【Special】「世界の頂点へ」──BRAVE内弟子プロ養成方法を宮田和幸が語る<02>
【写真】4人の内弟子のスパーリングに前を配る宮田(C)MMAPLANET
シドニー五輪フリースタイル・レスリング日本代表の宮田和幸は2009年に自らのジム=BRAVEをオープンし、翌年9月にはケージを常設した三郷メガジムも開設。現在では草加と合わせ3つのジムを持つ。
そんな宮田の下には芦田崇宏、鈴木隼人、坂巻魁斗、竿本樹生という4人のプロファイターが、内弟子制度によって給与を受けながらジムでの指導、トレーニングを行っている。
ジム経営の主眼、それは一般会員の数を増やすことが常識となっているなか、なぜ宮田はこのような内弟子制度を続けているのか。選手の実例を用いて説明してもらった。
<宮田和幸インタビューPart.01はコチラから>
──大学でレスリング部に入ると、他の競技のトレーニングができるという状況ではないですしね。
「授業に出て、レスリングの練習をして終わり。アルバイトも禁止されていると、格闘技の練習をする時間は取れないです。だから竿本のお父さんとも話をして、『UFCとか目指して、それで稼いでいこうと思っているなら、この時点で始めた方が良い』と伝えたんです。そうしたら『やりたい』ということだったので。彼のような人間がこれからのMMAの中心選手になっていくんです」
──大学に進学し、五輪を目指すという選択をレスラーなら持つ可能性もあるかと思います。
「五輪は運もあるんです。4年に1度の開催で10学年ぐらいの中から1人だけ出場できる。自分が五輪に出たから言うんじゃないですけど、本当に大変なんです。インターハイで何位だっていっても、その上の学年にも下の学年にも同じように有望なレスラーがいて。10学年のなかで一番を、4年に1度のタイミングで競い合う。五輪出場なんていうのは、ほとんど不可能に近いです」
──確かにその通りですね。
「でも、格闘技だったら1番でなくても喰える。本当にやりたいなら若いうちに始めた方が良いと竿本には話して、去年の4月から来てくれるようになりました。竿本はジムの2階、隼人はジムの敷地内のプレハブに住んでいます。プレハブには前はタイ人コーチがいたんです」
──あのよくタイのDVDを見ていた方ですね。
「ハイ(笑)。良いコーチだったんですけど、日本語を話せなかったのでコミュニケーションを取るのが難しかったです。それなら選手に指導料を支払って、生活の糧にしてもらう方が良いかと思って」
──ジムに実際に住んでいるのが鈴木選手と竿本選手、その他内弟子プロファイターというか給料を支払っているのは他に誰になりますか。
「隼人と竿本、あとは芦田と坂巻ですね。4人は他に仕事をしていないです。勝利数が増えると、給料も増えていく。指導料というか、毎日の給料ですね。
寮もお金は取っていません。有り余るような給料を支払うことはできないですが、バイトしている以上は……一人者ならやっていける額で、格闘技に専念できる環境を提供しています」
──他に内弟子制度で特典のようなモノはありますか。
「サプリメントですね。それはスポンサーさんからの支給品を選手たちに使ってもらっています」
──サプリ代はバカにならない額になるので、そこも有り難い話ですね。
「ジムも3つあって、スポンサーさんも就いてくれます。ただ、それは僕の役割なんです。彼らは遊んでいないから、スポンサーを見つけることはできない。そこを見つけるのが僕の仕事で。スポンサーに関しては段階を踏む必要があるので、竿本にはまだついていません。
勝利を重ねることで、応援してもらえるようになります。芦田と隼人はファイトマネーと同等、それ以上のスポンサーフィーを手にしているはずです」
──ジム経営としては一般の会員さんを増やすことがビジネスとして最重要になるかと思うのですが、給料を支払ってまで内弟子、プロ養成に拘るのはなぜなのですか。
「遣り甲斐です。レスラーはキッズで育てて、高校からは部活に送り出して、五輪まで行ってほしいです。自分のところにいると練習相手も限られてくるので。良い大学に進学したいでしょうしね。だから面倒を見るのは中学まで──です。大人はプロとして、格闘技界で生きていけるようにしたい。
会員さんも自分を指導している先生が試合に勝つと、本当に喜んでくれますし、そういう意味ではプロが育つということは、一般の会員さんのためにもなっているので」
──その分、宮田さんはハードになりますね。
「まぁ……そうなんですけど、今は現役ともやり合えるので(苦笑)。でも10年後はどうなるか、分からないですけどね」
──内弟子以外のプロ養成はどのように考えていますか。
「もちろん、そういう人もいます。ただ、内弟子も可能な限り増やしたいです。自分で責任を持てる範囲内になりますが。当然、僕の負担も増えるので『UFCへ行きたい』だとか、明確な目標とやる気がある人間であることが条件ですが。本当にウチの4人はやる気があるんですよ。
金子優太……エドモンド金子は内弟子だったのですが、結婚をしたので内弟子でなくなりました。彼も芦田と同じようにキッズ・レスリングに参加させていました。で、ケガをしてバイトができなくなった時から、内弟子のように給料を支払い、ジムを手伝ってもらっていたんです。
凄くよくやってくれていたのですが、ここの給料では家族を養うまでいかないので、とあるスポンサーさんの会社に就職しました。
今も練習も試合も続けていますし、スポンサーさんの会社なので多少は融通をきかせてもらっています。ちゃんとしたサラリーマンになり、試合に出ている形ですね。ただし、内弟子時代よりも練習時間が減るのは致し方ないです」
──基本、ジムでの彼らの仕事はどのようなモノに?
「夕方からの指導が中心ですね。それで練習は1日に2度できます。そういう部分は多くの選手の状況よりは良いと思います」
──このインタビューを読んで、全く格闘技経験のない人が『内弟子にして給料を支払ってください』とBRAVEにやってくるかもしれないですね(笑)。
「実は以前に内弟子を大体的に募集したことがあったんです。まだDREAMもやっていた時代なので、20人ぐらいの人が来てくれました。バックボーンはゼロの人がほとんどです。でも、何もやっていなくても、指導を受け練習を続けていればある程度は強くなれます」
──その程度で受け入れてしまっては、経営が火の車になってしまいませんか。
「やる気があって、性格が良い子だと長い目で見れば絶対に成功する。そういう想いでした」
──何と……。
「でも、何もやっていないのに──すぐに皆、居なくなってしまったんです。ただ単に格闘技を見てみたいだけのような感じだったのか……。そんなことがあったので、隼人が来た時は結構冷たい態度を取っていたんですよ」