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【Special】月刊、大沢ケンジのこの一番:3月:アンジェラ✖スタンプ「MMAは皆ができる競技になった」

【写真】ONE史上最大のビッグショーで女子最軽量級の世界戦がメインで組まれたこと、試合内容でも納得させたことに大沢ケンジは何を感じたのとか…… (C) MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、大沢ケンジ氏が選んだ2022 年3 月の一番。ONE130で組まれたアンジェラ・リー×スタンプ・フェアテックス戦について語らおう。


──大沢さんが選んだ3月の一番は?

「これはベタな選択かもしれないですが、アンジェラ・リー✖スタンプ・フェアテックスです」

──ベタでしょうか(笑)。

「解説をさせてもらっている大会のメインですしね。そういうことだろうって思われるじゃないですか(苦笑)」

──そんな下衆な意見は無視しましょう。素晴らしい試合でした。

「これは凄いことだと思ったんです。女子の最軽量級の試合が、10周年記念大会のメインを張っている。格闘技って、青木君も口にしますけど、『大きくないと』っていう見方があるじゃないですか。

それってプロレスとかもあるんですけど、格闘技が見世物じゃないけど怪物と怪物が戦い合うモノという見方があり、大きな選手しかメインを張れない。そういう時代が確実にありました。UFCも随分と軽量級の価値観を上げる試合を組んできましたけど、やはりビッグショーのメイン……その最後の最後にフライ級の試合やバンタム級の試合が来るってなかなかないです」

──トリプルメインの一発目──的な試合ですよね。

「そう、そうなんです。ないんですよ。そのなかでONEの10周年記念大会で女子アトム級のタイトル戦がメインになり、それを皆が受け入れている。さらにいえば、皆を納得させるメインでした」

──その通りですね。20試合、10時間超のイベント。最初から視聴しているファンは疲労困憊だったと思います。でも、そんな疲れを吹き飛ばす試合内容でした。

「それってONEの功績であると思うんです。ONEが始まった2011年にタイの女の子がMMAファイターになろうなんて、誰が思うことがあったのかっていうことですよね。

ONEはシンガポールは当然としてタイやマレーシア、インドネシア、フィリピンの血管の隅々まで血を巡らせた。本当にそう思える大会であり、メインでした。アジア、東南アジアの国はMMAというスポーツにおいて後進国でした。でも、そこにMMAを根付かせた。その象徴がスタンプの今大会のメイン出場だったと思います」

──ONE以前にMMA、しかも女子MMAが存在した日本。そこから出場している平田選手は、暫らく戦いたい相手にスタンプという選手名は出してはいけない。そう感じるほどでした。

「平田選手に関してはここで意見することは控えますけど、ONEの功績という部分でいえば彼女に勝ったジヒン・ラズワンはマレーシア人です。ONEがなければマレーシア人女子選手がここまで育つことはなかったと思います。

普通の体格、日本人でもいくらでもいる体格の女子がオールター大会のメインを締めた。アンジェラはママですしね。そのアンジェラがボディを効かされた。ボディを効かせたスタンプがまず凄いです。そしてアンジェラは完全に気持ちが折れた。

それでも挽回した。組まれたスタンプも、そこで一方的に攻撃されるわけでなく反撃もしていた。

アンジェラはツイスターまで駆使して戦って。それをまたスタンプも耐えていた。最後、RNCを極めていないとアンジェラは負けていたと思います」

──確かに。試合がラウンドを跨ぎ、スタンドでボディを抉られると終わっていたでしょう。

「彼女自身も賭けに出ていたと思います。結果、MMAの面白いところが全て詰まった試合になっていました。僕がMMAを始めた時って、僕の階級(※バンタム級)は世界になくて。日本でもパンクラスもDEEPもなかったです。重い階級の人しか目立つことがないスポーツでした。

それが少しずつ下の階級が充実してきた。修斗でもベルトが誕生し、キャリアの終わりごろにメジャー・タイトルもできた。日本には女子MMAはあったけど、マニアックな人気しかなかった」

──レベル的にも北米で女子が定着するまで、男子が認めないのも頷ける状態も長かったです。

「ハイ。ホント、そうですよね。それが国内ではRIZINで女子が認められるようになった。ONEという規模がさらに大きな舞台で……繰り返しますけど、アンジェラとスタンプがメインを戦い、試合内容で納得させた。凄い時代になったと思います。

MMAは選ばれた人にしかできないモノではなくて、皆がデキる競技になった。そう思わせてくれる試合で、本当に感慨深いモノがありました。

きっとタイで、あの試合を見て『私が敵を討つ』って思った女の子たちがMMAを始めますよ。個人的には勝てば最低でも1300万の女子タイトルマッチ──日本からも、そこをもっと目指して欲しいです。あの舞台を」

<この項、続く>

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