【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その弐─マイア✖アスクレン「UFCのレベルをまざまざと」
【写真】最後はRNCでタップと同時にアスクレンを落としたマイア。青木は左ストレートの勝利とした (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ10月の一番、第2 弾は26日に開催されたUFN162からデミアン・マイア✖ベン・アスクレンの一戦を語らおう。
──10月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?
「デミアン・マイアとベン・アスクレンですね。デミアンの左ストレートが当たる。あれがキレーだという印象です。いなして打つ、ステップも含め基本に忠実な動きでした。この試合は自分ごとに感じることがいくつかあったんです。最近、岩本(健汰)選手とかと練習させてもらっている意味って、この試合にあるんです」
──というのは?
「MMAにおけるグラウンドの荒さが際立ってきていて。ベンもトークが入ったとしても『サブミッションを狙うなんて馬鹿げている』とか言っていたじゃないですか。抑えて殴る、殴って抑えるというのがMMAだって感じで。
でも、まずガードを越えて……パスして抑える。そしてバックを取ってチョークを取る。そこを今は怠っていると痛感していて。だから違ったリズムというか、流れを取り入れています。その部分が出た試合でしたよね」
──上のアスクレン、下のデミアン。そこからどういう局面になるのかが非常に注目されていました。そこでデミアンがオモプラッタからスイープ、ヒールからリバーサルで上を取っていました。
「そこをデミアンはやり続けていたということですよね。今の若いグラップラーがやる、トランジッションとしての足関節をしっかりと学んでいますね。と同時にベンは結構、下になる選手。そこを上と決めつけてみるところに穴がありました」
──ダン・ホーンバックルと戦った時など、かなり下になっているんですよね。「そうなんです。そこからファンクロールとかで上になって。ドゥグラス・リマを抑えつけて勝った頃から、トップ・コントロールが強い印象が持たれていましたけど、実は上と下を行き来しているグラップラーなんです。きっとレスリング時代には、倒されていたんでしょうね。
デミアンがタイロン・ウッドリーとコルビー・コビントンに負けているから、そういう印象を増幅させたかもしれない」
──実はグラウンド・ウォーを期待する煽り記事を書いていながら、デミアンが逆にテイクダウンに付き合わないスタンド・オンリーの試合をする可能性もあるかと思っていました。
「グラップラー同士の試合で、ありがちな」
──ハイ。でも、やはり2人の寝技が見たかった。
「そうですね。そう思われる試合って、今のMMAではないんです。言ってみればMMAファイターとしては不完全で、だからこそ寝技の攻防が期待できる」
──実際、青木選手はどちらが勝つと思っていましたか。
「デミアンがジェイク・シールズに負けているので、彼が不利だと思っていました。あの試合は自分のなかで大切にしている試合でもあって。あの試合があったから、デミアンが不利だと。打撃のあるレスラーに組みに付き合ってもらえないという試合でなく、組み合えて寝技にいける試合でレスラーのジェイクに負けているから。
言うてもベン・アスクレンですし、そこの理屈から考えてもベンが有利だと考えていましたね。まぁ、でもさすがでした」
──同時にベン・アスクレンはレスリングをMMAで続けてきたんだと再確認できたような試合でした。
「MMAの人でないって気はしましたよね。あの背中の向け方とか。疲れてしまったんでしょうね。そうさせたのが、デミアンの打撃だったんですよ。アスクレンは頭が良い人だけど、粘りはなかった」
──と同時に、この勝利に柔術家がわきました。
「そうなんですか? でも、その前にデミアンが『レスラーも柔道家も柔術家だ』って言っていたじゃないですか?」
──ハイ。
「アレはさすがですよ。フィニッシュはRNCでも、左ストレートで勝ったようなものだし。デミアンの取り組み方が……、どれだけ真面目だったのかと。打撃も上手じゃないけど、やっている人。つまり強いってことだと思います。
これまではああいう風にならなかったベンですけど、そういう意味ではUFCのレベルというものをまざまざと感じさせられましたね。そこが分かっちゃうし、やっぱりわきまえてしまいますね。
と同時にベンはMMAに絶対的に有効な技術を持っているので、それを発信し続けてほしいですね。これで柔術の方が上とかっていう流れになって、逆にベンのあの技術を今度は横に置いてしまうようなことがあればチョット怖い。ベンのグルグル……ロールして上を取ることを学べなくなるのは怖いです」