【ONE FN43】高橋SUBMISSION雄己、世界最強ベイビーシャーク戦のゲームプランは「五分五分ですかね」
【写真】取材はタイ現地入り前。すでに前日計量はハイドーレションともどもクリアしている(C)SHOJIRO KAMEIKE
15日(金・現地時間)、タイはバンコクのルンピニースタジアムにて開催される「ONE Fight Night43」で、高橋SUBMISSION雄己がベイビーシャークことジオゴ・ヘイスと対戦する。
Text by Shojiro Kameike
高橋にとって2025年は大きな1年となった。3年振りの参戦となったポラリスでジェイク・ゴールドソープを35秒で下し、日本人選手としては初となる独占契約(※欧州内)を結ぶ。そして7月にはEBIコンバット柔術トーナメントで優勝。グラップリングを始めた時の夢を続々と叶えていく。
残る夢はポラリスの王座奪取――というなか、高橋に新たな夢が舞い込んだ。それが世界最強グラップラーであるベイビーシャークとの対戦だ。ベイビーシャークは昨年12月、米倉大貴を下してONEサブミッショングラップリングの世界フライ級王座を獲得。今回はバンタム級で高橋と対戦することに。
試合のオファーを受けた時、高橋は「こんなにグラップリングが好きだったんだ、と思うぐらい嬉しかった」と言う。かといって決して記念対戦ではない。世界最強のグラップラーに勝つために、高橋はONEのリングに上がる。
人生を賭けてきたのに本当のグラップリングを知らないまま終わっちゃうのかな、という寂しさと怖さがあったんですよ
――昨年ポラリス出場後のインタビューで「世界がヤバいというよりベイビーシャークがヤバい」と言っていましたが、そのベイビーシャークとの対戦が決定しました。
「(石黒)翔太さんがベイビーシャークとONEで試合をした時ですよね」
――当時、自身がベイビーシャークと対戦することになると現実的に考えていましたか。
「いえ。ベイビーシャークは階級が一つ違うじゃないですか。僕が主戦場としているのは135ポンドなので、戦うことはないかなと思っていました。そのあと自分はEBIでチャンピオンになり、同じUFCファイトパスで中継されているUFC BJJのほうに行くのかな、と。僕のEBIで優勝した選手(※EBI25ライト級トーナメントで優勝したランドン・エルモア)もUFC BJJに行っていましたから。ONEにいるベイビーシャークとは階級的な部分でも、団体的な部分でも関わることはないだろうと考えていたんですよね。
でもUFC BJJのオファーはないなかで先にONEの話があって。ポラリスのプロモーターがONEと懇意にしているみたいで、ポラリス側が自分のマネージメントを買って出てくれて、今回の試合に至りました」
――高橋選手は今回がONE初出場。その相手がいきなりベイビーシャークというのは……。
「いやぁ……『俺、こんなにグラップリングが好きだったんだ』と思うぐらい嬉しかったですね。
EBIとポラリスのチャンピオンになりたい。それがグラップリングを始めた時の夢でした。自分が決めた夢だから、それは叶えるまでやろうと決めていたんですよ。ただ、135ポンドで戦い続けるなかで『コイツはヤバイ』と思える選手は、マイキー・ムスメシぐらいしかいない。他のトップ選手は誰かが誰かに勝ったり負けたり、という感じの状況だと思います。
もともと145ポンドでイチから実績を積んでベイビーシャークと戦うことは、全然考えていませんでした。それが今回は降って湧いたような話というか、良い意味のサプライズで。ベイビーシャークみたいなレベルの選手が、全力でブッ倒しに来る。スパーリングではない本気で、極めに来るだけじゃなくゲームとしても勝ちに来る。ポイントを狙いつつ極めに来る。
実はEBIが終わったあとから『そんなレベルの選手の本気に触れることがないまま、キャリアを終えるのかな……』という寂しさがあったんです」
――寂しさ、というと?
