【Special】月刊、青木真也のこの一番:9月─その壱─マゴメドシャリポフ×ブランドン・デイヴィス
【写真】青木真也をして研究する必要があるという技で一本勝ちし、もっと見てみたいと言わしめたマゴメドシャリポフ(C)Zuffa LLC/Getty Images
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ9月の一番、第一弾は9日に行われたUFC228からザビット・マゴメドシャリポフ×ブランドン・デイヴィスの一戦を語らおう。
──9月の青木真也が選ぶ、この一番。まず1試合目はどの試合になるでしょうか。
「マゴメドシャリポフとブランドン・デイヴィスの試合ですね」
──おお、ロシア人ならACBライト級選手権試合のアリ・バゴフ✖アブドゥルアジス・アブドゥルバクヘヴァ戦が来るかと思っていたのですが……。マゴメドシャリポフの試合を選んだのはどういうところからですか。
「あのハムストリングスを極めた、ヒザ十字ですよね。あの日はアルジャメイン・ステーリングも極めたじゃないですか? つまり、バックマウントからハムストリングスを極めるヒザ十字はカレッジ・レスリングの技なんですね。コントロールという部分で」
──筋肉伸ばし系の技かと。
「ハイ、ストレッチ系の技ですね」
──そういう筋肉へのサブミッションは伸ばす系にしても、潰し系にしてもどこか関節を極める技に対して、力技のように感じてきたのですが。練習ならタップしても、試合ではしないよ──的な。
「股裂きの一種ですけど、僕にとっても盲点だし、研究しないといけないと思わされました。現に一本を取っているので。こういうのがあるんだというのでところで凄いです」
──かつて相手を崩すためのような形でベン・アスクレンが使っているのを見たことがあります。
「ルミナさんも練習で使っていたらしいですよ。なんかやりそうですよね」
──確かに佐藤ルミナ的なやっちゃう系の動きのような。あの反対三角と同様に。
「そんな感じがしますね。筋肉潰しや伸ばし系を試合で使ってタップを奪うというのは……僕もたまに使うことはあったのですが、試合では出せないでいたので。そういう意味でも、マゴメドシャリポフがなんだかんだと強いです」
──ステーリングだとカレッジ出身なので分かりますが、ロシア人の散打の世界王者がなぜ使っているのかと。
「それは米国で練習しているからじゃないですか」
──ヒカルド・アルメイダの下で、米国のカレッジ出身者たちと練習して身に着けたというような?
「もしくはレスリングをロシアでしっかりとやってきたり、サンボにもあるのか。要は格闘技なので、同じような動きはあると思うんです。その散打の世界チャンピオンという部分でも、試合における距離感に表れていますしね」
──それでいて抜群のバックグラブの強さを持っている。
「体形ですよ(笑)。ひょろ長くて……アレは厄介です」
──UFCでも対戦相手が見つからないという状況が続いていたようです。
「そんななかでジャイー・ロドリゲスとの対戦が決まったので『おおっ』と思ったけど、結局は負傷欠場になってしまいましたね。きっと対戦相手が決まらないというのも米国で練習していて、その強さが一気に口コミで知れ渡ったからではないでしょうか。
ヒカルド・アルメイダの指導でより強くなれているのだろうし、その強さが回っている。あのヒザ十字でそれを証明しましたよ。だからマゴメドシャリポフでいえば、次はハードなランカーと戦ってほしいですね。そういう楽しみがあります」
──UFCで戦い始めて1年で強さを見せ続け、トップと早く戦うところが見たいという状況になっている。
「ACBイケイケ時代の1人、僕はラスール・ミルザエフとの試合を見ておきたかったです」
──かつてファイト・ナイトで金原正徳選手をパウンドアウトしてるミルザエフですか。
「ハイ、でも彼はずっとファイトナイト系の試合に出ていて、結局はUUFCに出ていたレヴァン・マカシュビリに負けてしまった。確かミルザエフは次のACBに確か出るはずです」
──ミルザエフは喧嘩で殴った相手が脳にもともと障害があったということで死亡してしまい実刑判決を受け、15カ月臭い飯を食っていましたが、出所後には自らも銃で3発を撃たれ瀕死の重傷を負ったというリアルで怖い選手です。11月のACBではカザフスタンのアルマン・アスパノフと新旧コンバットサンボ世界王者対決を戦います。
「ブラックタイガーとかって呼ばれていて……いやぁメゴメドシャリポフと見たかったけど、入れ違いになっちゃいましたね。でもUFCはロシアからACBだけでなくファイト・ナイト・グローバルやM-1から強い選手をいれていますね。そのシステムが強いです」
──それほどまでに青木選手はマゴメドシャリポフが気になっていたのですね。ではUFCで今後、メゴメドシャリポフと戦ってほしい選手はいますか。
「ジャイー・ロドリゲスなんかはメキシコ人なんで、米国のファイターと見てみたいですね。でも、もうカブ・スワンソンとかでなく、ジェレミー・スティーブンスのような打撃の圧力がある相手との試合が見てみたいですね。スワンソンは打ち合ってダメージを負って疲れてしまうので」
──ブライアン・オルテガも米国人ですが、グレイシー柔術をマスターしているという部分で面白そうです。
「誰と組んでも面白いけど、ロシア✖アメリカが見たいですね。大国対決として、僕はまだ東西冷戦の図式で見たいんですよね(笑)。フランキー・エドガーとの試合は同門で見られないけど、もう掘ってしまったので……開放しちゃったんだから、とことん見てみたい選手です」