【Special】月刊、柏木信吾のこの一番:3月:アダム・ボリッチ✖マス・ブーネル「5R制」
【写真】この距離で打撃戦を続けたボリッチとブーネル (C)BELLATOR
過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、柏木信吾氏が選んだ2022年3月の一番。12日に行われたBELLATOR276より、アダム・ボリッチ✖マス・ブーネル戦について語らおう。
──柏木さんが選んだ3月の一番は?
「Bellatorフェザー級のアダム・ボリッチ✖マス・ブーネル戦です。これは良い試合でしたねぇ。面白かったです。ただ、この試合は生より映像で視た方が面白いのかなって思いました」
──まさに洋モノですね(笑)。実際だと躊躇してしまいそうで、でも映像なら大丈夫というか……。
「何を言っているんですか!! 水垣さんにはF1が出てきて、なんで僕にはエロ方向へ、振るんですか(笑)」
──いやいやいや……我々の過去の10年の付き合いでMMAに次ぐ話題がそうだったので(笑)。
「僕、今ではそういうキャラじゃないので(笑)。でも、すぐにボロがでるでしょうし。まぁ、生では……」
──野獣みたいで怖いじゃないですか……。
「それよりボリッチ✖ブーネルの話をしましょうよ」
──そういう意味では個人的に両者揃って野獣的ではなかったかと。
「えぇ? そうですか。凄くハイレベルで面白かったと僕は思いました。この試合は日本では見ることはできない。あの内容は……。それが正直な感想です。ここまでの試合、日本で見ることができますか?
あれを5Rやり抜く、凄まじいです。5Rを意識した戦い方、あれを25分やり切るのは本当に凄いと思いました。MMAグローブで、あの距離で殴り合うなんて」
──私は正直、これなら怖くないと思ったんです。2人とも強くて、上手くて、タフです。ただぶっ殺してやるという怖さのある殴りではなかった。このボリッチなら朝倉未来選手、松嶋こよみ選手らは臆することなく戦えると。
「あぁ5Rを考えて、僕が上手く戦ったというところが、そういう風に見られたわけですね。クリーンヒットの数は凄く多かったですけど、試合が終わる空気はなかったです。それも確かです」
──当てるけど、終わらせる意識が少ない。それは疲れないため。5Rを想定してそうなったのかと自分は感じました。勝てる、負けるは別にして──なら朝倉未来、松嶋こよみなら対抗できると。あれぐらいの気迫指数なら。
「なるほどぉ。それとグラップリングをしていないですよね。組みに行かないし、組んでも長続きしない。5Rを戦い抜くためにセーブしている部分があったのは確かです。疲れることをせずに、離れてリセットしていたようで」
──柏木さんはそこも踏まえて両者が巧くて、素晴らしかったと。
「そうなんです。いやぁ、面白いですね。一つの試合で、両者の強さを認めたうえで意見が相反してくる。これが3Rだと彼らも違う戦い方をしていたでしょうね。それが5Rだと殺気が薄れた、野獣のようではなかったということですね。そこは分かります。綺麗に戦って、イカレた部分がなかったですから」
──ハイ。なら日本人選手も立ち会える。ボクシングなら12R戦って、勝てますし。それとブーネルに関しては、もっと組むと思っていました。あれだけ近距離でボクシングができるとは露知らず、ジョン・フィッチのコントロールにパウンドが加わるようなファイトをするのだと。
「まぁジョン・フィッチになるとプロモーター側は、それが良い戦い方だとは言い辛いですけど(苦笑)」
──アハハハ。結果、テイクダウンを奪ったり、クリーンヒットの数が多いという判断でしょうか。ボリッチが3-0で判定勝ちを収めました。ただ……。
「50-45はないですよね(笑)」
──あり得ないと思います。
「2Rもブーネルが失って48-47もあるかと思いましたけど、49-46が2人いましたね。とはいえ3Rがボリッチというのはないです」
──あの3Rがボリッチなら、どういう風に戦えば攻勢と判断されるのか分からないですね。
「本当にそうだと思います。ボリッチの勝ちで良いかと思いますけど、あの試合で50-45は……。にしてもボリッチの良さが出ましたね。打撃の選手は数多くいても、ボリッチのように遠距離、中距離、近距離の全てで武器を持っているファイターはそんなにいないと思います。どの距離でも攻撃できて、25分間やりきった。アレをやられると、ブーネルは全ての距離がボリッチになるので難しいだろうなと思いました」
──下がって誘うことができるのもボリッチの強味ですね。その一方で、接近戦ではブーネルの左ボディが相当に効いていたようにも見えました。
「あれ、なぜブーネルが打つのを止めたのか。腹を意識させて、テイクダウンを狙うとか行って欲しかったです。そうすればボリッチが受け身になる展開もあったかと思います。優勢の間に組まない。逆にテイクダウンを取られましたからね。やっぱり5R制という部分が影響したのでしょうかね。
あのハイペースで組みから寝技をなるとヘトヘトになるから、あえてしなかったのか。ボリッチの苦手な部分で勝負しなかったのはそういうことなのかもしれないですね」
──5R、テイクダウンとスクランブル、寝技もあって殴り合いもある。それって今やACAだけではないかと。もう、どういうことなのか明白ですよね。
「……そうですよね(笑)。凄く分かりやすいです」
──サムシング・スペシャルのない人間の戦い。凄くリアルなボリッチ✖ブーネルだったかと思います。加えて15日のAJ・マッキー✖パトリシオ・フレイレの再戦、その勝者への挑戦はほぼ決定でしょうし、ボリッチは5Rを試したのか。
「そうなりますよね。挑戦者決定戦とはいわずタイトル・イリミネーションマッチと名乗っていたので、ズルいですけど(笑)。ブーネルの脱落は決定ですよね。勝ったボリッチは、こういうこともデキたのか、と。こうやって25分戦えるボリッチの世界王座挑戦、個人的にも凄く楽しみです」
<この項、続く>