「EBIで優勝したことにより、135ポンドでは世界の頂点と終わりが見えてきてしまいました。自分が決めたことだからポラリスのベルトは獲る。でも135ポンドに『コイツはヤバイ』と思える選手がいない。今後はそこそこ骨のあるヤツに勝ち切って終わりになるかな。自分はコレに人生を賭けてきたのに本当のグラップリングを知らないまま終わっちゃうのかな、という寂しさと怖さがあったんですよ」
――……。
「だからベイビーシャーク戦のオファーが来た時は、ホッとした気持ちがあって。勝てるとか負けるとかっていう話は二の次です。ベイビーシャークは最強オブ最強みたいな選手で、そんな選手の本気を知らないで終わる恐怖から解放されたという……変な話かもしれないですけど(苦笑)」
――それこそが本当の高橋SUBMISSION雄己の姿ではないですか。やはりグラップリングで生き、グラップリングで死にたいファイターなのだと思います。
「アハハハ。やっぱり好きなんでしょうね、グラップリングが本質的に」
――もちろんそれが記念や経験のためではなく、一番強いヤツを相手に勝つ術を見つける。
「うん、そうですね。僕の中では『これなら賭けが成立するかな』というぐらいのゲームプランは出来ているし、現実的なクオリティでもあると思います」
グラップリングの試合として他の変数が入ってきてくれたほうが、世界一のベイビーシャークに対する戦略は立てやすいです
――そうしたゲームメイクを証明したのが、まさにEBIでの優勝だったかと思います。ポラリスでバシッと極めたあと、次はEBIのトーナメントで勝ち上がるための術を突き詰める。しっかりとフィジカルを鍛え、オーバータイムで勝つためのプランも練っていた。そのスタイルを貫いたことは高橋選手の適応力と、振り幅の広さを証明したのはないですか。
「自分でも手応えはありました。僕の強みというのは――すごくぼんやりとした言い方をすれば、ゲームメイクです。それがEBIのトーナメントを通じて確信に変わり、今はさらに深まっているんじゃないかと思います。一本勝ちとか他の勝ち筋もたくさんあったとは思うけど、全試合走り切って優勝する確率が最も高いプランを淡々と遂行しました。
トーナメントで自分が当たりそうな選手の試合映像は一通り視ていて、相手の動きと試合展開は自分が想定していたものにパコッとハマりましたね」
――対するベイビーシャークも石黒選手をバシッと極めた次は、米倉選手を相手にしっかりと判定で勝っています。
「ベイビーシャークほどの選手になると、止めようがないスペシャリティみたいなものを一つ持っていて。彼の場合、それはパスだと思うんです。ただ、そこに目を奪われがちですけど……今の試合時間と状況を的確に理解して、相手と自分で噛み合った展開の時に『この展開なら自分はオーバーできるから、ここで取ろう』という見極めがすごく上手いですよね。複雑でゲーム性の強いADCCルールで2連覇できるのは、そこも重要なポイントで」
――ポイント制のADCC以外に同じサブオンリーのポラリスと比較して、ONEのサブミッショングラップリングについては、どのような印象を持っていますか。
「よほどの時だけキャッチとコールされることがある、というだけで、あとは概ね他の大会と同じ印象です。でもそれ以上に――ポラリスやWNOと違うのは、ジャッジが会場の盛り上がりに左右されるなという変数があって。そこはポジティブに捉えて、ゲームプランに組み込んでいますけど」
――会場の盛り上がり、ですか。
「それは大きいと思いますね。あとポラリスやWNOと違い、じっくりと柔術の技術を見たいというコンセプトではない」
――ベイビーシャークも以前インタビューで「ONEはムエタイ、MMAと同じ舞台で戦いグラップリングのことを余り知らないファンが中心だ」と言っていました。
「あっ、同じ印象かもしれないです。『今の地味だけど技ありだね』とか、やっているマニアが唸るものを求めるのがポラリスやWNOで。ONEだと盛り上がる動きをするとか、そういうところは大きくなってきますよね」
――ONEの場合コントロールするよりも、強引にサブミットを狙うほうが有利になるケースも見受けられます。
「かといってサブミッションを狙うためでもボトムに閉じこもり腕を引っ張る、足を引っ張るというのはダイナミックじゃないから、あまり好かれなかったりもしますしね。ただ、そういうグラップリングの試合として他の変数が入ってきてくれたほうが、世界一のベイビーシャークに対する戦略は立てやすいです」
――単純にルールだけの話ではなく、他の要素が入ってきたほうが良い、と。
「ゲームプランは決めていきますけど、自分より勝ち筋を見つけるためには、変数は多いほうが良いですよね。あまり多くは言えないですけど(笑)」
――そこはゲームプランに関わるわけですね。いずれにしても、いろんな幅を求められる。
「幅を求められるし、幅を生かしやすいルールかもしれないです」
――そのなかで勝ち筋を見つけていく作業は、好きなほうではないですか。
「僕、そこが天才なので(笑)」
――言い切りますね!
