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【Special】「あそこを目指して欲しい」。柏木信吾のこの一番から中央アジアの猛者たちへ、プロローグ

【写真】強さを目指すなら、中央アジア勢に目を瞑ることはできない (C)RIZIN FF

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。「柏木信吾が選んだ2024年6月の一番」からスピンオフ、そしてアジアの猛者特集に通じるインタビュー後編。
Text by Manabu Takashima

6月9日に行われたRIZIN47で強いインパクトを残したラジャブアリ・シェイドラフとダウトベック、RIZIN46のイルホム・ノジモフら中央アジア勢の来日について、その背景を柏木氏に語ってもらった。

そこには円安を要因とする現状に合致した最善の強い海外勢の招聘の最善策ともいえるが、同時に中央アジアの猛者を躊躇なく招聘できるのは、RIZINの日本人選手の力があるからだ。実際パンクラスもタジキスタンの選手を招聘しているが、IMMAFからプロデビューという選手たちがランカーを撃破し、GLADIATORへ外国人選手をブックする長谷川賢は「カザフスタンの選手を呼ぶと、今のグラジに出ている選手で勝てない」と断言している。

ダウトベック、シェイドゥラエフの招聘経由、そしてこれからについての柏木氏の言葉が、個々のインタビューへのプロローグとなる

<柏木信吾が選んだ2024年6月の一番はコチラから>


クレベル×ダウトベックは代替カードとして

――そういうなかでRIZIN47にカルシャガ・ダウトベック、ラジャブアリ・シェイドゥラエフの両者を同時に招聘したのは、何か意図があったのでしょうか。

「ダウトベックはもともと良い選手でした。ただ朝倉未来選手に一度負けています。それもあって疎遠になっていたことがあります。そこでTOP BRIGHTSで松嶋こよみ選手に勝って『RIZINで見たい』という声が聞かれるようになりました。

ダウトベックは打撃の選手でフィニッシュできます。マッチアップ次第では皆に喜んでもらえる試合をする選手です。だから、タイミングが合えばと思ってきました。それでも負けている選手を呼び戻すのには、なかなか踏ん切りがつかない……なので、随分と放置してしまっていましたね。

それがRIZIN47では堀口恭司×セルジオ・ペティスとクレベル・コイケ×フアン・アルチュレタという2つのカードが確定しているなかで、誰かが欠けた時にそこに当てはまるピースを考えるとクレベル×ダウトベックは代替カードとして成立する。本来は補欠的ぐらいだったのですが、カードがどんどん決まるなかで、ダウトベックの試合を組もうということになって。すぐに関鉄矢選手に連絡をした感じです」

――力は最初から買っていたということですね。

「ハイ。でも能面なので、なかなかストーリーが創り辛い。キャラが創り辛いというのはあったのですが、あの試合を続けてくれれば――それがキャラになるとは思っていました(笑)。で、実際に試合を見るとやっぱり強い」

――プレッシャーの掛け方、そして踏み込み。関選手が日本人選手のアベレージ的にリトマス試験紙の役割を果たすとすると、悔しいですが違いは明白でした。

「序盤から右に回らされていました。最初はアレ、どういうことだろうと思ったんですけど、それはもうダウトベックにそういう風に動かされていた。左回りができなかった。だからダウトベックはリングの方が良いんじゃいかと思うぐらい、追い足が良かったです。関選手の苦しみが、伝わってくるような試合でした。

上下を散らして、ローからハイを狙っていたと思いますが、あのプレッシャーの強さは……」

――被弾したらしたで、過去に経験したことがない拳だったかと。

「岩みたいだったと言っていました」

――左フックでよく立ち上がったと思いました。しかしフィニッシュの左ボディフックが、また強烈で。

「もっと見たいと思えるファイトでしたよね。寝技がどうなのかというのもありますが」

太田忍選手が手が付けられなくなった時の相手として、シェイドゥラエフは呼びたかった

――ではシェイドゥラエフに関しては?

「シェイドゥラエフはアゼルバイジャン大会をやった時に、中央アジアからアゼルバイジャンに選手を呼ぼうということで、現地のプロモーションやマネージャーと繋がりができました。そのなかの1人が、シェイドゥラフの名前を出してきたんです。僕もRoad FCでヤン・ジヨン戦を見ていたので、ぜひ欲しいと思いました。

ただ最初はバンタム級として考えていたんです。バンタム級は太田忍選手がそろそろ手がつけられなくなってくると思うので。あと3試合、4試合と経験を積むと無双状態になるのではないかと僕は思っていて。太田忍選手が手が付けられなくなった時の相手として、シェイドゥラエフは呼びたかったです」

――おお、そういうことだったのですね。これはもう、今後のバンタム級戦線を見るうえで貴重な意見だと思います。

「そういうことで契約をしたのですが、Road FCでは63キロでも計量を失敗しているので、『62キロで本当に戦える?  RIZINは体重オーバーをした選手には凄く厳しいよ』という話をしました。そうしたら66キロで戦うという返事で、フェザー級になってしまったんですよ(笑)」

