【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月─その弐─アリ・バゴフ✖フセイン・カリエフ「幻想と問題点」
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ9月の一番、第2弾は27日に開催されたACA99からアリ・バゴフ✖フセイン・カリエフの一戦を語らおう。
──9月の青木真也が選ぶ、この一番。2試合目は?
「アリ・バゴフとフセイン・カリエフですね」
──ACAのモンスター対決ですね。
「今回、相手のカリエフがそこそこ謎の選手だったじゃないですか。あのカリエフが組まれた時に小手投げで上を取った。そうしたらバゴフがガードから潜って外掛けのヒールを掛けてサドルが綺麗に入っていた。あれはちゃんとグラウンドをやっている選手の動きですよね」
──テイクダウンから抑えつけるだけでなく、下でもしっかりとした技術を持っていたということですね。
「そうそう、そうなんですよ。そこからリバーサルに持ち込んだのに、相手がまたスイープしてという上下が入れ替わる攻防が2度もあって。カリエフのあのスイープもそうですし、小手投げも見るべきモノがありました。
レスリング王国でありながら、あの柔道っぽい投げは米国にはない。アレは日本やロシアですね、腰に乗せる文化があるので」
──ボディロックの攻防で、大腰など腰に乗せる投げを使うロシア人選手を見ることがあります。
「柔道やサンボの文化があるからでしょうね。そのうえでバゴフのMMAを見ていると、穴はあります。スタンドではワイドスタンスで蹴るからトントンとならず、トン・トンと蹴ってバランスが悪い。だからパンチももらっている」
──ロシアのトップでウェルラウンダーでない、バゴフは逆に異端かもしれないですね。
「カリエフの方が全部できる選手でしたね。そのカリエフから足を触るとテイクダウン、そしてハーフからボディロックのパス……グラップリングをやり込んでいるし、体に合ったスタイルですね」
──カリエフも下攻めができるから、スクランブルより下の展開が多くなりました。
「いや、あの選手はガード強いですよ。バゴフにパスされても、足を戻していましたからね。でも、4Rになると横三角からアームロック……慧舟會っぽい攻めでタップを取りましたね。
僕自身アームロックが上手じゃないというのもあるけど、アレは疲れてから極めるのは難しい技です。それをバゴフは力で持っていきました」
──肩に遊びがあり、一気に持っていくので怖かったです。
「極まると、バキンと壊れるみたいな。ただし、ヒジが閉じ気味開き気味だったので、アレがヒジの内角が広い形で極めに行くと肩が壊れていたでしょうね。ただし、いずれにしても、あれは力で極めています」
──なるほど。バゴフはACAのライト級王者になりましたが、フェザー級のマゴメドシャリポフ、バンタム級のピョートル・ヤンのようにUFCで活躍できるでしょうか。打撃とスクランブルが圧倒的に強いUFCファイターを相手にして、あの戦法で通じるのか。
「あぁ僕はもうACAはACAとして、そこで完結しているのでUFCでどうかという見方はしていなかったですね。あの王国のなかで、どんな奴がいるのかって見ているので。ただ、フライ級のアスカロフが出て行った時みたいにブランドン・モレノに苦戦した。それはもう分かりきったことじゃないですか?」
──そうなりますか。自分などロシアのトップはUFCでもトップだという風に見がちです。
「それも分かります。ロシアはそれだけ幻想が持てる国です。幻想を見ちゃう。コイツはヤバイっていう風に。でも、資本主義ってよくできていて、UFCという頂点にある場所には強いヤツらが集まっています」
──伝える立場としては、幻想を持てるロシアは貴重です。
「日本でいえば摩嶋(一整)選手とかそうじゃないですか。幻想を抱きやすいです。だから僕は枠のなかでやれって言っているんです。枠のなかでやることで、そういうモノを見ることができる」
──そう考えるとUFCはロシアを掘り、ロシアはに無尽蔵に人材がいるという幻想を持てます。
「軽量級は、ですね。70キロがどうなのか……56、61、65キロのロシア人は良いところまでいけそうですね」
──つまりロシアといってもダゲスタンなどで、スラブ系のミドル級以上の大きな選手ではないといことですね。
「ダゲスタンの軽いクラスは強いです。そしてバゴフ、カリエフ、それにACBの前ライト級チャンピオンだったアブドゥルアジス・アブドゥルバクヘヴァも強い。
──ライト級いえばフェザー級から上げたユーソフ・ライソフもいます。
「今のフライのチャンピオン……ユヌス・アフロエフ、バンダム級で田中路教選手と戦う予定だったオレッグ・ボリソフにギロチンで一本勝ちした選手……」
──アブドゥルラクマン・ドゥダェフですね。
「彼らも確かに強い。でも、どこまでACAと同じコンディションでUFCで戦えるのか。勝っているけど、ピョートル・ヤンなんて落ちていますよね。相手が強いから相対的に落ちているとうのは、ありますけど……」
──体が小さくなっている。
「なっていますよね!! ACBの時の方が圧倒的に強かったと思いませんか?」
──確かに、そう思います。
「そこが強いロシア勢の問題です」