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【Special】月刊、水垣偉弥のこの一番:3月:MMA SUPER CUP「彼らはアマチュアなんですよね?」

【写真】元日本のエースを驚かせた──アマチュアファイターたち (C) MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、水垣偉弥氏が選んだ2022 年3月の一番……は、9・10&12日に開催されたMMA SUPERCUPについて語らおう。


──水垣さんが選ぶ2022年3月の一番をお願いします。

「今回、1試合というのではなく大会単位になるのですが、MMA SUPER CUPでも構わないでしょうか」

──もちろんです。逆にそこを語ってくれますか!! バーレーンで行われたIMMAF上位国によるチーム対抗戦、アマチュアMMAになります。

「ハイ、高島さんがバーレーンに行くってSNSで書かれていて……F1のバーレーンテスト云々と」

──はい、4月1日でもないのにカマしていました(笑)。実際は今、水垣さんが言われたMMA SUPER CUPとBRAVE CF57からなるBRAVE International Combat Weekの取材のためにバーレーンを訪れました。同じ週にF1のバーレーンテストが行われていて、翌週がバーレーンGPだったのでふざけてSNSに書くと、信じてしまう人がままいて……猛省しています。

「アハハハ。でも僕なら絶対に足を伸ばしちゃいますよね。F1のシーズン前のテストを見ることができるチャンスなんて、滅多にないですから(笑)」

──確かに滞在していたマナーマ市内から車で30分ほどの距離にバーレーン・インターナショナル・サーキットがあり、自分が空港に到着した時もF2やF3のボードを持って客待ちしているグループがありました。

「えぇ、そうなんですか。凄いですね。F1は盛り上がっていましたか」

──砂漠の国なので昼に人が外を歩くということが風習としてあまりないようで。ただ空港や街中はF1のビルボードとかもよく見られました。ただ自分が滞在したホテルや近くのモールはBICW一色でした。

「ところでバーレーンは、コロナの方はどうだったのですか」

──グリーン指定の国なので、屋内ではマスク着用。もう、それ以外の規制はなかったです。入国に陰性証明も要らないですし、SUPER CUPもBRAVE CF57も揃って選手、運営陣、メディアのテストもありませんでした。

「えぇ、でもF1ではアストンマーチンのセバスチャン・ベッテルが陽性で欠場になり、ニコ・ニュルケンベルグが代役出場していたじゃないですか」

──ハイ。コントロールできていると判断されている国だから入国に検査もなく、入国できます。そこでプロ&アマ4日間の大会ですし、食事はビュッフェ・スタイル。『これはいつ感染してもおかしくない』って思っていました(苦笑)。

「ですよね。いやぁ、それは怖いですよね」

──そうですね。症状以上に帰国できない。帰国後1週してシンガポールに行くので、隔離になりたくないという気持ちでした。取材以外はスーパーへの買い出しと、最後の晩にお世話になった関係者と食事をした以外はホテルの部屋から出なかったです。そういえばバーレーン入りした便に、メキシコ人がたくさんいて凄く盛り上がっているから、チェコ(セルジオ・ペレス)の応援団かと思っていたら、SUPER CUPの出場選手でした。

「アハハハハ。僕はIMMAFのことは名前程度しか知らなくて、SUPER CUPのことも知らなかったです。で、MMAPLANETに旅日記調で触れられていて、どういうものかIMMAFのサイトにマンスリー会員になって映像を視てみたんです」

──スバリ、どうでしたか。

「正直、驚かされました。色々と驚かされたことはあるのですが、彼らはアマチュアなんですよね?」

──ハイ。

「いやぁ、バーレーンやカザフスタンの中心選手はプロレベルというだけでなく、既に相当なレベルにあるように感じました。レスリング、ケージ・スクランブルも慣れたモノで。それだけでなくアイルランドやチーム・オセアニア勢もしっかりとMMAが出来ている。ウェルラウンディットという意味ではアイルランドとオセニアは、バーレーンやカザフスタンよりも現代MMAでした」

──実は現地入りしてからもBRAVE CFの取材がメインで、SUPER CUPはついで。そういう意識でいたのですが、アイルランド✖チーム・オセアニアの準々決勝を見て、認識が変わりました。SUPER CUPも可能な限り取材をしようと。

