【CJI2024】レポート─03─80以下級準決勝。堅実なリーヴァイ、ケイドはアンドリューとの歴史的バトル制す
【写真】静✖動、陰と陽というべき対象的なファイナリストが誕生した(C)SATOSHI NARITA
16日(金・現地時間)と17日(土・同)の二日間にわたって、ラスベガスのトーマス&マックセンターで開催されたクレイグ・ジョーンズ・インビテーショナル(CJI)。驚愕の優勝賞金100万ドルが用意されたこの大会のレビュー3回目は、80キロ以下級の準決勝2試合をレポートしたい。
Text by Isamu Horiuchi
<80キロ以下級準決勝/5分3R>
リーヴァイ・ジョーンズレアリー(豪州)
Def. 3-0 30-26. 29-27.30-26
ルーカス・バルボーザ(ブラジル)
バルボーザは横に動いてのパスを仕掛けるが、リーヴァイは足を効かせて対処する。
さらにバルボーザが重心低くプレッシャーをかけてゆくが、リーヴァイが侵攻を許さないまま1R終了。このラウンドの判定は一人が10-9でバルボーザ、二人が10-9でリーヴァイと割れた。
ちなみに今大会の採点基準は、まず最優先事項として(1)「有効な攻撃を先に仕掛けること」があり、次に(2)「そこからさらにポジションを進めたりサブミッションを試みること」。もし、それらで優劣が付かないなら最後に(3)「ポジションでの優位性やペースの支配」が判断される。
そこを考えた場合、最初の採点基準である「先に仕掛ける」ことをしていたのはバルボーザの方だろう。だから彼に付けるべしという見解はあり得るが、その仕掛けが「有効」だったと言えるかは疑問だ。ならば(2)のポジションの進行やサブミッションの試みを見ることになるが、これらは両者ともに見られなかった。そこで(3)のポジションやペース支配が最後の判断基準となるが、きわめて拮抗したこのラウンドはここでも明確な勝者は存在せず、最終的にはジャッジ一人一人のグラップリング観やその時の視点により判断が分かれることだろう。かくしてジャッジが割れたことに不思議はない。
2Rも当然のように下のリーヴァイと上のバルボーザの展開が続く。
このラウンドはリーヴァイが内回りや内側から相手のヒザ下に腕を通して引きつけてのKガードの形から崩す場面が散見された。
また低く入ってくるバルボーザの首元に、リーヴァイが左足首を突っ込んでのゴゴプラッタ狙いを見せることもあった。
バルボーザも危なげなく対処はしていたものの、上記の採点基準で考えた場合、どちらが取ったかの判断はそこまで難しくない。ジャッジ3者とも3-0でリーヴァイを支持した。
3R。後のないバルボーザは右に動いてプレッシャーを掛け、さらにリーヴァイの頭側に回る。
インヴァーテッドの形で対処したリーヴァイは、下からバルボーザの右腕を抱えると、そのまま右足をファーサイドに回してワキにねじ込んでチョイバーへ。
腕を伸ばされまいと腹這いになって耐えるバルボーザ。ここでリーヴァイはそのまま体を旋回させて続けてバックに着くと、四の字フックを完成。ラウンド序盤に圧倒的な有利なポジションを確立してみせた。
その後バルボーザは腕で足のフックを解除しては懸命に体をずらそうと試みるが、リーヴァイはバックをキープ。再び四の字を組み直してそのままの体勢を保ったまま試合終了。このラウンドは大差が付き、リーヴァイが判定で完勝となった。
階級上の怪物バルボーザの恐るべき体圧を見事なガードワークで捌き切り、さらには見事なサブミッションの仕掛けからバックを奪って完勝したリーヴァイ。ルオトロ兄弟の台頭に代表されるように、トップゲームで圧力をかける戦い方が主流になってきている昨今のグラップリング界において、あえて下からのガードゲームを貫いて超大物を制してみせたことの意義は大きい。この世界は多様な方向で進化を続けるのだ。
<80キロ以下級準決勝/5分3R>
ケイド・ルオトロ(米国)
Def. 2-1 29-27.29-28.29-27
アンドリュー・タケット(米国)
前日素晴らしい戦いで観衆を魅了した21歳同士による、大注目の準決勝戦。まずはタケットが思い切り良くダブルに入るが、ケイドもすかさず必殺の小手に巻いての投げで豪快に切り返す。
