【Special】月刊、青木真也のこの一番:10月─その弐─髙谷裕之×日沖発「あの負けは胸に突き刺さる」
【写真】同じ時代をまるで違う生き方をしてきた日沖に対して、青木は特別な思い入れがあるように感じられる(C)KAORI SUGAWARA
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ10月の一戦=その弐は10月8日、Pancrase290から髙谷裕之×日沖発戦を語らおう。
──10月の青木真也が選ぶ、この一番。第2弾は?
「日沖×髙谷ですね。髙谷さんは一緒に練習させてもらっているのもあって、作戦がどうこうっていうのではなくて『髙谷さん、どうするんです? 殴るんですよね』なんて感じで話していたら、『殴ってやるよッ!!』っていうテンションだったんです。
で、日沖って僕型だと思うんですよ。技術を信仰していて、格闘技としてのシステムが確立していれば勝てると思っている。喧嘩が強かったタイプではないはず。格闘技は強いですよ。そして、良い人間で真面目な人間。ただ、オラっていう一撃の局面に負けることがあって。髙谷さんの強味と、日沖の弱い部分がかち合った感じですかね」
──日沖選手は、実はああいう殴り合いがしたくなってしまったのかと思いました。格闘技本来というと語弊がありますが、ポイントを加算する北米MMAから離れ、倒す、極めるという自分のしたかった戦いをパンクラスでやろうとしているのではないかと。
「だったらパンクラスではなく、ロードFCとかONEの方が合っていますよね。喧嘩に強い云々ではなく、気も絶対に強いですしね」
──日本で、名古屋で応援してくれる人達の前で試合がしたいというのもあったのではないでしょうか。
「それも同じ世代の人間の生き方として、乗れるし。全然有りだと思います。日沖も水垣も。でも、日沖は上手。あの右アッパーをパチーンって入れる辺りは。倒されるまでは完全に日沖の試合でしたよね。上手、格闘技を知っている。
でも、そこで彼がパンクラスを選んだのだから、こういうこともあるし、ここに落ち着くのかっていう見方も成り立ちます。個人的にはあの負けは胸に突き刺さるモノがあるし、悲しい気持ちになりましたね。ただ悲観したり、可哀想ということでないですよ」
──相手が髙谷選手なのは悲劇的だと感じました。UFCから戻って来て下の世代に敗れるならまだしも、年上の髙谷選手に負けるのは。
「お互い名前が落ちないという考えもあるけど、髙谷×日沖をやるんだから、もうちょっと盛り上げてやってくれてよとはやはり言いたいです。これはMMPLANET的な見方でなく、そうでないところでもDREAM×戦極とか、そういう煽り方もあるわけだし」
──なるほどぉ。
「ただ、青木真也と高島学の組み合わせでソレを言うんじゃねぇって(笑)」
──アハハハハハハハハ。
「DREAMの戦犯と戦国を潰した記者がって、ハハハハハ。なんて笑っていると、本当にイラつく人がいるだろうし」
──確かに(笑)、でも壺にはまります。
「ホントどんな手段でも盛り上げることができた試合なのに、なんか普通にポンと組むのは勿体ない。違うだろうって。興行のための試合ではなく、彼らの戦いのための大会にするのが本当でしょ」
──パンクラスは目ぼしいファイター同士をどんどん潰し合わせる。国内版トーナメント枠のないトーナメント状態だから勢いもある一方で、余韻に浸れない。一番余韻があったのが、徳留×北岡だと思います。ところで同い年の日沖選手が2試合連続KO負け。ここに関しては、青木選手はどのように思っていますか。
「辰吉引退論のようになりますが、本人が決めれば良いじゃないですか。自分が納得できる道を選択すれば……そうであって欲しいと思います。
ただ日沖KO負けで、俺が本気でムカついていたのは……シュウ・ヒラタさんが4カ月前にKO負けしている選手を使うのは安全面を考えてどうかと思いますっていうことを、SNSで書いていたじゃないですか。何、そのポジショントーク?