「分かります。僕もあの試合から映像を確認したのですが、アイルランドの選手達って、普通にスイッチを使いこなしていて。

組んでもMMAとして形になっている。アイルランドだから、それだけ地盤があるのでしょうけど、レベル的にはもう相当でしたね。レガースを着けていることに、違和感がある。それが第一印象です。プロじゃないのか……というのが。

それとトーナメントなのでケガをせずに戦うということなのか、テクニック優先でラフなことがない。ただ激しくないということではないです。あと、気になった選手は名前など覚えますけど、これだけ選手が出ていた名前と顔が一致しないなかでチームが統一のユニファームで戦うのは分かりやすくて良かったです。

あれは日本人チームとか誕生すると、見ている人も感情が搔き立てられると思います。

まぁバーレーンはダゲスタンとブラジルの連合チームじゃないかって思いますけど(笑)」

──そこはバーレーン流と言いますか(笑)。以前、サッカーのW杯アジア予選で日本と戦ったバーレーン代表はナイジェリアから2人、モロッコ、チャドとアフリカからの帰化選手がいました。これは中東全般でも見られ、バーレーンだけでなくオマーン、バーレーンの陸上選手はケニア、エチオピア、ウガンダ、タンザニアからの帰化選手が目立っています。ブラジル人はともかく、ダゲスタンの選手はイスラム教徒でしょうし。まだ共通点があるのかって感じですね(笑)。

「そのダゲスタン勢が強かったです。みな、レスリングがデキる。いえ、デキる以上ですね。準々決勝を終えて、そういう印象を持ったのですが、最初に出てきた女子選手にも驚かされました」

──アリーサ・ベルトソですね。

「立ち上がりを見て、ジャブが伸びてワンツー、ローや前蹴りを繰り出す選手。ブラジルのMMAファイターだし、下もそこそこできる打撃&柔術という風に勝手に予想を立てていました。でも──あの打撃から前に出ると、バシッとダブルレッグでテイクダウンを決めていましたね。あれは意外でした。

あの打撃スタイルの選手は、普通は遠くからの打撃戦で削って、相手のテイクダウンを切る。テイクダウンされても、下で戦える。そういう選手が多いじゃないですか。でも、彼女は打撃で勝っていてもテイクダウンに行きました。

後から出てきた男子選手の戦い方を見ていると、あの女子選手も同じジムで練習しているんですよね?」

──ハイ。KHKジムで練習をしています。ダゲスタン出身、BRAVE CFスーパーライト級王者エルダル・エルダロフがヘッドコーチです。エルダロフはキャリア13勝1敗、18歳の時にキャリア6戦目のカビブ・ヌルマゴメドフに唯一の黒星を喫した現役ファイターでもあります。

「なるほどぉ。そういうコーチがいるから、テイクダウンの仕掛けが強いんですね。そこがないと、あの打撃があってテイクダウンにいくという戦い方にはならないと思います。そこが印象的でしたね。

しかもこのベルトソは下になった場面でも、どんどん極めを仕掛けて。下からも強かったです。打撃と下かと思うと、テイクダウンができた。だから寝技は上攻めかと思ったら、下からもキレキレで──結局、全部できるのかと」

──それでもアマチュアです。

「もう、日本のアマチュアとは比較にならないです。正直、レベルは日本だとプロのベルトを争えるレベルだと。その次に出てきたビア・バジリオも、強烈な極めの強さでサクッと腕十字で勝ちました」

──彼女は2019年のADCCの女子60キロ級で優勝している選手です。

「えぇ、そうなんですか。寝技が強くて当たり前じゃないですか。もちろん、彼女もブラジル人ですよね。いやぁ……そこから出てきた男子はハジ・モハメド・アリ、ラマザン・ギチノフとか本当にレスリングが強かったです。特にラマザンはエグイですね。相手も強かったですけど、アナコンダでしっかりと勝って。

このブラジル&ダゲスタン連合のバーレーンがぶっちぎりだと思ったら、準決勝で彼らと戦ったカザフスタンが……また強かったです」

<この項、続く

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