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【BJJ STARS08】ミドル級GP1回戦、ハルクがヒメネスを──柔術の神の子は現役レジェンド越え達成

【写真】疲労困憊のロと、笑顔のミカ。世界のトップにあるレジェンド越えを果たした(C)BJJ STARS

先月30日(土・現地時間)、ブラジルのサンパウロにて豪華プロ柔術&グラップリングイベントのBJJ STARS 8が行われた。
Text by Isamu Horiuchi

目玉は世界4階級制覇のレジェンドであるレアンドロ・ロ、そのロの天敵であるミディアムヘビー級世界王者ルーカス・バルボーザ、そして柔術の神の子ミカ・ガルバォンら、8人のトップ黒帯選手が参加した道着着用ルールのミドル級GP。

レビュー第1回は、主催者の粋な計らいによって大注目の新旧対決が実現した1回戦の模様をお伝えしたい。


<ミドル級GP1回戦/7分1R>
ルーカス・バルボーザ(ブラジル)
Def. 2-0
ロベルト・ヒメネス(米国)

世界王者バルボーザに、新世代の旗手の一人ヒメネスが挑む注目の一戦が1回戦で実現。開始早々両者が腰を引いた構えで襟を掴み合うなか、バルボーザが低く飛び込んで飛行機投げ一閃。見事にヒメネスを舞わせたバルボーザは、次の瞬間にヒメネスの右腕を掬って腕十字へ。うつ伏せの状態で強烈に極めにゆく。

が、ヒメネスは回転してバルボーザの体をまたぎ、腕を抜いて肘のポイントをずらすことに成功。さらにバルボーザの背中とマットの間に飛び込んでのバック取りで逆襲に転じるヒメネス。が、バルボーザが腕を伸ばして距離を作ると、ヒメネスは上のポジションを選択した。

この一連の攻防で、バルボーザの方にアドバンテージが2つ与えられた。見事な飛行機投げがテイクダウンポイントを認められなかったのは、投げたバルボーザがポジションが固定される前に腕十字を仕掛け、結果として下になったからなのだろう。それにしても慎重な戦いを貫くイメージの強いバルボーザが、電光石火の投げを決めるや否や、ポイントの確保もままならぬままリスクを犯して極めを狙いにいった姿は印象的だった。

下になったバルボーザは、ヒメネスの右にデラヒーバで絡む。バルボーザの両足を正面から飛び越えようとするヒメネスに対し、バルボーザはヒメネスの両足首を持つと、後ろに倒して尻餅を作らせ、さらにそのグリップをキープしたままシットアップし、さらに立ち上がってみせた。こうして下になっても上を取り返せる自信があるからこそ、思い切った極めを狙って行けるのだろう。

試合がスタンドに戻ると、両者は再び頭を付け合っての攻防に。重心の低いバルボーザをテイクダウンするのは難しいと見たか、ヒメネスが引き込み。クローズドガードを作るが、天下一品のベースを誇るバルボーザのバランスは崩せず。残り2分のところでヒメネスは距離を取って立ち上がった。

スタンドの攻防に戻ると、バルボーザは再び両膝を付きながら飛び込み、今度は背負い投げに。またしても見事にヒメネスの体を一回転させて上を取ったバルボーザは、オーバーアンダーでかみつく。今回は2点を確保したバルボーザは、ヒメネスが動こうとするところで、すかさずバックに付いてシングルフックを入れてみせた。

両足フックは許さず、下から体をずらし続けるヒメネス。残り40秒のところで正体して上になることに成功した。が、ここでもバルボーザは、下からヒメネスの両足のパンツをしっかり掴んでパスを許さず、時間切れ。点数こそ2-0だったものの、2度にわたって豪快なテイクダウンを決め、さらに腕十字やニアバックで攻め込んだバルボーザの完勝だった。

これまで上になったら漬物石の如く動かない戦いが目立ったバルボーザが、ダイナミックに極めを狙う姿勢を見せての圧巻の勝利。結果として2度に渡って下になったが、ここでも強烈なパンツグリップを用いたオープンガードを駆使し、ヒメネスに付け入る隙を許さず。難攻不落のトップゲームを持つ怪物は、ここにきてさらに恐るべき進化を遂げている。

<ミドル級GP1回戦/7分1R>
ミカ・ガルバォン(ブラジル)
Def. 0-0 アドバンテージ1-0
レアンドロ・ロ(ブラジル)

いきなり実現したGP最大のドリームカード。駆け足で入場してきたロは、舞台に上がると気合十分のジャンプ。なんとも凄まじい跳躍力だ。それに挑む神の子ガルバォンの方は、リラックスした表情でマットをジョギング。対照的な両者だ。

場内の盛り上がりが最高潮に達する中、両者がハグして試合開始。体格でやや劣るガルバォンだが、積極的に前に出てロの襟を掴んでは足を飛ばしてゆく。やがてガルバォンから飛びついてクローズドガードに入った。

すかさず腰を上げ、膝を入れてガードを割りにかかるロ 。しかしガルバォンはロの右腕を抱えると、ガードを閉じたままブリッジをするようにロの右腕側にスイープ。完全に体勢を崩されたロだが、すぐに体勢を立て直して再びインサイドガードに入った。

次にガルバォンはロの右腕をクロスで引き寄せる。ロが抵抗すると、ガルバォンは今度は左手を狙いに。ロがこれも防ぐとガルバォンは再びロの右腕を取って脇に抱える。世界最高峰のトップゲームを誇るロが、ガルバォンが下から仕掛けるグリップバトルで完全に後手に回らされている。

