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【Special】月刊、青木真也のこの一番:11月─その弐─岩本健汰×今成正和「組み技の異種格闘技戦を」

【写真】岩本健汰を孤高のグラップラーにさせてはいけない (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2020年11月の一番、第2 弾は22日に開催されたZST/Battle Hazard08から岩本健汰✖今成正和の一戦を語らおう。


──11 月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?

「岩本健汰✖今成正和のブラップリングマッチですね。僕は2人とも組んできていますし、当然のように彼の方が強いことは分かっていました。でも、思った以上に差がありましたね。15分のグラップリングで下を選択して良いルールなので、決着がつかないという予想もありました。

圧倒するからこそ取れないということがあると思っているところで、取ってしまったので。相当の実力がありますね」

──今成選手が組み技で日本人選手に一本を取られるのは、本当に記憶になくて。自分のなかでは佐藤ルミナ戦以来かと……。

「コンバットレスリングだっ!! ないですよね、そこ以外。日本で戦った試合では外国人にだって……ジェフ・グローバーにも取られなかったし。MMAで今成選手からパスを決めた選手はままいますが、グラップリングで引き込んだ今成選手に岩本選手がパスを決めた。あれこそが、この試合のハイライトでしたね。

ボディロックですぐにパスをした。アレが全てだと思いました。得意な形なんですけど、バチっといった。『これは強えぇ』と思いましたね」

──岩本選手の方が大きくはありましたが、そのあたりというのは?

「体格差はありました。でも2、3キロとかの範囲だろうし、いうてもグラップリングですからね。そこの体重差が影響したというのは打撃よりは小さいですよね」

──15分という試合タイム、ここはどうでしょうか。

「10分でないのは大きいです。10分だと守られたかもしれない。15分という時間を設定できたのはポイントだし、そこから戦いも始まっていますからね」

──と同時に、一瞬でも内ヒールに入る態勢に持っていける今成選手も素敵でした。

「岩本選手のチャンレジを受けて立つ、そこは凄いです。40代半ばになって、バリバリの日本一と戦う。勝負論からは下りているからこその味わいがあります。一発あるかもって思われると、そこである意味勝ちでもありますしね。高島さんはこういう言い方嫌いかもしれないですけど、プロレスラーですよ」

──自分、プロレスラー嫌いでないですよ。ロープに跳んで、ラ・ケプラーダやトペ・コンヒーロができるって凄いと思いますし。プロレスをやっているプロレスラーの人に何もないです。でも、MMAやグラップリングだと偽ってプロレスをするのは話が違うと思っているだけで。

「そうでした、そうですね。なんていうのか、でも勝負論がないことを好まない印象はありますよね」

──う~ん、自分のスタンスを話すのも格好悪いですが、勝負論がないことを好まないのではなくて、勝負論がない試合を勝負論がある試合よりPV数を稼ぐために上位に持ってくるのは好まないという感じです。

「違う色は認めると。それは、それで魅力がありますからね。勝負論っぽくて、勝負論じゃないとかは面白くないけど。その点でいえば、今成選手の凄いところは達観しているところなんですよね」

──今成選手の試合が面白くないケースが多いのは、足関節が怖くて入れない対戦相手が多いから。でも、それも勝負の妙で。今回、入っていける相手だとここまで重厚感があって緊張感溢れる試合になるというのを岩本選手が示したかと思います。それに今成選手の場合は足関勝負できる人が、ほとんど一緒に練習している選手になりますし。

「あぁ、気持ちが入らないということですね。そうなっちゃいますよね、面白くなりそうな相手が……練習相手だと。うん、熱くなれないですよね」

──と同時に寝転がって足関合戦ができる選手が、どれだけ少ないのかという表れでもあるかと思います。グラップリングが盛んなるには、もっと門戸を広げないと岩本選手も対戦相手がいなくなってくるという懸念が既にあります。他の上にいる選手、倒した選手が有利というような。

「それって上から下にモノは流れるものだから、米国軸にそういう流れがないと難しいですよね。こっちからメジャーにしていくのは困難です」

──ただし、そこに挑むために国内の普及策ということでは、そういう考えもあるかと思います。

「そうですね。日本のグラップラー、柔術家が海外に出て勝負すると、どれだけテクニックがあってもフィジカルで跳ね返される。テクニック勝負にならないという事実はあるかと思います。そういうなかで、MMAファイターと触れ合うことができるグラップリングというのは必要になるかもしれないですね」

──そのためにはMMAファイターに勝ち目があるルールが、必要かと。

「簡単にいえばADCCルールですよね。ポイントのあるバージョンの。打撃のないMMAというか。MMAファイターもね、グラップリングをやっていないから。そこが必要だからっていうのは、そういうモノがあることで気付く人も出てくるかもしれないですしね。

MMAの人達が……僕もMMAの人なんですけど、MMAの人はグラウンドをやらないから。やらないと、しんどいですよ。最終的には、勝てなくなります。UFCファイターはデキていますからね。

そういうなかで岩本健汰という今の日本で最高のグラップラーは足関の人として出てきたのが、今や足関の人でない。今成さんと取り合って、パスして肩固めで勝てる。固いグラップリングもできる。総合力のあるグラップラーです。

自分でいうのも恥ずかしいですが、僕は影響を与えてしまったと思っています。良くも悪くも──柔術で勝つグラップリングに、MMAのエッセンスを与えてしまった。彼が今のようになったのは、僕の流れというのはありますし」

──では責任を取ってもらって、青木スペシャルで総合グラップリングを組んでもらいましょうか(笑)。

「いわばノーギで柔道家、サンビスト、柔術家とも戦える。昔、中井(祐樹)さんが『MMAファイターだったり、大道塾のようにトータルファイトを標ぼうする人間は、どの競技の人間ともやり合えなくても良いけど、立ち会えないといけない』と凄く良いことを言っていたんです」

──15年前だと、それこそ──そうである人がMMAで突出することがありましたが、今や普通レベルにそれが求められるほどMMAは進化したわけですね。

「まぁ、そこに寝技が欠けているというのが日本の現状ですけど、ボクサーともキックボクサーとも立ち会える。勝てないかもしれないけど、立ち会えますよね。

そういう部分で岩本選手はどんなグラップラーとやっても立ち会える。その彼の世界観が広がるのはノーポイントではないでしょうね。そのグラウンドの戦いの重要性を競技者としてやりつつ、MMAファイターも含め伝えていく責任があると最近は感じています。

岩本選手が岩崎(正寛)選手とやりたいと言っていたけど、そういう世界観じゃない。岩崎選手もやらなくて良いし。反応もしなくて良いです。柔術に対応できてノーギが戦える柔道家とかね……。コロナの状況下ですけど、何か次に良いモノを用意してあげたいですね。要は組み技の異種格闘技戦ですね。

岩本選手は努力の質と量、技術力、何も上から目線で言えない。俺たちがやってやっているというんじゃなくて、協力させてもらっているという立ち位置で……何かできれば。岩本健汰的な世界観が広まれば、回りまわって僕も得する──みたいな有難い話であるので(笑)」

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