――一気に2人も……。こんなに強いの同時に要らないだろうという声が出るのも頷けます(笑)。

「そうですね……僕の中で予定が崩れたというか、フェザー級にはもうダウトベックとイルホム・ノジモフという中央アジア勢とビクター・コレスニックというロシア人選手がいる。もうこれ以上、突っ込む必要がない強烈な駒がバンタム級でなくフェザー級を選んだということなんです(苦笑)。

こういうことになったのですが、バンタム級に強い外国人選手を1人、2人と入れたいと思います」

――う~ん。バンタム要員の予定だったシェイドゥラフが武田光司選手に完勝したという事実は重いです。

「武田選手だったらフィジカル負けはしないだろうと思っていました。同じ生態の選手を当てるというイメージでした。シェイドゥラエフは本当に本物なのか。そういう意味で武田選手と戦うことで分かる。戦績がキレーで、パーフェクトでも実は、それほど強くない選手もいるじゃないですか」

――ハイ。

「ヤン・ジヨンに勝っていると言っても、そこで株が大いに上がるというわけではない。だから武田選手と打撃、フィジカル、四つ組みになった時にどうなるのか。圧倒されるようなことがあれば招聘した側のミスになるなという不安も、本当はあったんです」

――それが……。

「逆の意味でヤバいなと」

――結果的にフェザー級転向の武田選手の価値を落としたマッチメイクとなってしまいました。

「本当にそうなんです……。武田選手の強いところで、完敗を喫してしまったので。正直、『やっちゃったなぁ』という想いになりました(苦笑)。試合後の武田選手からは悔しさよりも、虚無感が見られて。ホント、どうしましょう……。

と同時に、打撃が得意な選手からすると全然いけると思ったところはあるとは感じています」

――とはいえレスリングができたうえでの打撃でないといけないので、やはり武田選手にあの勝ち方は驚異でしかないかと。

「そこなんですよ。あの組みに対抗できて、打撃を入れることができるのか。触れる怖さがあると、打撃の威力は半減してしまうでしょうね」

――武田選手はいわば日本人のなかでは、ヌルマゴ・スタイルというか。組みが強力で打撃を苦にしない選手です。繰り返しますが、その武田選手にあの勝ち方をした……これは……。

「とんでもない選手を呼んでしまいましたね。まぁ、あとはスタミナがあるのか。武田選手がどこまで引き出すことができるのかという気持ちでもいました。だってあの動きを15分間続けるなんて、できないですよ。それができるなら、すぐに解約するのでUFCに行ってほしいです」

――バックを取るためのパスの圧力、フリップにつられなかった動きも秀逸でした。

「いや判断力も良いし、体幹も強いんでしょうね。際が強いというか、シェイドゥラエフは楽しいMMAを見せてくれました。MMA特有の際の攻防が凄く出来ていて。見ていて楽しいというか、心地よかったです。相手が武田選手だから、あの攻防が生まれた。MMAの魅力が全面に出た試合でしたね。僕はそう思います」

強い選手と戦うことはデメリットでなく、メリットになる

――外国人選手は勝てば、もうタイトル挑戦と一直線で来ます。ただし、RIZINフェザー級タイトル戦線を考えると、この2人があと1勝を挙げても挑戦はないと考えるのが普通で。同時にあの強さを見せつけられ、来日が途絶えるようなことがあれば「逃げた」と思います。柏木さん個人的としては、9月からノジモフも含めて中央アジア3人衆はどのようにマッチメイクしていこうと考えていますか。

「どこかで潰し合いをしてもらわないと、困ります。アハハハハ」

――アハハハハ。

「でも強者と強者が戦うというマッチアップでも、今のRIZINファンは乗れると思います。キム・ギョンピョとスパイク・カーライルの試合も、そこそこ盛り上がっていましたし。そろそろ、そういうのがあっても良いんじゃないかと」

――「中央アジア3人衆、誰でもやってやるよ」と声を挙げる選手に出てきてほしいです。

「そうですね。強い選手と戦うことはデメリットでなく、メリットになる。それが格闘家ですからね。強い選手同士をぶつけるだけでは、日本の現状としてビジネスは成立しない部分はあるかとは思います。だからこそ、彼らが生きるマッチメイクもRIZINには必要になってきます」

――9月にいきなり潰し合いが組まれたら、色々な意味で逃げたと言わせてもらいます(笑)。

「そこはまだないです。そこでは(笑)。日本人選手が困るから、潰し合わせるということはしないです(笑)。中央アジア勢に勝てば強さの証明になる。だからタイトル挑戦に近づく。そういう状況にしたいですね。ファンの期待値が上がれば、そこは逃げられなくなりますから」

――日本国内にいて直視しない傾向もみられる円安と向き合う柏木さん、僭越ながら中央アジア勢の投入はgood jobだと書かせてください。

「ありがとうございます。シェイドゥラエフを呼んで、褒められたのは初めてかもしれないです(笑)。でも、攻略はできます。ダウトベックもシェイドゥラエフも完璧ではないので。強いけど、日本人選手にはあそこを目指して欲しいです。

なぜ、ファイターをやっているのか。そこをもう一度、自分に問いかけて欲しいです。格闘技って強くなりたいからやっているんじゃないですか――と。その原点は大切だと僕は思っています。強いヤツはたくさんいるので、そいつらに勝つことを目標にしてほしいです」

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