【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。ダニエル・ウィリアムス✖ツオロンチャアシー
【写真】劣勢のツオロンチャアシがボクシングの距離で戦い続け、質量の高いウィリアムスが勝利するのは必然だった (C)ONE
MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。
武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは間、質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。
武術的観点に立って見たダニエル・ウィリアムス✖ツオロンチャアシー戦とは?!
──ダニエル・ウィリアムス✖ツオロンチャアシー、ロッタンとムエタイで勝負ができるウィリアムスのMMAの打撃とはいかなるモノなのか。そこが知りたいです。
「間合いが完全にボクシングでした。組む気はゼロ。そうなるとボクシングになる。MMAなのに他のことを考えていないのか、疑問に思いました。テイクダウンもないし、そうなるとひたすらボクシングになる」
――それで勝っているウィリアムスは、あれで良かったかと思います。でも、負けているツオロンチャアシーはなぜ他のことをしないのか、と。
「できないからじゃないですかね。なぜ、〇〇しないのか。この〇〇がMMAで許された技なのに『向いていないので』、『できないんです』、『僕、やらないんです』ということ多くないですか。対戦相手が決まって1カ月後、2カ月後というなかで、そこをできるようになるのは無理な話ですが、MMAを戦うのだから、なぜ常にそこを試合で使えるようにならないのか。
『僕、寝技ができないんです』っておかしな話でしょう。MMAは寝技があるのに、なら寝技になったら負けるのかって。でも、それを意外と不思議に思わないで、『あぁ、そうなんだ』で終わらせてしまっている選手、かなりいるように感じます。
この試合における打撃に関していえば、両者は似ているタイプです。似ているなら質量が高い方が勝ちます。
最後の右は先の先でした。ウィリアムスは先の先が取れているから、ツオロンチャアシーは完全に反応できないでやられてしまいました。カウンターを取る間もなかった」
――つまりツオロンチャアシーに出す間を与えなかったと。
「そうです。出そうとして打たれるのは、大概は後の先です。どうしようかと思案しているときに食らうのは、先の先です。つまりツオロンチャアシーは居着いていたんです。ただし、そこも先ほど言ったようにタイプが同じで、質量が上の方が勝った。それだけの話です。
だからこそツオロンチャアシーもMMAファイターなら、できないことをやるべきだということで。それはどの選手にも当てはまります。MMAなんだから。打撃で勝てないなら、組んでいきなさいよということなんです。
ボクシングを戦っているわけじゃない。そのボクシングだって、ファイター同士で相手の方が強かった場合に、アウトボックスが必要になる。だからアウトボックスの練習をやらないとダメで。
だからといってツオロンチャアシーは、打撃の真っ向勝負で相手に勝つというだけの意思もなかったです。できないことをできるようにする。これほど真っ当なことはないです。できないことをできるようになりましょう。そうでないと勝てないよ。この言葉があまり聞かれないのは不思議です。
勝てない部分があって、そこで勝負するしかないなら、勝てない。勝ちようがないです。なら負けないでいよう。負けないようにしていると、巻き返すチャンスが回ってくるかもしれない。それなのに勝てない試合を勝つとところから戦術を練っても勝てないですよ。つまり負けます。勝てないんだから。
それを口にできる環境の有無ですね。負けた、また頑張ろう。そうじゃないだろ、またなんてないかもしれないんだよ。だから、それを言える人間関係を指導者と選手が築けていないと難しいかと思います」
――それをすると人は離れる。そういうことにもなります。
「でも、事実は本人のために伝えないと。それが本人のためで。どれだけ厳しくても。で、それを言われて、その指導者から離れる。まぁ離れるのは良いけど、同じことをどこに行っても繰り返すことになるでしょう。そうやって何も改善されないまま、試合を続けているということです。
ツオロンチャアシーはウィリアムスと戦うのに、どこまでシビアに考えているのか。そのシビアさはなかったです。試合のオファーが来たから戦う。そうやって試合に出ている選手、多くないですか? やるのと勝つのは違います。どれだけ真剣に勝とうとして、試合を受けているのか。オファーがあるから戦います――じゃ勝てない。
UFCの凄いところは、負けられないっていう選手ばかりなところです。それは相手に勝ちたいというよりもUFCに残りたい。UFCで戦い続けたいという情念です。その感情をむき出しにして戦っています。そこですね、この試合のツオロンチャアシーと同じ選手が日本も多いと思います。技を見れば分かります。技というモノは、日々の努力が出ますからね」