【Special】月刊、青木真也のこの一番:5月編─その壱─アンジェラ・リー×イステラ・ヌネス
過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。そんな青木が選んだ──作業の都合でかなり遅くなってしまいましたが──5月の一戦=その壱は5月26日のONE54からアンジェラ・リー×イステラ・ヌネス戦を語らおう。
【アンジェラ姉さんがいるから、俺は試合をさせてもらえたんです】
──5月のMMA、青木選手のなかでまず印象に残った試合、その一番手は?
「アンジェラですね。これは試合内容に触れるとかでなく、あの状況で戦えるのが凄い。本当に凄いです。この大会、シンガポール・インドアスタジアムは花道のある方の観客席を潰していない、フルシートで初めて大会を開いたんです」
──おお、ついにですね。では言葉のマジックでなくて、本当にフルハウスになったと。
「ハイ、1万2000人サイズの興行でした。僕もイベントを創ることの大変さを知っているつもりなので、アンジェラの偉大さが身に染みています。半端ないプレッシャーだったはずです。
オープニングセレモニーでも、アンジェラが入場するときには脱帽して拍手ですよ。もうリスペクトしかない。僕は人間として、そういうことをするヤツじゃないけど、アンジェラにはスッと席を譲る──そんな20歳のファイターですね」
──つまりONE55はアンジェラ・リーの大会だった?
「ハイ、彼女がイベントを創っていました」
──だから、あの一方的な勝利にも関わらずの試合後の号泣だったのですね。
「苦しかったと思います。ジョセフ・スクーリングって知っていますか?」
──いえ、分らないです。
「リオ五輪の競泳、バタフライで金メダルを獲ったスイマーなんですけど、シンガポールで唯一の五輪金メダリストなんです」
──ハイ。その彼が……。
「国民的なスーパースターのジョゼフ・スクーリングが観戦していて、ONEの知名度はシンガポールでは絶対的なモノになりました。去年の11月にスクーリングがイヴォルブに来て、MMAグローブをはめてケージの中でアンジェラにRNCを掛けて大会をアピールしたり。今回も試合後のアンジェラの会見で、横にONEのTシャツを着て同席しているんです。もう、アンジェラの知名度は日本で地上派TVに出ているとか、そんなモンとは比較にならないです。もちろん、貰っている額も違うし、元を言えば家が持っている額も違いますけど(笑)。
そこも含めなんですけど、アッパレです。アンジェラ姉さんがいるから、俺は試合をさせてもらえたんです。もう本当に」
──アンジェラのおかげで青木真也とベン・アスクレンが一つのイベントに出場することができたのですね。
「ベン・アスクレン……アイツの凄いところは、それを微塵にも感じずに、自分が一番だとエレガンスにふるまうことができる(笑)。あの弁えのなさが素晴らしいです(笑)。でも、アスクレンはファンの歓声が少ない」
──確かに。
「そういうことですよ。アンジェラは本当に凄い。世間の注目を集めるのに年齢や性別というものが、関係してくると思うんです。でも、アンジェラはもうそんなものを超越しています。本当に彼女は凄い、メチャクチャ尊敬してしまいますね。存在感がずば抜けている。
ソレを抱けるブルーノ(プッチ)まで凄いと思う(笑)。僕だったら畏怖して、そんな風になれない。あの女性と交際デキて、父親の横でキスをしてしまうブルーノもある意味、凄いです」
──ブルーノ・プッチまで尊敬の対象に(笑)。
「父親が尿検査の結果を気にしているっていうのも、日本じゃないですよね(苦笑)。ボーイフレンド、父親の存在も含めてアンジェラの魅力です。人を惹きつけるモノがあります」
──インタビューをした際も、忙しいさなかにも関わらず本当に熱心に話してくれて一生懸命で。
「本当にフレンドリーなんですよ。で、それって育ちなんです(笑)」
──そこに行き着きますか(笑)。
「でも、あの父親にしても3歳から自分の娘をファイターに育て上げてきたんだから、狂気を持っていますよね」