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【Gray-hairchives】─17─May.27 2016 Angela Lee 世界王者になってから3週間後のアンジェラ・リー

Angela Lee【写真】19歳と11カ月。プロMMAデビューから1年でONE世界女子アトム級王者に就いた3週間後のアンジェラ・リー。あどけなさが十分に残っていた(C)MMAPLANET

31日(日)に東京都墨田区の両国国技館で開催されるONE90「A NEA ERA」。セミファイナルでシィォン・ヂィンナンの持つONE世界女子ストロー級王座に挑戦するONE世界女子アトム級王者アンジェラ・リー。

今や押しも押されもせぬONEをリードする存在となったアンジェラ姐さんは今から2年10カ月前、デビュー1年に満たない時にV.V Meiを破り、ONE初の女子世界王者に輝いている。世界王者になった3週間後にタイで会った19歳のアンジェラが発する言葉は、明るさに満ち溢れたものだった。

Gray-hairchives─第17弾はゴング格闘技290号より、ONE世界女子アトム級王者アンジェラ・リーのインタビューを再録したい。


──5月6日、V/V Mei選手を破りONEにとって初の女子王者、世界アトム級王者となりました。改めてあの勝利と王座獲得についてどのような気持ちでいますか。

「ここに辿り着くまで色々あったし、去年の5月にONEで初めて戦った時から最初の女子王者になるのは私だっていう目標を打ち立てていたので、とてもハッピーよ。ただ、それ以上にMeiという素晴らしい対戦相手との激闘の末にチャンピオンベルトを巻けたことに、より大きな喜びを感じているわ。ホントに夢が叶ったんだって」

──実はあの試合前まで、アジアで最高に注目を集めている19歳の女子選手も、対戦相手の能力が定かでないことで、どこまでの実力を持っているのか測れない部分がありました。そして、Mei選手は十分なキャリアがある。あの試合こそアンジェラの真価が問われるという風に見ていました。

「JEWELSのチャンピンだし、彼女のキャリアが私より多いことは、直視すべき現実でしかなかった。そして彼女の狙いはフィニッシュすること。そこは私と同じだった。私もMeiもフィニッシュを狙っていたから試合は一進一退、そしてノンストップ・アクションになったのよ。私は5Rの最後の瞬間まで試合を終わらせようと戦っていた。

世界中の人がストリーミングを視聴している状況で、これが女子MMAなのよっていう戦いを見せることができたし、試合が終われば互いに健闘を称え合い私達が真のマーシャルアーチストだということも分かってもらえたと思う。女子MMAにとって素晴らしい一夜になったわ」

──あのタフファイトを攻める姿勢で乗り切ったことで、アンジェラ・リーは実力者として認知されたと思います。

「ありがとう。とても嬉しいわ。多くの期待を背にして戦っていたので、絶対に皆をガッカリさせたくなかった。父と母がケージサイドにいてくれたし、全力で戦い抜けることができた。あの試合で勝利し、自分が何者か分かったような気がするの。そう、私は本当の意味でマーシャルアーチストだって思えるようになったの」

──僅かキャリア1年で世界王者になったことについて、どのような想いでいますか。

「確かにプロのMMAで戦うようになってから1年だけど、これまでの人生でずっとマーシャルアーツと隣り合わせで生きて来たし、コンペティションと共に歩んできたから。自分の過去なんて、明確な実戦キャリアの前には何の根拠もないかもしれないけど、私は私自身、私のコーチである父、そして父が言ってくれた『素晴らしい機会を手にできたんだ。これまでの人生はこの戦いのためにあったんだよ。このチャンスをモノしよう』という言葉を信じていたわ」

──アンジェラの格闘技人生は、当然のようにお父さんのケンさん、お母さんのジェールスさんの影響が強いわけですね。

「マーシャルアーツに励むようという要求はなかったけど、やはり両親ともにマーシャルアーチストで、ジムまで持っていると自然と格闘技を学ぶようになるわよね(笑)。赤ん坊の頃から、父が私をジムに連れて行っていたわけだし。グレイシー一族のようなものよ(笑)。両親揃って指導をしていて、マットサイドで私は寝転がっていたの」

