この星の格闘技を追いかける

【UFN92】生き様。川尻達也、スワンソン戦を振り返る<02>「今回だけは納得いくまで文句を言いたい」

Tatsuya Kawajiri【写真】スマートではない。だからといって、それが格好悪くないということは川尻の言葉、戦いを通して我々は知ることができるはずだ(C)MMAPLANET

UFN92におけるカブ・スワンソン戦で、敗れた川尻達也インタビュー第2弾。幾多の激闘を繰り広げ、度重なる網膜剥離を経験してきた川尻は、この試合で殴られる覚悟を持ち、殺気を伴ったパンチを振るっていった。

しかし、2Rの反則のヒザ蹴りでスワンソンにペナルティはなく、何よりも絶対に取ったと思われた初回を落とした。この裁定に納得できない川尻は、徹底して不満を口にすると言い放つ。

その行為を「格好悪いかもしれないけど」と言う川尻だが、それこそが彼の生き様。格好をつけて生きて、格好悪い人間はいくらでもいる。どれだけ格好悪く見えようが、自分を貫く川尻の言葉に引き続き、耳を傾けてほしい。
<川尻達也インタビューPart.01はコチラから>


──覚悟というのは殴り合いに応じるということですが、2008年7月のエディ・アルバレス戦と比較して、殴り合いの質は違うのでしょうか。

「あの時はテイクダウンが取れないという思いから正直なところ、自分のなかに諦める気持ちがあり、打ち勝つしかないという追い込まれた状況でした。だからムキなったというのもあります。対して今回はテイクダウンも取れる。ただし、そのためにはしっかりと踏み込んで相手の懐にはいるしかない。

それには相手のパンチを被弾する覚悟が必要だったんです。ただ打ち合うんじゃなくて、最終的にはテイクダウンを取って一本勝ちするつもりでした。一発当てられたら三発返す、そんな気持ちだけで戦っているとアルバレス戦や2度目のギルバート・メレンデス戦(2011年4月)になってしまう。一発で効かされてしまうというのがあったので、その辺りは意識を変えていました。

昔はアゴを引いていれば、相手のパンチは効かないっていう自信があったんです(笑)。もうそこまでは思っていないですけど、そういう倒れないという覚悟を持って戦いました」

──その危険性を十分に理解したうえで、しかもパンチからテイクダウンというしんどい動きをずっと続けた。

「正直、戦っていて楽しかったです。久しぶりですね。格闘技って良いなぁって。だから試合が終わった時は晴れ晴れとした気持ちだったし、カブともお互いをリスペクトし合って頭を下げ合えました。

これまでUFCでは勝つこととケガをしないことに拘ってきたけど、それだけでは勝てないということが分かって。今回、久しぶりに覚悟を持って自分も倒すパンチを打ちました。

だから試合が終わった瞬間から両ワキと背中、大円筋と広背筋がパンパンに張っていて筋肉痛になっていましたね。試合直後は、ケガでもしたのかって思う程痛かったです(笑)。久しぶりに倒すパンチ、殺気を持ったパンチを振るったからなんですよね。

このところ全力では打っているけど、覚悟や倒すという気持ちよりも組みつくことを前提にしているパンチだったので。今回は殺気を持って振れていたので、そこは悪くはなかったと思います」

──そこで3Rの攻防なのですが、序盤に2度のテイクダウンがありました。MMAとしての計算なら失っているかもしれないけど取れることもある。ただし、終盤にあれだけ下になったのは格闘技として遅れを取ったラウンドに映りました。

「あんな風に体が当たって下になったことは練習でも経験がないんですよ。なんかもう、このままじゃ判定でダメだっていうのがあったのかもしれないです。正直なところ。諦めと言うか」

──下になってもヒールを仕掛けていますし、諦めはなかったと思います。

「そうですね……。なんとか、デキることはやろうという感じだったのかなぁ。意識はあったんですけど、やっぱり考えというか、判断力の部分では混乱していたようです」

──川尻選手が出し切ったように見えたので、自分も判定について言及しまいと思った次第でした。実は自分のSNSに金原正徳選手から『かっこよかったすね!』、大沢ケンジさんから『いいもの見せてもらいました』という書き込みがあり。そのなかで自分も『1Rは川尻君、2Rのヒザ蹴りはペナルティ。で28-28──とかっていうことが、失礼になるぐらい魂見せてくれました』と返答したりして。

