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【PJJC2019】フェザー級世界王者ヒルテイラーを破り優勝、超新時代の旗手マテウス・ガブリエル

PJJC2019【写真】とんでもないことになりつつあるフェザー級だ (C)IBJJF

3月21日(木・現地時間)から24日(日・同)にかけて、カリフォルニア州アーヴァインのブレン・イベントセンターにてIBJJF主催のブラジリアン柔術パン選手権が行われた。レビュー第5回は、まさに群雄割拠──ムンジアル級の激戦が繰り広げられたフェザー級の決勝の模様を振り返りたい。


世界的強豪がズラリと顔を揃えて注目度の高かったフェザー級では、初日の一回戦で波乱が起きた。活躍が期待されたコブリーニャの息子ケネティ・マシエルが、チェックマット所属で昨年茶帯世界王者のマテウス・ガブリエルと対戦し、迅速の腕十字で左腕を完全に伸ばされてしまう。その腕をさらに逆方向に折れ曲げられながらも、なんとか動いて脱出してみせたマシエルだが、もはや戦闘不能に。なんとわずか1分半で腕を破壊されての試合放棄を余儀なくされたのだった。

勢いに乗ったガブリエルは、続く準々決勝で一昨年、昨年と連続世界2位のレオナルド・サジオロと対戦。恐るべきスピードのベリンボロと50/50からのスイープを決めてポイントを取り、逆にサジオロのスイープはうまく場外に逃げてポイントを回避してみせて、なんと6-2という明確な差を付けての快勝。さらに準決勝でもハファエル・マンスールを退け、昨年の世界王者にして優勝候補筆頭シェーン・ヒルテイラーとの決勝戦に勝ち進んだのだ。

<フェザー級決勝/10分1R>
マテウス・ガブリエル(ブラジル)
Def. by 4-4 アドバンテージ 2-2 ペナルティ 2-3
シェーン・ヒルテイラー(米国)

序盤はダブルガードによるブレイクが2度続き、つまり両者に2つのペナルティ&1つのアドバンテージが与えられた決勝戦。スタンドでヒルテイラーが前に出るとガブリエルが飛びつきオモプラッタを仕掛ける。ヒルテイラーがその腕を抜いて上のポジションで落ち着くと、これがテイクダウンということで2点が与えられた。しかし、下になったガブリエルはすぐにベリンボロで回転して上を取り返し、2-2と追いついてみせた。

その後両者は50/50やダブルガードの攻防を繰り広げるも、どちらも無理せず。5分が過ぎる。ヒルテイラーは片側をラッソーで絡み、もう片側でアキレス腱固めの体勢を作るような形で動かず試合を膠着させ、点差がないまま両者の攻防は終盤へともつれ込んで行った。

残り1分30秒、立ち上がったガブリエルに対し、内側からリバースデラヒーバで右足を絡めたヒルテイラーは、左腕で襟を取りながらの内回りスイープ狙いへ。バランスを保つガブリエルは、やがて倒れこみながらヒルテイラー左腕を伸ばしたまま捕獲。そのまま体をずらして腕十字へ。腕を完全に伸ばされたに見えたヒルテイラーは、なんとか回転して逃れて両者は場外に。この攻撃でガブリエルはアドバンテージを得て、残り40秒で世界王者からリードを奪ってみせた。

大歓声のなかでスタンドから再開。追い込まれたヒルテイラーはまっすぐ前進しガブリエルにダイブ。ガブリエルもほぼ同時に引き込むが、これがテイクダウンと判定されてヒルテイラーが4-2で再逆転に成功する。時間のないガブリエルは即ベリンボロへ。背中を取られそうになったヒルテイラーが立ち上がると、ガブリエルもその右足を抱えて立ち上がりテイクダウン狙いに。ヒルテイラーの体を振り回すようにバックを取りかけたガブリエルだが、その勢いでヒルテイラーは場外へ。ここでレフェリーは、ヒルテイラーに場外逃避のペナルティを宣告する。前半にダブルガード膠着が2度あったため、これが3度目のペナルティとなり2点を得たガブリエルが、残り11秒で再々逆転に成功したのだった。

スタンド再開すると、ヒルテイラーは最後の大逆転を狙いテイクダウンへ。しかしガブリエルは無理せず下がって両者は場外に。残り数秒でまた再開すると、突進したヒルテイラーはシングルレッグ。すぐにボディロックに移行してガブリエルのバランスを崩すものの、背中を向けてヒザ付きの体勢となってテイクダウンを回避され、試合終了。

最後の攻撃でヒルテイラーにアドバンテージが一つ与えられ、両者はポイント4-4、アドバンテージ2-2と並びはしたが、与えられたペナルティの数がヒルテイラーの方が多いため、レフェリー判定を待たずにガブリエルの初優勝が決定した。

初戦でマシエルの腕を破壊し、準々決勝では世界2位のサジオロに明確な差を付けて完勝したガブリエル。決勝では、今後一時代を築くかとさえ思われた新世界王者ヒルテイラーの腕を伸ばしかけた挙句、終盤大逆転勝利。凄まじい極めと恐るべきキレのベリンボロを使いこなし、場外ブレイクを巧みに用いるインサイドワークと、土壇場の競り合いにおける無類の勝負強さまで併せ持った驚異の新黒帯が、ここに登場したのだった。

もっとも、最後にヒルテイラーに場外逃避のペナルティを与えたジャッジングには疑問の余地がある。スイープを回避しようとしたヒルテイラーは尻餅はおろかヒザも付かされていない状態であり、さらに明確な意図を持って自分から逃げたというより、攻防中の勢いで場外に出たように見受けられたからだ。

日本人としては、これが場外逃避と判断されるのならば、ルースター級準決勝の終盤に芝本のスイープからテイクダウンで攻め込まれ、背中を付けながら場外に出たイアゴ・ガマはどうなるのだ、と言いたくもなろうというものだ。

ただ、この試合における両者のパフォーマンスを見てみると、ヒルテイラーが取ったポイントは、全てガブリエルの引き込みと組み合わさった中でのテイクダウンだ。さらに試合時間の多くにおいて、ヒルテイラーは体勢を固定し膠着させていた印象が大きい。対してガブリエルは、下からのベリンボロでしっかりヒルテイラーを返し、また腕十字であわや一本の場面まで作ってみせていた。つまりガブリエルの凄まじい柔術技術が、ヒルテイラーのそれを上回る輝きを放っていたことは否めない。

とまれ新黒帯ガブリエルの衝撃の初戴冠により、5月の世界大会がますます楽しみになってきた──。

【リザルト】
フェザー級
優勝 マテウス・ガブリエル(ブラジル)
準優勝 シェーン・ヒルテイラー(米国)
3位 ハファエル・マンスール(米国)、アイザック・ドーダーライン(米国)

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