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【Bu et Sports de combat】武術的な観点で見るMMA。フローレス✖ディートン「良い蹴り≠良い打撃」

【写真】蹴りにカウンターを合わせてにいったディートン。そしてフローレスが顔面へのパンチが見られなくなった (C)PFL

MMAと武術は同列ではない。ただし、武術の4大要素である『観えている』状態、『先を取れている』状態、『間を制している』状態、『入れた状態』はMMAで往々にして見られる。

武術の原理原則、再現性がそれを可能にするが、武術の修練を積む選手が試合に出て武術を意識して勝てるものではないというのが、武術空手・剛毅會の岩﨑達也宗師の考えだ。距離とタイミングを一対とする武術。対してMMAは距離とタイミングを別モノとして捉えるスポーツだ。ここでは質量といった武術の観点でMMAマッチを岩﨑師範とともに見てみたい。

武術的観点に立って見たアレハンドロ・フローレス✖カール・ディートン3世とは?!


──昨年のコンテンダーシリーズでハファエル・アウベスに敗れたものの、蹴りとパンチが連動し多角度で攻めることができる、次戦が楽しみという話を伺っていたフローレスですが、判定勝ちを収めたものの芳しいデキではなかったです。

「フローレスはヒザを剃っちゃって、良さも無くなっていましたよ。誰だか分からなくなっているし(笑)」

──そこは……。

「いや判定しても、フローレスが蹴りを当てていたことで評価されたのかもしれないですが、そうやって考えると……これは判定への文句ではないですけど、モノゴトの本質って捉えられていないと思います。あのフローレスの蹴りはそこまで有効な蹴りには見えなかった。選手の技術にしても、ジャッジの見る目にしても今のMMAは進化の果て、いや過程にあって、蹴りに関しては70年代、80年代のフルコンタクト空手の距離になっていますが、そこに対して対応が全くできないです。

そういう意味でいうと、ディートンは実は今回対応していました。彼が狙っていたのは蹴りに対するカウンターのパンチです。それもひと呼吸で3、4発打っています。これはなかなかできることではないです。蹴りにカウンターは取りにくいのですが、蹴りを使う選手にカウンターを狙うと、逆にパンチを被弾します。だから危険なことなんです。

遠間からの蹴りなら、蹴りでカウンターを取ってから中に入って打つ。私の場合はそう指示しますが、ディートンは一気に入ってそれができていた。詰めが良かったので、フローレスの蹴りは若干腰が引けたものになった。結果、顔をぶん殴られるようになっていました。ここでフローレスのやるべきことは殴ることなのに、全然できていなかった」

──本当に顔面へのパンチがなかったです。ダウンを奪われる以前はまだしも、それ以降は本当に届く距離でも殴っていなかったです。一方のディートンは蹴りにパンチを当てて、ダウンを奪った後に躍起にならず待って戦いました。ただし、そこから彼も積極的に動くことがなかった。勝負はどう転ぶか分からない状況では、3Rにはもっと前に出ないといけないと思います。

「まぁ、ディートンも良ということでもないです。ただし、あそこまでクリーンヒットがあると、自分の方がジャッジはつけたと思っていたかと。そして私からすれば、フローレスの蹴りは上段ばかりで、有効打はなかった。ディートンにしてもテイクダウンを織り交ぜるとかしないと、どこで試合を支配しているのか。それが見えない試合ではありました」

──結果、ハイとローでスコアリングできた形の判定勝ちでしたが、フローレスも顔面が殴れないという内容でした。

「今回のフローレスは殴れないというよりも、彼の蹴りは殴れないで蹴るという蹴りだったんです。彼はメキシコですよね……蹴りとパンチが連動しているのはブラジル、オランダ、フランス、もちろんタイにはいますが、あとはロシアに少し。まぁ、いないです」

──フローレスは前回は負けましたが、それが出来ている選手だという風に岩﨑さんも言われていましたが、なぜ今回は連動しなかったのか。そもそもパンチがなかったわけですが。

「ディートンはパンチのカウンター狙いだったから、フローレスはそのパンチを狙うことができる蹴りの持ち主であってほしかったですね。だから殴れないのではなくて、蹴りの稚拙さが露呈した試合になりました。相手が受けることができないから、蹴れる。そういうことだったのかと。

相手がカウンターを取って来る、そういう選手を想定し、自分が蹴ったあとにどう動くのか。そこが最も重要になってくるのですが、そういうことは頭になく蹴りとパンチをこれまで使っていたのでしょうね。

蹴りだけが凄くても、打撃が強いとはならないです。あくまでもパンチとの連動があって初めて、その蹴りの良い・悪いを判断できるわけで。蹴りだけが良くても、それは評価の俎上にすら挙がらないです。顔面パンチに対して、鮮やかな蹴りをフローレスは出せなかった。ディートンのプレッシャーが強かったのでしょうね。だから乱れてしまった。質量を測りそこなっていたともいえます。あのパンチに対して、腰を引くような状態は創らないで準備をすべきだったのに。そういう考えが彼だけでなく、陣営になかった」

──つまりパンチと蹴りの連動という部分で、知識が欠如していると。

「そういうことになるかと思います。ボクシングやレスリング、柔術と比較すると、蹴りも入れた打撃の蓄積はまだ米国や多くの国にはない。パンチと蹴りが繋がった状態で攻撃を作るという風には、一朝一夕にはいかないのかもしれないですね」

──では、そこに米国勢の打撃に対して日本人が勝てる可能性が残っているのではないでしょうか。

「このままであれば、打つ手はあると思っています。2つの矢、ボクシングだけでは勝てないですが、4つの矢に関して日本はノウハウがあります。そこに可能性を見出したいです。ただしフルコンタクト空手をやっていれば、MMAで勝てるのか。有効な蹴りを使えるのか。そんなことは全くないです。

寝て戦える人が、立って戦っている。それがMMAです。MMAを研究し続けていると、たまたま消去法で出てきたノウハウが、この蹴りの距離であったということだけなんです」

──たまたまであろうが、そのノウハウを生かして世界で通用するところを見せてほしいです。

「今後はそういう技術をケージの中で、魅せることができる人間が出てくるかと思いますので。楽しみにしてほしいです(笑)」

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