「ざっくり言えば、まず相手の思考を読むのが得意です。その思考が次はどのような行動に繋がるのか。『人はこうされたら、こういう気持ちになる。こういう気持ちになった人は、こう動く』と見える。いえば、展開を読む力ですよね」
――と同時に、常に最新の情報を得ていないと難しいとは思います。
「そうなんですかね? 情報の取り方は偏っているような気がしますけど(苦笑)」
――グラップリングというジャンルに限定すれば、日本で一番詳しい自信はあるでしょう。
「あぁ、そうですね。新しい技が開発され、流行っているのに日本では知られていないっていうものは多いです。ただ自分の場合……特に試合当日に、最先端の技術が自分のディスアドバンテージになるようなことはないと思います。
今、世界中の人たちが何を考えていて、どういう思考でその技を使っているのか、なぜその技が流行っているのかを知ることは――知っていないと、自分が起こしたアクションに対して相手がどう動くかを予測できない。それが積み重なると試合展開をつくりきれないですよね。
最新の技を得意技にするかどうか、自分の技術体系に組み込むかどうかは別の話で。その技から逃げるための手順を覚えろ、ということでもない。自分が最新の情報をインストールしておかないと、インストールしている相手の動きを正確に理解できない。そうなると試合展開をコントロールできなくなってしまいますから」
ベイビーシャークを相手に五分五分まで持ち込めたら、ゲームプランとしては上策だろうとは思います
――何においても「準備7割、現場3割」と言われます。選手それぞれに強みとパターンがある。柔術のようにトーナメント制であれば、そうしたトップ選手を相手に勝ち上がっていくために、普段から準備しておかないといけないことも多いかと思います。
「ただベイビーシャークのような選手は、誰も止めようがない明確な強みがありますからね。アマチュアのトーナメントは大会数も試合数も多いなか、対戦相手を全員は網羅できないじゃないですか。だから自分の得意な勝ちパターンが決まっていると思います。誰にも負けないスペシャリティがあるから、自分の強みを押しつけた時の相手の反応がすでに何パターンか決まっている。数式の中に、変わらない変数がある。
普通の選手だったら『この部分は相手のほうが強い。でもこの部分は自分のほうが強い』という変数が試合の中で毎回変わるなかで、ベイビーシャークは戦績が安定しているのは、『俺のほうが強い』という変数が決まり切っているからですよね」
――なるほど。自分の強い展開に持ち込むところも巧いのでしょうか。
「持ち込むというのが勝ちパターンの一つで。『相手がこれを嫌がると、こういう展開になるから、この流れだとポイント勝ちなり判定勝ちになる』というパターンはあると思います。ざっくり言えば『ここに持ち込めば勝てる』というパターンと、『これは避けてくる』というパターンの2択になる。しかもベイビーシャークの場合はそれだけでなく、全部できたうえでパスが強い、足関が強い」
――そのベイビーシャークと相対するために、自分の勝ちパターンも出来上がっていますか。
「普段であれば『よほどのことがないかぎり、これをやれば俺が勝つかな』と言えるものがありますけど、今回は……そこまでじゃないかなぁ(苦笑)。五分五分ですかね。でもベイビーシャークを相手に五分五分まで持ち込めたら、ゲームプランとしては上策だろうとは思いますけど」
――そのゲームプランを試合中に遂行する、頭の回転と反応の速さも高橋選手の武器でしょうか。
「う~ん、やっぱり試合前に時間を掛けますよ。いつも試合が決まってから思いつくことをノートに書き出すけど、今回はノート2冊を使いましたからね。試合中の処理速度は、そんなに自信はないです。それでも、だいたい想定していた試合展開になる。試合中の状況分析に脳のリソースを割いてしまうと、目の前のことを処理するスペックが減ってしまうと思うんです。試合中は『今は何分だからこう、ここからこう』と、自分への命令は単純にしていますね。試合直前と試合中は、簡潔に」
――すると準備7割、現場3割ではなく準備9割、現場1割ぐらいですか。
「あぁ、そういう感じですね。ここまで準備している期間は純粋に楽しかったです。ベイビーシャークに勝つということを命題に仕事をするのは楽しくて。反面、ゲームプランが固まるまでは『これは話にならないだろう』と不安になる時もありました。でも何やかんや勝ち筋は作ってきたたので、あとはしっかり勝ってくるだけですね。
今回ベイビーシャークに勝ったあとは、まず135ポンドでポラリスのベルトを獲る。次は大きいけどまた145ポンドに上げて、ベイビーシャークに勝った実績で自分がドキドキワクワク、テンションが上がる相手と試合していきます」
■視聴方法(予定)
5月16日(金・日本時間)
午前9時45分~ U-NEXT
■ONE FN43対戦カード
<ONE世界フェザー級(※70.3キロ)選手権試合/5分5R>
[王者]タン・カイ(中国)
[挑戦者] シャミル・ガサノフ(ロシア)
<ムエタイ・級/3分3R>
ペッタノン・ペットフォーガス(タイ)
ベン・ウーリス(英国)
<サブミッショングラップリング・バンタム級(※65.8キロ)/10分1R>
ジオゴ・ヘイス(ブラジル)
高橋Submission雄己(日本)
<ムエタイ・フライ級/3分3R>
アスラムジョン・オルチコフ(ウズベキスタン)
ジョーダン・エストゥピニャン(コロンビア)
<ストロー級(※56.7キロ)/5分3R>
猿田洋祐(日本)
ファビオ・エンヒッキ(ブラジル)
<ムエタイ・バンタム級/3分3R>
フィリッピ・ロボ(ブラジル)
ノンタチャイ・ジットムアンノン(タイ)
<バンタム級(※65.8キロ)/5分3R>
エコ・ロニ・サプトラ(インドネシア)
リト・アディワン(フィリピン)
<キック・フェザー級/3分3R>
ルオ・チャオ(中国)
ジニース・ソウザ・ジュニオール(ブラジル)
<ムエタイ女子アトム級/3分3R>
ヨハンナ・パーソン(スウェーデン)
マルティナ・ゴミンチャク(ポーランド)






