すぐに立ったタケットはさらに前に出るが、ケイドはまたしても小手に巻いての内股へ。
再び大きく宙を舞わされたタケットだが、その体が傾斜壁に跳ね返って着地に成功すると、ボディロックをキープして突進。
またもや小手から投げを試みるケイドだが、両者の体が壁にぶつかる勢いで腕が抜けてしまい、すかさずタケットがバックに。
壁際ですぐにボディトライアングルを作ると、壁の傾斜にもたれかかった両者の体が滑り落ちて試合はグラウンドに移行した。開始早々、傾斜壁に囲まれた新しい舞台にて、恐るべき思い切りの良さとアグレッシブさを身上とする二人の若者による、ダイナミックにしてアンプレディクタブルな、今まで誰も見たことがないような攻防が展開されている。
とまれグラウンドで有利な体勢を奪ったタケットは、強烈なフェースロックへ。が、ケイドは体をずらして起き上がって正対に成功。するとタケットも立ち上がり、会場からは大歓声があがった。
ケイドは支え釣り込み足で崩すが、持ち直すタケット。すると今度は先ほどとは逆にケイドの方が差しからタケットを押してゆき、逆にタケットが投げに。
それをなんとか持ち堪えるケイド。
またしても差しにゆくタケットに対して、ケイドはその腕を一瞬でスタンディングのフランク・ミア・ロック(かつてUFCでフランク・ミアがピート・ウィリアムスを極めた形)に捉えて絞り上げるが、タケットは腕を抜く。
その後もお互い激しく組み合って足を飛ばしあい、バランスを保つ展開に。グラップリング試合においてレスリングの攻防が続くととかく退屈なものになりがちだが、この二人にはまったく当てはまらない。残り30秒、ケイドはタケットの体を崩して横に付くと、さらにワキを潜ってバックを狙う。
タケットはここでまたしても豪快に投げるが、ピッタリと背中に付いていったケイドはハーフ上の体勢でグラウンドに。
タケットがクローズドガードを取り、ケイドはその首を抱えてカンオープナーを仕掛けるなか驚愕の1Rが終了した。
判定は3者とも10-9でタケットに。2022年のADCC世界大会にて、神童ミカ・ガルバォンを倒して頂点に立ったケイドの真骨頂は、誰にも付いてゆけないほどダイナミックに動き続けることにある。しかし、タケットはまさにケイドの土俵であるはずのウルトラハイペースの混沌状況の中で動き勝つという離れ技をやってのけた。とはいってもラウンド終盤に近づくにつれケイドの勢いが増し、相対的にタケットの動きはやや落ちはじめてきているようにも見えた。
2R、引き続き激しくいなし合い崩し合う両者。ケイドは前に出るタケットの首を掴んで引き倒すと上からクルスフィクスを狙うが、タケットは立って凌ぐ。ならばとケイドはスタンディングからキムラに入るが、ここもタケットは腕を抜いてみせた。
さらに組み合う両者。やや体の軸がぶれてきたかのように見えるタケットだが、手四つに組んだ両手を上げてスペースを作ると同時にシュートインしてシングルへ。
ケイドの右足を抱えてタケットが立ち上がると、片足で堪えるケイドは豪快に飛んでカニバサミへ。
そのままタケットの右足に絡んで内ヒールを狙うケイド。ヒールを露出させられかけたタケットだが、回転して足を抜いて立つ。
と同時にまたワキを差してケイドを押してゆく。するとここでまたしてもケイド必殺の小手からの内股が豪快に炸裂。ハーフで上を取ってみせた。驚愕のノンストップバトルはまだ止まらないが、まるで動きの落ちないケイドが徐々にタケットを呑み込み始めているようだ。
ケイドは右を深く差してウィザーに。長い腕を用いて得意のダースを狙える体勢だが、ケここで一瞬逆に左腕を深く入れてアナコンダグリップを作る。そこから改めて右を深く入れ直して再びダースへ。
回転して逃げるタケットに対して、ケイドはノースサウスチョークに移行。絶体絶命と思われたタケットだが、右腕をケイドの顔の前に捻じ込んでスペースを確保して決して諦めない。やがて隙間を作ってガードの中にケイドを入れた。
ならばとタケットは内側からケイドの左足を引き寄せると、外掛けからヒザ固めに。
しかしケイドは動じず、左足にトーホールドを仕掛け、上をキープしてこのラウンドを終えた。