ハイガードを取ったガルバォンは、次の瞬間左足をロの顔の前にこじ入れてオモプラッタへ。ロもすばやく反応し背筋を伸ばし、立ち上がりながら腕を抜く。それにしても、トップにいるロを防戦一方に追い込むガルバォンの攻撃力は凄まじい。

再び座ったロは、腰を引いて距離を作ってから右膝を入れてガードを開きにかかるが、またしてもガルバォンはその右腕を取ると、両腕で抱えて伸ばしにかかる。ロは再び座ることを余儀なくされた。

ロは再び腰を引いてから右膝を入れる。が、ガルバォンはここもブリッジをしながらのスイープへ。体勢を崩された後に持ち直すロ。ここまで4分。手足が長いというよりがっしりした体格のガルバォンだが、ロにパスガードの体勢を作ることすら許さない、恐るべき懐の深さのクローズドガードだ。

再びロが腰を引いて距離を作ると、ガルバォンはハイガードへ。ロがそれでも右膝を入れにかかると、ガルバォンはロの右腕を脇で抱えつつ、再び左足をロの顔の前にこじ入れながら伸ばしにかかる。右腕が逆方向に曲がるほどの強烈な極めだったが、ロは耐えて腕を引き抜いてみせた。

この攻撃で、残り2分20秒のところでついにガルバォンがアドバンテージを獲得。が、この先制点と腕を極められかけた代償として、ロはようやくガルバォンのガードを開かせたまま右足を入れる状態を作ったのだった。侵攻を狙うロは、一気に重心を前にかけると、ガルバォンの頭を抱えて胸を合わせにかかる。が、ガルバォンは両足でロの下半身を浮かせつつ、両腕のフレームを効かせて距離を作る。さらに回転してインヴァーテッドを駆使したガルバォンは、アドバンテージを許すことなく正対することに成功した。

残り2分。ガルバォンはロの右足にデラヒーバで絡む。ロは再び前に重心をかけてガルバォンの上半身を殺しにかかるが、ここもガルバォンは足を効かせて隙間をキープし、ガードを閉じることに成功。残り1分半。侵攻を試み続けるロはまたしても腰を引いて距離を作り、右膝を入れた。

するとガルバォンはガードを開くと、ロの右腕にラッソーで絡み、左腕にはスパイダーを作る。そこからロを左腕側に崩すガルバォンだが、ロもバランスを保つ。防がれても猛攻を試み続けるロと、守り一辺倒に入ることなく反撃を試みるガルバォン。事前の期待を裏切らない凄まじい攻防だ。

残り1分。ロが立ち上がると、ガルバォンは右足にデラヒーバで絡む。ロは前のめりに両手をマットに付け、側転するような形でガルバォンの足を越えにかかる。が、この動きでできたスペースができた瞬間を逃さずに、下から動いてロの右足を掴みにゆくガルバォン。さらに足を使って崩しにかかるが、ロはバランスを保った。

残り30秒。時間のないロは立ち上がると、またしても大きく前方に飛びこんでガルバォンの上半身を力技で制しにゆく。が、ここでもガルバォンは下から入れた右膝を利かせ続け、さらに左手ではロのパンツを掴んでコントロールを許さない。やがて残り時間が数秒になると、もはや逆転は不可能と悟ったロは体の力を抜いてマットに崩れ落ちる。ガルバォンがそのまま上になったところで極上の7分間が終了した。

もはや精魂尽き果て、マットに大の字になるロ。やがて立ち上がった後も全身で悔しさと落胆を表現しており、年下相手に全力で挑んで負けたという事実を隠そうともしない、ある意味きわめて潔い敗者ぶりだ。そんなロに対して、勝者ガルバォンはなんとも爽やかな笑顔で握手を求めたのだった。熱すぎるヴェテランと、リラックスした若者。試合開始前同様に対照的な両者だった。

それにしても恐るべしはガルバォンの技術の高さだ。試合の前半から中盤にかけてはガードから厳しい一方的に攻撃を繰り出し続けてロに反撃の緒を与えず、後半はロが全力を振り絞って仕掛けるパスを全て危なげなく防ぎ切る。攻守共に凄まじい力を見せつけた。

「柔術の神の子」の渾名に相応しい驚愕のパフォーマンスをまたしても見せてくれたガルバォンと、なりふり構わず力の全てを出し尽くし、堂々と散ったレジェンド・ロ。両者ポイントもなく派手な動きが続出したわけでもないが、二人の世界最高峰の柔術家が、誰も及ばぬ至高の技術を正面からぶつけ合った珠玉の名勝負だった。

残りの1回戦の試合では、まずは18年茶帯ミドル級世界王者のレオナルド・ララがイザッキ・バイエンセのイザッキ・バイエンスの代打として登場したウィルソン・オリヴェイラと対戦。テイクダウンを受けた際に膝を負傷するアクシデントに見舞われたにもかかわらず、治療を経て復活し──相手の合法的な攻撃を受けて一度試合続行不可能になった時点で、なぜ試合終了とならなかったのかは謎だ──終盤に逆転のパスガードを決めて5-2で勝利した。

もう一つの準決勝では、18年の茶帯ミディアムヘビー級世界王者にして、昨年のBJJ Bet大会におけるノーギトーナメントにてミカ・ガルバォンの極めを凌いで勝利したマウリシオ・オリヴェイラが、ペドロ・マチャドと対戦。引き込んだマチャドのラッソーガードに対してバランスを保ち、ニースライスで攻め込む等の見せ場を作ったことが評価されて、ポイントもアドバンテージも0-0ながらレフェリー判定勝ちを収めた。

かくして準決勝は本命バルボーザ対ララ、もう一試合は神の子ガルバォンとオリヴェイラによる注目の再戦が実現することとなった。

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