【Bu et Sports de combat】武術的観点で見るMMA。ロッキー川村2✖荒井勇二「見えるから行けない」
【写真】見えるから怖くて、行けない。まさに真理だ (C)MMAPLANET
MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。
武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは間、質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。
武術的観点に立って見たロッキー川村2✖荒井勇二とは?!
──川村選手が剛毅會空手の稽古をしているということが、まず意外でした。どのようなきっかけで稽古をするようになったのでしょうか。
「松嶋師範代の稽古のスパーリングの相手をロッキー川村2氏が務めていてくれたのですが、彼は3階級上ですし生来が優しい方です。なので、ちゃんと稽古をつけてもらうために私の方がロッキー川村2氏の動きに──そうですね、言葉ではなくミット打ちなどを経験してもらって、松嶋師範代とスパーをしていただきました。
そうすると松嶋師範代が、めった打ちに合うようになったんです(笑)。パンクラスイズム横浜で松嶋師範代も非常に良い練習ができるようになりました。そうするとロッキー川村2氏が自分で理解しようとしてくれたのか、高田馬場のT-Grip Tokyoで行っている剛毅會東京城西支部の稽古に参加したいと言ってくれたんです」
──ほぉ。川村選手がなぜかを興味を持ったということなのですね。結果に目をやるだけでなく、理を求めてきたと。
「その通りです。だから型稽古ではなく、MMAの組手稽古を通して理を知っていただこうとやっています。
そして結論から申し上げると、色々なことを甘受する能力はピカ一です。これまでお目にかかったことがないぐらいに。たまにそういう方もいますが、だからといって試合に出るというわけでもないです。
その点でいえば、ロッキー川村2氏は15年に渡りMMAを戦ってきた。そのような人が、あのように模索しながら追及している姿勢には頭が下がります。ロッキー川村2氏はオープンマインドなんです。私も指導をしてくるなかで、選手はそれぞれのMMA観を持っていることは重々に承知していました。それは持っていて然りですが、ロッキー川村2氏に関しては拘っている風にはあまり見えないです。私が指導させていただいていることが、身につくかどうかということは、偏にオープンマインドかどうかということにつきます。
時間的には松嶋や大塚と比較すると、本当に短くて触れた程度です。これまで十分に経験を積まれている方ですし、試合をすることも分かっていなかったです(苦笑)。試合があるからなおさら弄るのは嫌でした。核心に触れる部分を伝えるという風にして。結果、質量に関しては現状の3倍ぐらいになる可能性があります」
──試合を実際に見て、これは言葉にすると『またぁ……』という風に批判されそうになりますが、佇まいが違って見えました。
「それが心の表れです。佇まいの変化に言及した時に、批判する人たちがいるのも分かります。それが格闘技感の違いですから。それを否定するのも全然ありです。ロッキー川村2氏の場合は、そこに何かがあると感じてくれて、一緒に稽古をして佇まいが変った。そういうことなんです。
と同時に試合になると、格闘家が武術的なモノに触れると往々にして起こる事象がロッキー川村2氏にも起こりました」
──それは?
「見えるから行けないというジレンマです。これまでは見ていなかった。それが見られるようになると、怖くていけなくなる」
──あぁ、実は武術空手の稽古をしても、川村選手は貰って上等という打撃を仕掛けるのかという予想はしていました。それが待つという風に見えた。ここでは入れないと表現すべきかもしれないですが。
「そうですね。見ていないから、怖くない。見えているから、怖い。見えたから、怖くていけないという現象は結構あります。本人もそこは気付いています。入るという結果がありますが、それは見えていて、先が取れていて、間を制している。それを入るといいます。入るから逆算して考えると、見えたけど先が取れていないから入れないんです。
見えて、ロッキー川村2氏なりに入ろうとして動いた。その失敗が左の蹴りでした。
あれがあったので、相手は組んでクラッチが組めました。MMAとしては組まれても倒されなければ良いし、倒されてもスクランブルで立ち上がれば良いです。ただし、武術的にはそこで組まれることはあまりよろしくないです」
──相手が組んでくる、打撃系でないことも影響したのでしょうか。
「打撃の先も、組みの先も同じです。青木選手が組んで倒すことができるのは、先が取れているからです。ロッキー川村2氏は荒井選手の組みを受けて切ろうとした。その時点で、あの瞬間は相手が先を取っているということになります。MMAは打撃選手が組みを嫌う、組みの選手が打撃を嫌う。そういう嫌い合いの勝負が少なくないですが、嫌うという部分が出てくることは、対戦相手がイニシアチブを取っていることになります。
ロッキー川村2氏も凄く張り切って稽古に出てくれていますから、ずっと続けていってくれればと思います」
──自分は常に思っているのは、一生で一度起こるかどうか分からない路上の現実を想定した稽古を行っている武術家よりも、MMAを戦う選手の方がよほど色々な経験を積んでいるということなんです。たとえ複数相手や武器を持っていなくても。ルールがあろうが、そこで戦い続けてきたMMAファイターが武術を稽古し、理を知ることで引退後は柔術へという道が主流のなかで、もっと幅の広く経験してきたことを生かせる指導がMMA志向の若い選手以外にできると思っています。
「せっかくね、現役時代あれだけ厳しい想いをして経験してきたわけですから。それこそ武術を学ぶことで、また新しい気付きがあると私も思っています。若い頃は、そんなことができるわけないし、やる必要もない。それは52歳を過ぎて、今これをやっている私の体験談でもあります。だからこそロッキー川村2氏もそうですが、格闘技と武術の架け橋のような道を創っていきたいですね。
そういう方々が指導をするようになると……私もようやく理解できたのですが、指導者にとって一番必要なのは、今、どれだけ勉強しているかです。過去にどうだったか、そこだけでなく。過去の経験論だけでなく、今起こっていることを勉強する。教え子を勝たせ続けることができる指導者なんて存在しないです。人を育てて、自分が成長する。今、私自身がそうやって生きさせてもらっています。
だからロッキー川村2氏には、2に留まらずに3、4、クリードまで武術稽古の続けてほしいですね(笑)」