判定は一人が10-8 残り二人が10-9でチョークを極めかけたケイドに。徐々に差を付けられはじめたタケットだが、勝負を諦める様子は毛頭ないようで、力の限りの攻撃を仕掛け続けている。
3R、いきなりシュートインしたタケットは、そこからワキをくぐってバックへ。ケイドが前転するがタケットは背中から離れない。それでもケイドは仰向けになり体をずらすと、タケットはケイドのガードの中に入って上のポジションを取った。
ケイドは下からバギーチョーク狙いを見せると、すかさず距離を取って立ち上がる。
ケイドはその足を両手で押し落としながら反転して上に。ならばとタケットも素早くワキを差して立ち上がる。ケイドが右で小手を巻くと離れる両者。残り3分。さすがにケイドの動きもやや落ちてきたように見えるが、会場を震撼させ続けているインクレディブル・ウォーはまだまだ止まらない。
凌いだタケットはダブルに入るが、ケイドは強靭な腰で受け止めると逆にダブルレッグのお返し。受け止めようとしたタケットだが、ケイドの勢いは止まらず。
キャンパスに雪崩れ込むような形でテイクダウンに成功した。上からケイドは右ワキを差してニースライスを狙うが、ニーシールドで耐えるタケット。グラウンドにおけるポジション争いの鍔迫り合いにおいても、両者の攻防は全く目が離せない。2Rを失ったタケットとしては、なんとかここを脱出して上を取り最後の攻撃を仕掛けたいところだ。
やがてガードの中に入ったケイドはタケットの首を抱えて圧をかける。立ち上がってタケットのガードをこじ開けると、すぐにタケットはスクランブルに。するとすかさず反応したケイドはスプロールしてアナコンダのグリップを作る。
そのまま傾斜壁に座るような形で絞り上げるケイド。さらにクローズドガードに移行してフィニッシュを狙うが、タケットは首の力と執念でケイドの全体重を持ち上げて抜いてみせた。
残り10秒、最後まで諦めないタケットがパスを狙いにゆくが、ケイドは右足首をタケットの喉元に捻じ込んでゴゴプラッタでカウンターするうちにタイムアップ。
立っても寝ても両者止まらない攻防のダイナミックさと激しさという点で見るなら、文句なくグラップリング史上最高の名勝負と呼べる試合が、ついに終了した。立ち上がってハグする両者。グラップリングの明るい未来を象徴するが如き、驚きに溢れた大激闘を展開した21歳の若者二人を、会場はスタンディングオベーションと大歓声で称えた。さらには「One more round!」という無茶なチャントまで発生するが、これほどの試合をこなしてなお余力十分、まさに無尽蔵のエネルギーの持ち主のケイドはこれを両手で煽り立てたのだった。
判定は29-27, 27-29, 29-28でケイドに。勝者は「まずタケット兄弟二人に敬意を表したい。これが本物の柔術さ! リアルなテクニックとアンリアルなスクランブルだ! こんな試合は一人じゃできないからね。(前日上の階級で大健闘を見せた)ウィリアム(タケット)も凄かったよね! 決勝戦に向けてものすごく気分が上がっているよ! ただ彼(決勝の相手のリーヴァイ)が、何をやりにここに来ているのか分からない面もあるよ。もうちょっと膠着に対する警告の仕方を変えた方がいいんじゃないかな! 最初からガードで座っているのって簡単すぎるじゃないか。ただの僕の意見だけどね。まあ僕だってガードをプレイするのは大好きだけど、もし僕が(腰を引いた姿勢を見せて)スタンドでこうやって下がって、相手が無理に仕掛けてくるのを待っているだったら、膠着の傾向を受けるべきだよね。まあともかくリーヴァイのガードは凄いよね! 決勝がものすごく楽しみだ!」と語る。
スタンドでもグラウンドでも攻撃を仕掛け続ける、現代グラップリングの魅力の全てを集めたような戦い方で大観衆を魅了したケイドは、このアピールを通して、自らとは対極的な──しかし別の意味で洗練を極めた──ガードの使い手であるであるリーヴァイとの興味深い対立軸までしっかり観客に提示してみせたのだった。
究極のダイナミックグラップラー=ケイド・ルオトロと究極のガードプレイヤー=リーヴァイ・ジョーンズレアリー。組技格闘技に深く拘っているあらゆる人間たちにとって興味深い、対照的なグラップリングスタイルとフィロソフィーの頂点を窮めた両者による対決
が実現することとなった。