──素晴らしいです(笑)。

「組み技の方が打撃より質が高いと自分でも自覚しているけど、それには理由があるの。子供の頃から女の子の練習相手がいなくて、いつも体格の大きな男の子たちと練習するから打撃は危険でグラップリング中心だった。打撃に関しては、グラップリングと比較すると、スパーにしても経験値はずっと少ないのが現実のところ」

──なるほど。ところでお父さんが始めたトータル・ディフェンス・システムとはいったいどのようなマーシャルアーツだったのでしょうか。

「セルフディフェンスだったけど、フルコンタクトで打撃からテイクダウン、そして柔術やレスリングが混ざっていて、カナダではそのスタイルの下でスポーツ柔術の指導もしていたわ。私や弟のクリスもタイガーバームMMAという大会で優勝しているわ。生まれはバンクーバーだけど、7歳の時に両親がハワイに移りユナイテッドMMAというジムを開くようになったの。父はMMAがNHBと呼ばれていた時代から、打撃からテイクダウン、グラップリングという流れを身に着けていたから、スムーズにMMAに移行できたし、私とクリスもセルフディファンスとしてあらゆる局面での対応方法を子供のころから習っていたから、MMAに転じることは何も問題なかった」

──クリスの存在も格闘技を続ける上で大きかったのではないですか。

「その通りね。クリスは私の2歳下で、いつも競い合っていた。自然と互いの背中を押し合う存在になっていたの。クリスがいてくれたから、私は成長することができた。とてもラッキーよ」

──小学校のときなど、学校の友達で一緒に格闘技をする子はいなかった?

「学校では学校の習わしに従って遊んでいたわよ(笑)。でも、学校が終われば真っ直ぐジムに行って、クリスとトレーニング。ジムこそ私にとっては、家族を感じることができる空間だったの。今じゃクリスの方が大きくなってしまったから、子供の頃のように全力でスパーをすることはなくなったけど、それでもテクニックの確認なんかは2人で続けているわ」

──そうやって子供の頃から、自然と戦う術を身に着けていたのですね。

「今も母は父のクラスでトレーニングを続けているし、私とクリスはキッズ・クラスで指導している。家族が揃って同じことをすることが全ての人にとって良いかどうか、私には分からないけど、少なくとも私にとっては凄く良かったと言えるわ」

──本格的にMMAファイターを目指そうと思ったのは?

「両親から試合に出るようにプッシュされたことはなかったけど、私は競い合いが好きだった。ううん、試合に出ることより試合に勝つことが好きだったの。16歳の時に弟のクリスとギリシャで行われたジュニア・パンクレーション世界大会に出た時、色んな国からたくさんの人が出場している様子を目にして、私がどれだけマーシャルアーツを愛しているのか分かった。このままマーシャルアーツを続けたいって強く思うようになったの」

──プロMMAファイターになりたいと御両親に伝えた時は、どのような反応だったのでしょうか。

「凄くナーバスになっていたし、私がそう言い出すことを恐れているようにも感じられたわ。そうそう、ハワイでは18歳になるまでMMAの試合に出ちゃいけなくて……高校を卒業した直後、7月に18歳の誕生日を迎えた私は『ようやく、MMAで戦うことができる』って、ごく自然に言葉が出たの(笑)。父もどれだけ私が懸命にトレーニングをしてきたかを分かっているし、認めてくれたわ。だって一緒にUFCやPRIDE、あらゆるMMAの試合を見て、私は成長したんだから」

──お父さんも今さら反対できないですね。

「その通り(笑)。けど、実際にプロになってからも両親は私が傷つくことを怖がっているのは確かね」

──当然だと思います。

「だからトレーニングで私をハードにプッシュしてくれて、試合では少しでも早く決着がつくよう色々とアドバイスしてくれる(笑)。とにかくダメージを受けないよう戦うことを第一に考えてくれるわ」

──プロになる。それがONEでの華々しいデビュー戦になるというのは異例です。

「アマチュアで試合をしてから、どういう進路が良いのか、色んな選択を考えるなかでONEという舞台が一番良いと思ったの。父方のファミリーはシンガポールにいるし、一度シンガポールに行ってどんなMMAジムがあるか現地で調べることにして。それって意味の無いことよね? だってイヴォルブMMAがあるんだもの。父はマット・ヒュームにコンタクトを取り、サインをしてONEでデビューすることがアッという間に決まったわ」