そう思いませんか?」
──う~ん、また私にとって厳しいところを衝いてきましたね(苦笑)。
「高島さんはどう思いました。アレを読んで」
──マネージメントをされている人なのだから、SNSは商売。メディアでないから主義主張ではなく、ポジショントークになるのは当然だと思います。そしてメディアはそれを話題にしないのか──という部分に関して、それの指摘も正しい。危険なことは、危険だから指摘をしないといけないと警鐘を鳴らしてくれているという捉え方もできます。
「じゃあ、賛同するんだ? 自分のマネージメントをしている選手じゃないから言うんだろって思いません?」
──だから、そういうモノだと思っています。その一方で自分の感覚だと、5月29日にKO負けをした選手が10月8日にマッチアップされる。そしてシュウさんが指摘した4カ月という期間ですが、5月の前の試合は勝っているので、特別短いという考えはなかったです。現に水垣選手はコディー・ガーブラントに負けてから4カ月より3日ほど短い期間でエディ・ワインランドと戦い、2試合連続のKO負けをしています。
「でしょう? そこなんですよね、僕が言いたかったのは。日沖の試合、パンクラスの試合だからかって」
──ただし、その経験があったから4カ月は危ないとシュウさんは考えるようになったかもしれない。自分らの世代は頭部の攻撃でのKO負けによる出場停止は3カ月、時を経て120日という感覚だったので。いずれによせ、シュウさんも我々メディアもですが、本来であれば結果が出る前……試合が決定した時に、その危険性を指摘すべきだと思いました。
「僕も60日とか、90日っていうサスペンションの時代の印象が強いから、連続KOでなく4カ月のインターバルを置いても戦えないとなると、それはどうなのかと思ったんです。だから、ポジショントークじゃないかって」
──それでも格闘技に対して、危険だという声が挙がることは良いことだと思っています。そこに鈍感になるのは良くない。そして、結果的に青木選手の発言により、4カ月インターバルがここでの議論の対象になったわけですし。
「真剣に考えませんかという問いかけになるわけですね。僕も把握していないけど、きっと大会によって規定が違うわけですよね、日本のMMAは。なら、もう話は振り出しに戻って興行に関係なく米国のアスレチックコミッションのような組織ができれば──って、分かり切っていて何十年も実現しないところに落ち着くだけだし。
それが無理で、今の日本があるわけだから。選手はそこも踏まえて、安全面も自分で考えて、納得してやっていくしかない。それにしても川尻(達也)のノックアウト負け、日沖のノックアウト負け、僕だってKO負けしているし。
なんか、年取ってから大丈夫かなって思っちゃう。正直、心配になりますよね」
──青木選手が桜井マッハ速人選手に負けた試合、長嶋自演乙選手に負けた試合、危ないKO負けですよ。
「危ない、危ない。生きていて良かったなっていう大きなKO負けですよ。怖いですよね。日沖はでも、戦いたいからインターバル4カ月で戦った。KO負けを払拭したいという気持ちもあっただろうし。だから、戦った。そしてKO負けした。
で、絶対的なことは進路に関しては日沖自身が決めることだけど、続けるなら本当に次は時間を空けることですよね。日沖の周囲の人のこととか分かっていないから、違うかもしれないですけど……。これって、僕にも言えることなんです。本人が戦いたいと言えば、それを止められる人間が周囲にいないんだと思います。
そして、日沖はここからですよ。ここからどうカムバックしていくのか。別に良いんですよ、引退しても。辞めても良い。でも、続けても良い。どちらも日沖が納得できる方向に進めば。
偉そうな言い方になっちゃいましたけど、同い年で同じ時代を生きてきた。日本の格闘技を必死で盛り上げてきた世代なので、どういう選択をするのか興味があるし、どういう選択をしても良いと思っている。日沖は日沖発という人間を最も端的に表現できる……一番良い選択をすると思います」