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【UFN92】生き様。川尻達也、スワンソン戦を振り返る<01>「喰らう、喰らわないは別にして覚悟は必要」

Tatsuya Kawajiri【写真】改めて、カブ・スワンソンの激闘を振り返り、自らの気持ちの変化を語ってくれた川尻 (C)MMAPLANET

今月6日、UFN92においてカブ・スワンソンと激闘を繰り広げた川尻達也。初回にテイクダウンからマウントを取り、2Rにはテイクダウンを潰されバックマウントからRNCを仕掛けられると、グラウンドでのヒザ蹴りを被弾した。3Rには2度のテイクダウンに成功も、終盤は下になる場面が目立ち──判定負けとなった一戦。その試合内容からして、30-27をつけたジャッジや、2Rの反則が減点にならなかった理不尽さを記事のなかで指摘することは、全てを出し切ったとケージのなかで不満げな表情を浮かべることがなかった川尻を否定するかと思われた。

しかし、その川尻本人がブログで裁定結果を受け入れらないと心境を吐露し、オクタゴンの中に続き、その生き様を見せつけてくれた。

あれから2週間を経て、川尻達也は今、何を想うのかを訊いた。

──激闘から3週間弱、今の気持ちはいかがですか。

「まぁ、モヤモヤしています。納得はしていません。試合直後はやりきったという気持ちでいたのですが……。あの2Rに貰ったヒザ蹴りから、とにかくやれることをやろう。そしてやり切った感はあったのです。

判定でも負けたと思っていたし。あのヒザを受けてからどう戦ったのかはだいたい覚えているのに、どのような気持ちで戦っていたのか……そこが、何だか分かっていなくて……。とにかく、あのヒザ蹴りを受けて倒れた時には、僕は負けたと思ったんです」

──反則の蹴りという認識はなくて?

「レフェリーがこっちに来たから、『あぁ、レフェリーストップになったんだ』って思いました。大の字になり『あぁ、終わった』っていう感じでいたら、セコンドの(桜井)隆多さんが『休め、休め』って叫んでいて。そりゃぁ、休むよ。負けたんだからって思っていると、マネージャーのシュウ(ヒラタ)さんが『2分』とか『5分』とか言っていたんです。

何だろうって思って、起き上がってモニターを見たらグラウンドでヒザを入れられているシーンが映っていて『あぁ、反則だったんだ』とその時、初めて分かったような感じでした。

でも、僕のなかでは一度KOされたような気持になっていて、だから一本かKOしないと勝てないっていう──焦ったような心境になっていて……わけが分からない状況になっていましたね。でも、試合後はスッキリしていたんです」

──やるべきことはやり切ったと。

「出し切った……、自分を出し切ったうえでの完敗だったと思っていました。一番嫌なのは力を出し切れないこと。そういう部分で、あの時点ではスワンソンとの戦いは出し切ったけど敵わなかったなぁと納得していました。

で、試合の翌日には帰国するので、飛行機に乗らないといけないから念のために検査で病院に行って、ちょうどメインが始まる時間ぐらいに会場に戻りました。

UFCって前の方で戦った選手には夕食のケータリングが用意されているんですよ。美味しい肉とかパンとか、アイスクリームとか色々なモノが置いてあって。そこにセコンドの隆多さんや山田(武士)さんが集まっていて、『ありがとございました』と挨拶に行きました。

そうしたら隆多さんが、凄く機嫌が悪くて(笑)。俺、何か隆多さんを怒らせたのかなって思うぐらい。で、大会が終わって映像を見たんです」

──そうしたら、川尻選手のなかでもやり切った感から、違う気持ちが出てきた?

「隆多さんにも『俺、負けてなくないですか?』って。そうしたら、隆多さんも『だろう? 俺もシュウさん達とそう話していたんだよ』って(笑)。実はそのまえにもツイッターとかで、納得していますとか呟いていたのですが、映像を見ると反則も向こうは減点されていないし……1Rだって取られていない。

これは負けはない。1Rが取れていて、2Rに反則でイーブンだったら負けはない。ここからですね、納得できなくなって。そこで初めて皆に『納得いかないですね』って口にして、そのまま今に至っています」

──試合結果に関して、正式な抗議のようなモノは提出したのですか。

「いえ、してもほぼ意味がない。結果が覆ったためしがないので、結果はしょうがないのでこのままリリースされずにチャンスを貰えるように、ブログなんかでも自分の想いを書かせてもらいました」

──自分ではあの結果はないと思いつつ、川尻選手がやるだけやったことで、傍で見ている人間がそこを言及するのは失礼にあたると最初は思っていたんです。

「判定がおかしいって、よく書いていますもんね(笑)」

──それでも試合内容に関しては、本当に……あの反則があったという条件下で、とにかくやれることを全てやろうとしたことが伝わって来て、速報をしていても2Rぐらいが涙でPCの画面が見られなくなってしまったほどで。

「ハハハ。内容では出し切ったというのもあるし、成長も確認できたと思っています。ジョゼ・アルドとかコナー・マクレガーは別にしても、UFCの5位ぐらいのレベルなら全然通用するって感じました。

デニス・ベルムデスから1Rと取った時点で……正直な話、あの試合前もまるで話にならない、次元が違うぐらい差があるんじゃないかってビビッていたんです。でも、1Rは通用した。2Rと3Rがガス欠で負けてしまったんですけど、調整不足でコンディションを整えていればイケるんじゃないかって思えるようになったんです。

カブ・スワンソンにも結果、負けてしまっているんですが、通用することは分かったのでもう一度、チャンスが欲しいです。それが正直な想いですし、このまま終わってしまったら死んでも死にきれないです。

呪縛霊になって、ずっとブツブツと呪いの言葉を掛けていくしかなくなってしまいます(苦笑)」

──バチバチの殴り合いだけでは勝てない。かつ、網膜剥離のこともある。そのことが十分に分かっていてかつ、そうならざるを得ない場面で引かずに殴り合って行った。あの川尻選手の姿勢に本当に胸が震える想いがしました。

「今回はその覚悟がありました。これまでは目のことを気にして、ケガをしないように目をかばってパンチを貰わないようにして如何に勝つかってことばかりを練習の時から考えていました。

でも2月に負けて、それじゃ限界がある。やっぱり覚悟は必要だと思ったんです。喰らう、喰らわない、打ち合う、打ち合わないは別にして。しっかりと中に入って相手のパンチを貰う覚悟も必要だし。自分のパンチで倒す覚悟も必要だと思っていました。

だから、ゴン格でも対談をさせてもらったウチの阪本洋平(Grachanライト級チャンピオン)がショートの距離が得意なので……。まぁ、高島さんは遅刻して打撃のスパーは見てもらえなかったですけど(笑)」

──スイマセン、一言もありません。

「あそこを一番見てほしかったのに(笑)。試合の3週間ぐらい前までショートの距離で打ち合うことを意識して練習し、最後に遠い距離と近い距離を上手く融合させて戦えるように調整しました。

そこに意識を置いてやってきたので、これまでとは違って覚悟をしていましたね」

<この項、続く


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