「ハハハハハ。大沢さんの解説って、どんな感じだったんですか?」

──スイマセン。日本語だと、自分の書くことに影響が出そうでUFC ファイトパスで視聴していたので……。

「見てくれた皆は判定はどうだと思っているのかなって、気になってしまって」

──本当に私としては2Rの反則のヒザ蹴りがペナルティにならないのは、ダメージだけこうむってスワンソンはポイントが減らない。それは本当に厳しい状況になったと思いました。

「なんでしょうね? あれってどうなっているのか……」

──初回もジャッジ2人がカブ・スワンソンにつけている。それなら、MMAでなくてキックボクシングをすれば良いじゃないかとなってしまいます。

「いや、あれで僕のラウンドとならないと勝ち目はないです。結果云々よりも、そこが一番納得いっていない。じゃあ、俺はどうやってUFCで勝てば良いのって。そこがハッキリしない限り、もうキックボクシングで勝負するしかない。そのへんが一番納得できない。あれでは勝ちようがないです」

──あのラウンドの川尻選手の戦い方で、これまで勝ってきた選手がどれだけいのるかということですよね。

「セコンドとも話をしたんですけど、米国のコミッションはボクシング出身者が多くて、古い考えの人が多い。ヨーロッパとかアジアだったり、米国以外の国の人が競技運営面を仕切っている大会──例えば、ドイツ大会とかの方がフェアなジャッジをしてくれたって」

──ソルトレイクシティ、ユタ州もそうなのかもしれないですが、ノースダコタ──それにテキサス州、ボクシングしか見ていないのかっていう州はUFCに限らず、他のMMAイベントでも感じたことがあります。

「州によって違うし。逆にテイクダウン一つで勝ってしまっておかしいだろうって判定もありますしね。つまり判定に勝敗を委ねてしまうのが、ダメだったんですよ」

──いや、判定決着になってもしょうがないですし、だからこそジャッジはしっかりと見てほしいのと、判定基準をクリアにしてほしいですね。

「繰り返しますけど、1Rで向こうにつくとUFCではもう、勝てないですよね。PRIDE時代も大晦日のメレンデス戦とか納得がいかない判定もあったけど、もうしょうがない……判定にしてしまった自分が悪い。仲間が怒っていてもしょうがない、別に良いよって思っていたんですけど、今回だけは……。

ランキング5位に勝つ、その先のことも考えていたし。でも、負ければリリースの危機に陥る。ホント、人生が変ってしまうので。今回だけは格好悪くても、納得いくまで文句を言いたいと思っています」

──そこが、また川尻選手の格好良さに通じてきます。判定はああなってしまいましたが、初回は川尻選手のラウンドでした。そして2Rに川尻選手のテイクダウンが決まったかと思ったら、カブ・スワンソンが手をついてバランスキープ。ばかりかマウントからバックマウントを奪われてしまいました。

「あそこがポイントでしたね。日本で戦っていた時は、あの局面でしっかりと上を取れていました」

──あそこで下になった時は焦りましたか。

「ビックリしました。練習でもあんな風になったことはなかったし、上を取り切れているので。カブもそういうところに長けたという印象を持つ選手じゃなかったですし」

──結果論ですが、あの場面で上を取り切れていたら、その後のことは起こらなかったかもしれない。

「そうなんですよね。あそこで少し流れが変りましたね。『マウントだ』って思って。殴られたのより、チョークがヤバかったです。一瞬、喉に入っていたので。このまま落ちてもいいから、タップはしないでいようと思っていたら、すぐに緩んだんです」

──それもMMAの妙ですよね。スワンソンは一本に拘らず、体力の維持に徹したのかもしれない。

「固執しなかったから助かったんですけど、強引に5秒とか10秒絞め続けられていたら落ちていたと思います」

──そこまで……。

「いや、入っていましたね」

<この項、続く

PR
PR

関連記事

Movie