──グラスルーツ・ショーでなく、あのような大舞台で1万人近い観客の前で前に初戦を戦う。それも前例のないことです。

「凄く光栄に思っているわ。デビュー後も注目を浴び続け、確かにプレッシャーにもなったけど……そうね、泣き出してしまうこともあったわ」

──分かるような気がします。18歳や19歳であの注目度の高さは。

「プレッシャーが両肩に掛かってしまって。解決策はただベストを尽くすことだけだった。シンガポールだと街を歩いている時も誰かが私に気付く。でもファンの皆は笑顔で私に接してくれて、分別のある振る舞いをしてくれるので嬉しいことでもあるかな。ハワイに戻ると、普通にショッピング・モールで買い物もできているし。ハワイにいる時はリラックスできているから、酷くフラストレーションがたまることはないわ」

──今はハワイとシンガポールを行き来して練習しているということですか。

「そう。ハワイにいる時は私も弟も朝の5時に起きて、ジムに直行してそれぞれのトレーニング。昼からフットワークやランニング、そして夕方にキッズの指導をしてから、もう一度トレーニング。1日に2時間の練習を3度行うのが日課ね。それを週に5日、土曜日は違ったメニューがあり、日曜日に休息を取るのが習慣になっているわ。ハードかな?(笑)」

──オヤジくさいことをいうとデートに行く時間もないですね(笑)。

「アッハハハハ。土曜日の夜は、次の日が休みだし時間はあるわ。土曜日の夜に羽を伸ばす感じかな(笑)。ハードなことは分かっているけど、ファイターなんだから何かを犠牲にしないといけないし、それだけ価値のある日々を送っていると思う」

──そして、シンガポールではイヴォルブで練習していると。

「イヴォルブで練習するようになったのは去年の9月からで、素晴らしいステップアップになったわ」

──青木真也選手は、リー姉弟は練習でもガチだって言っていました(笑)。

「アハハハ。シンヤはとても親切で、彼のようなレジェンドと練習できて凄く光栄だと思っている。シンガポールはそれまでバケーションでしか訪れたことがなかったので1カ月や2カ月という長い期間滞在し、イヴォルブで練習するのは未知の経験だった。練習は1日に2度。朝は9時から11時まで。ランチを取って午後2時から4時までもう一度練習。指導がないからトレーニングで集中できる一方で、もの凄くハード。最初はとても大変だったけど、次の機会では大分慣れることができたわ。チームメイトとも上手くやっていて、一緒に食事をしたり、リラックスできている。この次に行った時はもっと簡単になるでしょうね」

──このように一気にスターダムに上がると周囲の要求も高くなると思いますが、今後のキャリアはどのように考えていますか。

「父に言われているのは、まだ私はファイターとして30パーセント、次に40パーセントを目指そうということ。私にはまだまだ時間が残されているし、自分に足りない部分を埋めていく作業が楽しくてしょうがないの。アンジェラ・リーがなれる最高のファイターに成長したい。とにかく今は、自分の未来像に頭を巡らせるのではなく、貪欲にトレーニングを積んでいきたい。そして、最高になれる自信を持ってこれからの日々に臨んでいきたい」

──ONEの王者になったばかりですが、女子アトム級の層はそれほど厚くないです。Invicta FCやUFCで戦うことを考えることはないですか。

「う~ん、確かにインヴィクタやUFCは選手層も厚いけど、私はONEで戦っていくわ。これからONEにも女子アトム級の選手がどんどん集まってくるでしょうし。ONEは急成長しているから3、4年後は凄い選手層になっているはずよ。マット・ヒュームやONEのスカウトの目は確かよ。まだまだ世に出ていない実力者が世界中に埋もれている。ONEがそんなファイターを発掘してくれることを期待しているわ。何といっても、私はONEとともに成長するチャンピオンでありたいから」

──UFCには興味がない?

