【on this day in】1月04日──2014年
【写真】満身創痍の状態で会見場に表れたイム・ヒョンギュ、彼の行動からMMAに自分が何を求めているか再確認させてもらえた(C)MMAPLANET
UFN34
@シンガポール、MBSコンベンションホール
「去年の今日、UFCが初めて日本以外のアジアの国=シンガポールでイベントを開催した。当時、アジア戦略のトップだったマーク・フィッシャーは大会直前の会見で『シンガポールとマカオはアジアで最も重要なマーケット』と明言した。まるでカジノ、ホテル、ショッピングモール、アミューズメントパーク、映画館などが揃ったIR(Intergrated Resort)=総合型リゾートという人と箱が揃っている場所こそ、(日本と違って)UFCが根付く拠点であるような口ぶりだった。そんなUFN34のメインで、イム・ヒョンギュはタレック・サフィジーヌのローを再三に渡り、マットに崩れた。ローでダウンをした人間はもう回復できない。肉体の限界を引き延ばす精神力があっても、限界を超える精神力はない――それが僕の常識だった。しかし、イム・ヒョンギュは韓国MMA界冬の時代を共にした盟友キム・ジャンヨンの顔を視線の隅に捉えると、不死鳥のように蘇り、最終回にはよもや逆転KOという場面までサフィジーヌを追い込んだ。友との絆という精神力でローのダメージを凌駕した彼は、結果こそ判定負けに終わったが、ものの見事に常識を覆した。そして、勝者がダメージの深さを理由に会見を欠席したにも関わらず、両肩を支えられないと歩行できない状況で姿を見せた理由を後になって、『行かないといけないと思ったから』と話してくれた。日頃からできない理由ばかりが聞こえてくる世の中で、『しないといけない』という行動を起こすのに明確かつ基本的な理由の所在も、明らかにしてくれた。これこそ格闘家に僕らが求める人間力だ。好景気と箱が揃っているだけではMMAは根付かない――フィッシャーの失敗とイム・ヒョンギュの人間力が、MMAとは何かをまた教えてくれたような気がした」
on this day in──記者生活20年を終えようという当サイト主管・髙島学がいわゆる、今日、何が起こったのか的に過去を振り返るコラム。自ら足を運んだ取材、アンカーとして執筆したレポートから思い出のワンシーンを抜粋してお届けします。