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【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その壱─スワンソン✖クロン「MMA✖Vale Tudo」

UFN161【写真】ジャブが当たるクロン、そして寝技にいけなかったクロンの現代MMA (C) Zuffa LLC/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2019年10月の一番、第一弾は12日に行われたUFN161からカブ・スワンソン✖クロン・グレイシーの一戦を語らおう。


──10月の青木真也が選ぶ、この一番。最初の試合は?

「カブ・スワンソン✖クロン・グレイシーですね」

──クロンがUFC2戦目で、そしてMMAキャリア初黒星を喫した一番ですね。

「試合としてはスワンソンがフルマーク、スコア上はそう収めている。でも今のMMAがスポーツ化され、競技化されたものであるというのを明白に見せた試合になりましたね。試合時間は15分だけど、それは5分が3回あって5分毎にポイントがつく。そこで如何に評価される攻撃が必要になるのかという。

そうなった時にクロンの戦法だと時間が掛りますよね。だからこそ1Rと2Rを取れば3Rは流すということも当然でてくる。それがより可視化され、カブ・スワンソンの現代MMA✖クロン・グレイシーのバーリトゥードというイデオロギー闘争のように見えて面白かったです」

──スポーツにおいて評価されるのは攻め。そのうえでMMAは打撃、組み、寝技の攻撃において評価の値が違ってきます。

「ハイ、打撃と上からのコントロール重視が今のMMAです。上が有利という概念が顕著です。そして組みにいくと、打撃を避けたという風に取る傾向もある。だからクロンは簡単に引き込むことはできない。

そういう試合のなかでグレイシーが偉大だと思ったのは、ホリオン・グレイシーがUFCを創った時、そしてPRIDEでホイスが戦った時、打撃と組みだけでなく、攻めと防御というスポーツの勝負論すら排し、絶対に自分たちに優位なルールの下で戦おうとしたことなんです。徹底して判定を排除し、試合時間を長くした。グレイシー柔術という自分たちの流派の優位性を世の中に広める必要がある。

それを世の中の数パーセントが理解しても意味がなく、勝ち負けで判断するライト層を味方にしなければならないという部分で徹底してルールに拘った。自分たちがどう見えるのか、凄く気にしていた。いや、グレイシーって凄いですよ」

──第3者の介入を阻止しながら、実は自分たちに優位な環境を用意すると。第1回UFCまで柔術は、自分達サイドがプロモーターになってバーリトゥードを行うことが圧倒的に多く、しかもレフェリーは柔術家だったという歴史もあります。

「そう!!  リングやケージのなかは他流試合の風で、レギュレーションやルールに徹底的にこだわった自流試合をプロモートしていたんです。そこはさすがです。柔術が世間に認められるとホリオンはMMAから身を引いて、達観した立場にいる。そしてMMAは柔術を無くして成り立たない。誰が勝とうが、柔術の練習をしており柔術の勝利だというあの理論武装も合点がいきます」

──見事なまでのホリオン・グレイシーですが、そうでなくなったMMAにクロンは挑んでいます。

「だからこそ、人々に何かを考えさせることになりますよね」

──その一方で、現代MMAにおける勝ち方という部分では工夫は見えたでしょうか。

「う~ん、そういう前にクロン自身がずっとMMAをやり続ける気持ちもないでしょうし、ああやって引き込む感じで良いですよね。にしても、組みの強さが浸透しているからジャブが当たる。ジェイク・シールズがGSPとやった時も、ジェイクのパンチが当たったのと同じで」

──今回、クロン・グレイシーは負けても評価が下がったとは思えないです。

「引き込んだだけでも期待値が上がりますし、パンチが当たって、スワンソンが顔を腫らしていますからね。あの試合は久しぶりに『おおっ!!』となった試合でしたね」

──その日の夜には自分の試合があるというのに(笑)。

「いや、本当に。会場に入る前に視ていて……。歴史が出てくるのが本当に面白かったですね。それもあのクロンのスタイルがあるから、引き込んで蹴り上げとか、スタースイープっぽい動きを見せて。でもスワンソンが徹底的に付き合わないから、技の作用が違ってきますよね。だからこそ、僕の理屈だとクロンは別に負けちゃいないということになります」

──なるほど!!

「ただし、ああいう風に打たれ続けるファイトはずっとできることじゃないです。スワンソンもなんだかんだと勝負どころで強い。徹底して前に出ない。ボディを効かせてもいかない。勝っているけど、言ってみればずっと回っているだけでしたからね」

──現代MMAにおいても、攻撃の届くレンジで戦い、前に出ることが絶対という他のコンバットスポーツとは違う部分が残っている。それをスワンソンも駆使していたと。

「あれがリングなら難しかったでしょうし。そういうスワンソンも面白かったですね。アレをやり切ったスワンソンも大したものでしたね。ライブだからこそ楽しめる試合。結果を知ってからは楽しめない……そういう試合でした(笑)」

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