「UFCに興味がないというよりONEが好きなの。アジアのカルチャーが根付いたファイト。アジアのそれぞれの国からファイターを見出している。UFCとONEは別モノね、ただのケージファイティングではないという認識で私はいるわ」

──しかし、ファンやメディアからすると、ONEのアトム級といえば52.2キロだから、どうしてもユニファイドのストロー級ファイターと比較しがちです。例えば──ヨアナ・イェンジェチックはアンジェラにとって、どのような存在ですか。

「分かるわ。そういう風に尋ねられることは。う~ん、そうね……私はこのことに何かを言及する立場ではないんだけど、私がヨアナと対戦するのであれば、いつの日か団体の壁を超えたチャンピオン対決として戦ってみたい。ここで獲得した王座を放り投げて、他のチャンピオンと戦うような真似はできない。ONEが私をここまで育ててくれたことを忘れたくないから」

──了解しました。では最後に、これからファイターとしての目標、そしてアンジェラ・リーとしてどのような人生を送っていきたいかをお願いします。

「ファイターとしては無敗であり続けること。そしてアップグレードを続ける。ロンダ・ラウジーがUFCで果たしたような役割を、ONEのために果たしたい。ただ初めての女子世界王者としてではなく、男女を問わず最高のチャンピオンと称されるようになってみせるわ。そしてアジアにおける女性の地位を北米並みに上げたいの。それが人生の目標かな。カレッジで勉強も続けているし、ただファイターとして活躍するだけでなく、社会に貢献できる人間になりたい。そのためにベストを尽くしたいと思っている」

──アンジェラ、今日はありがとうございます。最後に日本のファンにメッセージをお願いします。

「アンジェラ・リーの旅は始まったばかり、これからも私のファイトを日本のファンが注目してくれるととても嬉しいわ。色々なワクワクするようなことがこれから起こると思うでの楽しみにしてね。アリガト」

■ONE90対戦カード

<ONE世界ライト級(※77.1キロ)選手権試合/5分5R>
[王者]エドゥアルド・フォラヤン(フィリピン)
[挑戦者]青木真也(日本)

<ONE世界女子ストロー級(※56・7キロ)選手権試合/5分5R>
[王者]シィォン・ヂィンナン(中国)
[挑戦者]アンジェラ・リー(米国)

<ONE世界ミドル級(※93.0キロ)選手権試合/5分5R>
[王者]オンラ・ンサン(米国)
[挑戦者]長谷川賢(日本)

<ONE世界バンタム級(※65.8キロ)選手権試合/5分5R>
[王者]ケビン・ベリンゴン(フィリピン)
[挑戦者]ビビアーノ・フェルナンデス(ブラジル)

<ONEフライ級(※61.2キロ)ワールドGP準々決勝/5分3R>
デメトリウス・ジョンソン(米国)
若松佑弥(日本)

<ONEライト級(※77.1キロ)ワールドGP準々決勝/5分3R>
エディ・アルバレス(米国)
ティモフィ・ナシューヒン(ロシア)

<キック72キロ契約/3分3R>
ヨーセングライ・IWE・フェアテックス(タイ)
アンディ・サワー(オランダ)

<ONEフライ級(※61.2キロ)ワールドGP準々決勝/5分3R>
ダニー・キンガド(フィリピン)
仙三(日本)

<ONEフライ級(※61.2キロ)ワールドGP準々決勝/5分3R>
カイラット・アクメトフ(カザフスタン)
リース・マクラーレン(豪州)

<女子アトム級(※52.2キロ)/5分3R>
V.V Mei(日本)
クセニア・ラチコワ(ロシア)

<フェザー級(※70.3キロ)/5分3R>
ゲイリー・トノン(米国)
アンソニー・アンゲレン(オランダ)

<ムエタイ・フライ級/3分3R>
ロッタン・ジットムアンノン(タイ)
ハキーム・ハメック(フランス)

<ムエタイ・バンタム級/3分3R>
パニコス・ユーサフ(キプロス)
モハマド・ビン・マフムード(マレーシア)

<キック・フライ級/3分3R>
秋元皓貴(日本)
ヨゼフ・ラシリ(イタリア)

<ライト級(※77.1キロ)/5分3R>
ユン・チャンミン(韓国)
バラ・シェッティー(インド)

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