【Special】月刊、青木真也のこの一番:7月編─その壱─ゲイジー×ジョンソン&阿部×三浦 =打撃戦論
【写真】やり過ぎゲイジーと阿部大治、2つの打撃戦を青木が考察(C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ7月の一戦=その壱は7月7日のTUF 25 Finaleからジャスティン・ゲイジー×マイケル・ジョンソン戦、そして7月2日のパンクラス288から阿部大治×三浦広光戦を語らおう。
「最初に2つの試合の比較になるのですが、ジャスティン・ゲイジー×マイケル・ジョンソン、そして阿部大治×三浦広光戦ですね」
──1試合ずつではなく、2試合同時にということですか。
「そうですね、打撃戦にフォーカスして。当然ですけど性格の違う、性質の違う試合でした。ゲイジーでいうと、打たれて返す。相打ち上等というスタイルが、UFCで通用してしまうという彼の引きの強さを感じました」
──青木選手からすると、非UFCのライト級トップファイターというのは気になっていたのでしょうか。
「そうですね。そういう選手がUFCに行った時にどうなるのか。ドキドキするというか、ゲイジーは特に今のMMAではなくて異種格闘技戦のような選手。彼がUFCでどうなるのかと言うのは気になります」
──WSOFであの戦い方で勝てて来たけど、果たしてUFCではどうなるのか、と。
「つまりエクスキューズがつかない状況での試合なんですよね。そして、通用してしまった。タッチボクシングに長けた選手に対して、アレをやってしまうのは凄い。単純に生物としての強さ、圧力があるんだと思います。
UFCでマイケル・ジョンソンを相手にアレができるなら、誰に対してでもあの試合ができるのかなって。それって昔のエディ・アルバレスもそうだったし。しかも、次はTUFコーチ対決でアルバレス×ゲイジーをやる(微笑)。
タッチボクシング全盛の今、被弾して返して勝った。潮流を覆したわけですよ」
──今や、タッチボクシングで効かせることができる選手が増えてきた。ジョンソンもその一人です。
「左で倒せますしね。ゲイジーとの試合でも、綺麗なワンツーを入れていました。でも、パンチを当てている方が下がるっていうのは凄いですよ。自分は当てて倒せてきたのに、それがまかり通らない。いや、圧倒的な強さです。
ゲイジーに対して阿部選手は綺麗です。構えが綺麗、立ち方が綺麗なんです。ムエタイだったら立ち方が綺麗な選手は評価されるんですけど、彼はその立ち方が綺麗でした。
姿勢が良いから全体を見ることができる。そして、間が良い。全体を把握できる要因は、あの立ち方にあります。個々の選手で培ってきたモノがあるので、全員が全員に当てはまる綺麗な形というのはないんですけど、柔道をやってきたからこそ、あの軸のあるアップライトの立ち方ができるんじゃないかと思います」
──その綺麗なフォームから繰り出される攻撃で目をひいたモノはありましたか。
「ジャブ、ストレートも綺麗に伸びます。タッチボクシングの精度が高いかというと、そこまで行っていない。ただし、間が悪い時でも調整できています。
最初はパンチを貰っていたんです。でも、あの姿勢と真っ直ぐ伸びるストレートがあるから修正できた。そしてフィニッシュを可能にしたのは、蹴りがあるからです。左ローを蹴って、左ジャブを真っ直ぐ伸ばしてから右オーバーハンド。
パンチのコンビネーションがあって、ミドルも蹴ることができる。パンチにミドルやローを加えることが可能性です。セオリー通り、しっかりと蹴る必要があるんですよということを教えてくれる打撃です」
──蹴りがあるからパンチが入ると。
「こういう2つの打撃戦を見て、やっぱりゲイジーのスタイルは目指しちゃいけない。阿部選手のようなスタイルを皆には目指してほしいです。そして格闘技として美しいと思いました。ゲイジーに関しては性分だとか、ライフスタイルも関係してあのスタイルになっていると思います。ゲイジーがやるのは良いですけど、あのスタイルを他の人間は目指しちゃいけない。
そして阿部選手が6戦目でUFCへ行く。これは本当に良いこと。僕もフィーチャーキングを除くと8戦目でPRIDEに出ていますからね」
──行ける時に行った方が良い?
「もちろん。極端なことをいえば、収入が追いついてから結婚するっていう練習で、結婚しているヤツはいないし。実力がついてから──なんていっていると、自分の実力が上がっている時は他の選手も上がっているので。行ける時に行けよ、巡り合わせだから。それが運命。パンクラスのチャンピオンになって6戦目でUFCに行く。UFCからすれば、そこで勝ち残る人間が必要なんで。その篩に掛けられるところに出て行く。良かったと思います」