【on this day in】10月31日──2011年
【写真】今でも思う。この2人、チームメイトだったらよかったのに──と (C)MMAPLANET
Takeya Mizugaki
@カリフォルニア州チュラビスタ、アライアンス・トレーニングセンター
「まだ彼がキャベツ太郎を食べていた頃、そして男の涙を武器にするなんて気付いていなかった頃の話だ。3日だけLAやサンディエゴでジム巡りをした。一緒に回りたいと水垣が言ってきたのはアライアンスを訪れることを伝えてからだったと記憶している。もちろん、ドミニク・クルーズがいるからだ。4年前の今日も残念ながら、ドミニクは拳の負傷でスパーやコンタクトする練習には参加していなかったが、常に声を挙げてリーダーとしてトレーニングを引っ張っていた。そんなプロ練も終盤、ヘッドコーチのエリック・デルフィエロが水垣にケージに入るように伝えた。スパー相手の好漢──本当に良いヤツの──ダニー・マルチネスの目は、既に人生を賭けた一戦に挑むような目つきに変っていた。ドミニクが『タケヤーッ』と声を掛け、グローブを装着した。『フックを振り回してくる。ガードを忘れるな』的なことをドミニクがアドバイスする。真剣に聞き入る水垣。妙にしっくり来た。UFC王者とその座を遠くから狙う者なのに。一瞬の交錯なのに──2人から確かな信頼感が感じられた。そして……この2人、戦う時が来るんだろうな、と思った。2年10カ月後、日本人初のUFC5連勝を果たした水垣が、度重なる負傷でタイトル返上を余儀なくされたドミニクの再起戦の相手になった。結果は知っての通り、オクタゴンの中、退出路で水垣は誕生日プレゼントを両親から取り上げられた幼稚園児のように泣くじゃくっていた。この試合に際して、タイトル挑戦権を手に入れるにはドミニクが完全に復調しておらず、以前のように強くない状況の方が都合が良いのに彼は『100パーセントのドミニクと戦いたい』と言っていた。そして、何もできずに跳ね返された。ドミニクはプレスカンファレンス後、UFCトップファイターとしては異例中の異例のことだがインタビューに応じてくれた。そして『彼に勝ったファイターはいても、彼を倒した人間はいなかった。タケヤとの戦いは僕がUFCバンタム級トップ戦線で戦う力を持っているのか試された試合だったんだ。タケヤが僕をリスペクトしてくれているように、僕もタケヤをリスペクトしていた』。タケゾーには申し訳ない。君の涙より、このドミニクの言葉にオッチャンは泣きそうになったよ(笑)」
on this day in──記者生活20年を終えた当サイト主管・髙島学がいわゆる、今日、何が起こったのか的に過去を振り返るコラム。自ら足を運んだ取材、アンカーとして執筆したレポートから思い出のワンシーンを抜粋してお届けします。