【Special】月刊、青木真也のこの一番:2月─その参─仙三×若松佑弥=「横着せずに楽に勝つ」
【写真】魂の籠った激闘も青木の眼には違ったように映る (C)PANCRASE
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ2月の一戦=その参は2月4日、Pancrase293から仙三×若松佑弥戦を語らおう。
――2月のこの一番、最後の試合……そして、月間・青木賞の対象試合があるのかということで気になるセレクトとなります。
「若松(佑弥)ですかね。仙三×若松。試合内容としては、あまり語る要素ないですけど」
――えっ、そうですか。死力を振りしぼって戦った素晴らしい勝負だったではないですか。
「つまり、そういうことじゃないですか。ここで引かずに戦うのかっていう。技術的に卓越していたり、戦略が優れていたわけでもない。
気持ち悪いのが皆が口を揃えて『凄かった』っていうけど、お前ら凄さが本当に分かっていんのかって思うし。彼らだって、あれをやると消耗していくのは分かっているはず。それをベストバウトだ、何年に一度の試合だっていうだけの意見は気持ち悪いです。僕はそう感じました」
――結果的に消耗する試合になった。どちらかが諦めていれば、試合は終わっていたのだから、良い試合だという意見があっておかしくないのでは?
「誰がですか?」
――2人とも、です。
「そうですかね? 僕は佑弥に関してはもっと楽して戦えたはずだと思っています」
――それは若松選手が打撃戦に拘り、テイクダウンを交えたMMAをしなかったということですか。
「佑弥に関していうと、自分を過信していたと思うし、勝負に対して甘かったから負けたと思います」
――つまりMMAをやれば、楽に戦えたと。
「だって本当に勝ちたかったら、ダブルレッグに入って抑えて勝ちにいきますよ。若松のためのタイトル戦のような雰囲気もあったし、周囲も勝てるというところでやっていたような感じで、彼自身は実は戦い辛かったのかもしれない。
でも、慢心に近い気持ちはあったと思います。もちろん、アイツの勢いとパンチ力があれば、当たれば勝てるというのもあっただろうけど。結果論になってしまいますが、泥臭くポイントを取り行っても良かったんじゃないかと」
――試合前のインタビューで、打ち合い宣言をした時点で、実はトータルで勝負に行くための伏線かと思いもしました。
「勝つためにはそうですよね。でも、アイツはそんな画を描けるヤツじゃないから本音ですよ。自信があった。それは周囲がアイツをヨイショし過ぎたから。僕は彼のチームの中の人間じゃないからこそ、ちょっと違和感を持っていたのが、TTMの皆の雰囲気でした。
佑弥に対する評価が、そこまで高かったのかって。あれはチームとしておかしいなとは思っていました。そしてイケイケドンドンの時こそ、気を引き締めないといけないということを再確認させられましたね」
――仙三選手はいかがでしょうか。あの戦いだからこそ、彼の強さがこれまで以上に見えたような気もしましたが。
「仙三選手はテイクダウンを仕掛けてこない相手には、あれだけ打撃の強さを見せていました。だからこそ5Rあるんだから、1つや2つのラウンドはテイクダウンしてクローズドガードのなかに収まってポイントを稼ぐ、その方が楽に戦えると僕はどうしても思っちゃいます。ポイントメイクをしておけば、仙三選手も焦ってくるから、そこから何か起こすこともできるだろうし。
佐藤天がGrandslamで濱岸(正幸)選手と戦います。皆は天のアップって考えているだろうけど、そんな試合だからって楽なことはない。どんな相手だろうが、横着したらダメ。勝負だっていうのは、どの試合でも忘れてはいけない。それを彼と話すことができました。もちろん、僕自身にも当てはまります。褒められても、自分で状況を把握できないといけないと思いましたね。
グラップリングでも佑弥はできているし、選択肢として他の手段があったのに。結局のところ、佑弥は横着したんです」
――殴り合いで勝てる方に賭けたということが?
「まぁ、ブッタ斬ってしまうとそうです。申し訳ないけど。殴って勝てる方が楽だから、楽な方を選んでしまった。自分の方が強いからこそ、苦しいことしないと。自分に苦しいことをすると、試合は楽に勝てる。だから、横着したんでしょう」
――最高の勝ち方を目指してしまったということでしょうか。
「一番苦しいことからは逃げたんじゃないかなって。逃げたじゃないな、避けたってこと」
――そうなると2月も月間・青木賞は該当者なしということになりますか。
「いえ、若松佑弥です。競技者云々でなく、負けた姿が美しかった。試合前のプロモーションも含めて、彼は頑張ってエッジの立つことを口にしていた。
盛り上げようと頑張っていた。それが横着した結果につながってしまったという部分もあるんだろうけど、気持ちも意地も見せていた。プロのイベンター、表現者として人にできないことをした。それは凄いなぁと思いました。
目に触れる努力をしていた。そこを彼は頑張っていました。選手も見られる努力はしましょう――というのは常に思っています」