【Special】月刊、柏木信吾のこの一番:1月:バルゾラ✖コールドウェル「逆転のラティーノ!! 自滅の…」
【写真】ポイントではリードしていたコールドウェルは、3Rにバックコントロールを許すと動かなくなった…… (C) BELLATOR
過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、柏木信吾氏が選んだ2022年1月の一番。29日に行われたBellator273より、エンリケ・バルゾラ✖ダリオン・コールドウェル戦について語らおう。
──柏木さんが選ぶ2022年1月の一番をお願いします。
「Bellator273のエンリケ・バルゾラ✖ダリオン・コールドウェルのバンタム級戦です。コールドウェル、確かな技術があるのに勿体ないですね。本当に勿体ないです、あのガス欠は……。
フェザー級の方が合っているということで階級を上げて、勝てず。バンタム級に戻してきて、この試合。メンタルが弱いのか、根性が足らないのか。精神力になってしまいますね(苦笑)。バルゾラに対し、あの序盤のテイクダウンとコントロール力、素晴らしいものがあると思うんです」
──ハイ。
「体力があるうちは、常にバルゾラを上回っていたのに。あの負け方は勿体ないです」
──2Rまで確実にリードしていた。なら3R、あと2分とかもう少し粘ろうという動きが見えて然りだと思うのですが、あそこまで動かなくなるのは……。柏木さんが言われたように精神面かと思ってしまいます。
「最終回、シングルレッグを切られてバックに回られた。そこからですね」
──MMAを伝えるという仕事をしていて、読者の皆さんに伝えたいのは、普通はできないこと。自分らでは、できないことを選手に投影する。それは動きだけでなくて、諦めない気持ちも大きいと考えています。日曜日の朝にベラトールを見ている人たちにとって、選手の頑張りが明日への活力になるような。
「ハイ。結果的に負けたとしても、頑張る姿勢を見たいということですよね。だって、本当にあと2分ですよ。もう少し頑張ればということを頑張り切れなかった。レフェリーのマイク・ベルトラントも最大限に『動け』、『動け』って促しているわけで。『守れ』とまで言っていて。そこで踏ん張り切れない。反撃に出ないばかりか、動かないで防御も甘いとなると、もう試合はストップしますよね。
コールドウェル自身がどう思っているのか分からないですけど、見ている人間からすると残念ですよ」
──堀口選手とMSGで戦った時、ケージに押し込んで動かなかった。それはやはりスタンドに戻りたくないという気持ちの表れだったんだと、この試合を見ると腑に落ちました。戦いに行かないで止まったのは。
「そうですね。とりあえず現状維持という試合でした。まぁジョー・ウォーレンと戦った時とかから見ていると……。あのウォーレンを投げ飛ばして、組み勝つ。バケモノが出てきたと思いましたよね。あの時のインパクトからすると、『どうしたんだ?』と言いたくなります」
──ならフェザー級GPで、柏木さんが大好きなアダム・ボリッチに負けておけよって(笑)。
「アハハハハ。本当ですよ。というのは冗談ですけど、あんな一方的な展開だと……。戦績を見ていると、このところ2勝5敗なのにボリッチに勝っている(苦笑)。それで、AJ・マッキーJrにコロッと負けてしまったり」
――たまらないですね(笑)。全体の盛り上がりを考える立場の人としては。
「プロモーター泣かせです。『もういいや』って投げるのは、彼の普段からの体調管理が試合に影響しているんだと思います。ファイターとして体を創るという作業よりも、体重を落とす作業をして試合に臨んでいるのでは、と以前から感じていました。
というのもRIZINで堀口選手と戦う前に、米国で彼の撮影に立ち会っていたんですけど、試合が決まっているのにこういうモノを食べているんだと思ったことがあったんです」
──おお、フライドチキンとか食べていたのですか。
「いや、さすがにそこまでは……。もちろん、選手それぞれ減量方法は違うので一概には言えませんけど、試合の何週間前という段階で、甘いものとかを食べていて。案の定、大晦日の試合でも減量で大苦戦して。タイトルマッチを組めなくなるんじゃないかっていうぐらい体重を落とすのが大変だったんです。なんとか体重を作って試合はしましたけど、あの時も最後のギロチンは諦めたんじゃないかなって感じでしたよね」
──確かに負けるべきして、負けたような。諦め感のあるタップでした。
「やっぱり天は二物を与えず、ということなのでしょうかね。身体的な能力、バネや体の強さを持って生まれながら、心が弱い。自分に負けるというか。
その逆がラテン系のバルゾラでした。ペルー人ですよ。ペルー、どれだけMMAファイターが強くなれる環境があるんだと。実際には分からないですけど、今ではAKAでやっていたとしても、そこまで辿り着くにはどういう生活を母国していたのか。そりゃあ、気合が入っていたに違いないですよね。
メキシカン、ラティーノって試合を組むという仕事をしているなかで、気持ちが強いという印象があります。逆転勝ちはラティーノに多いです。今回の試合もバルゾラが投げていたら、試合は2Rで終わっていました。でも諦めないですよ」
──2019年の10月にUFCのシンガポール大会をケージサイドで撮影していて、バルゾラがモフサル・エフロエフに判定負けを喫した試合を見たのですが、いやペルー人選手でこんなに強いのかと驚かされたことがありました。
「そうなんですよね。ペルーですよ。本来はフェザー級の選手がTUFラテンアメリカのシーズン2のライト級に参加して、そのチャンスを生かし決勝もアンダードッグだったのにTUFウィナーになった。そしてUFCで戦うチャンスを得た。
でもUFCではずっとプレリミです、戦ってきたのは。その選手がBellatorの元世界チャンピオンに勝った」
──ハイ。UFCでトップ戦線に行く前で6勝3敗1分でした。
「ベラトールとしてはキツイというか、現実を見た想いです。余りにもバケモノが多くて、UFCでは埋もれてしまう。とはいえ、2Rまではコールドウェルは完全に試合をリードしていましたからね。この試合はコールドウェルがコールドウェル自身に負けた試合だったかと思います」
<この項、続く>