なままです。

「本当にそうですね。守備力を強化しても、守りに入っているわけじゃない。そうやって考えると、まだまだイリーは若い。ここからどうやって成熟していくか、そこも期待したいですね」

──いやぁ、柏木さんが下ネタ封印の名勝負でした。

「そこですか!!(笑)」

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