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【DEEP JEWELS51】パク・シウに挑戦、丸くなるな星になれ――万智「殺気のある昔の万智が出てきた」

【写真】まるで殺気は感じられない。尖った星より、満月のような万智。ケージの中でどのような顔を見せるか楽しみだ(C)MMAPLANET

7日(日)、東京都港区のニューピアホールで開催されるDEEP JEWELS50のメインで万智が、パク・シウの持つDEEP JEWELSストロー級王座に挑戦する。
text by Manabu Takashima

昨年5月に万智はパク・シウと同暫定王座決定戦を戦い、判定で敗れた。同時に足関節で王者を長期離脱に追い込み、自身は4連勝と結果を残していた。しかし、万智は勝利を重ねても自らのパフォーマンスに納得せず、特に6月のRIZIN LANDMART11におけるソルト戦で現状への限界を感じるように。

ここを抜け出すためには、尖っていた時代に戻るしかない。トラウマを乗り超え、一番強い自分になるために万智は今回のタイトル戦に向けほぼ男子相手に調整を重ねてきたという。


普段から思い切りやっていないことが試合で影響しているのではないかと

――昨日、Lemino修斗の会場であった時に今日は那須のクロウフォレストで練習ということでしたが、画面の様子から今はご自宅ですか。

「ハイ。なんか今日は人数が少ないということで、もう午前中に手塚(裕之)さんのTGFCでしっかりとやり込んできたので」

――今も栃木でも北の方で練習を続けているのですね。首都圏の方では今回の試合前はどこで練習をしてきたのでしょうか。

「八丁堀にある津田(勝憲)さんのアイリーベース、トイカツグラップリング東中野、それと茨城ですけどT-BLOODでも練習をするようになりました」

――そろそろ東京に住もうと思わないですか。

「私、きっと1人暮らしとかできないと思うんです。東京は物価も高いし、1人で練習して洗濯や料理をするよりも、家で母親に甘えさせてもらう方が練習もできます。移動中も別に眠れば良いので。逆に東京だと、満員電車の移動で眠ることもできないじゃないですか。終電でも満員電車って、ありえないと思うし。万智は犬みたいな性格だって、自分で分かっているんです。本当に誰かが一緒にいてくれないと寂しくてしょうがない」

――東京で練習したいから上京して、生活するためのバイトで練習ができなくなるというケースはもう20年も続いてきましたし。

「格闘技の練習をするには、実家にいるほうが良いと今は思っています。ただ、すぐに実家に戻れる埼玉のどこかに住むのはありかとも考えてもいます。東京にも実家にも、すぐに行けるようなところで」

――なるほど、です。ところで今回、練習をしてきたジムですが女子が一緒なのはにトイカツグラップリング東中野ぐらいでないかと。

「あぁ、実は東中野でも浜本キャット(雄大)さんとバチバチにやるような感じで、女子とはほとんどやっていないです。

キャットさんはストライカーだし、パクちゃんとの試合対策という部分でも思い切りやってもらっています。あとストロー級の児玉(勇也)選手ともスパーをしてきました」

――浜本選手とガチスパーを?

「もうボディとか、メッチャ効かされて。相当に強度が高いです。パンチもらって、死ぬかと思うほど痛いし。でも、それぐらいやらないと今回の試合は。

それにパクちゃんは1年4カ月振りの試合で、ヒザのケガがあったから凄くフィジカルをやっていて。UFCを目指して、大きくしていたというのもあるだろうし。体は全然、去年の試合とは違うはずです。だからこそ、男の選手とガンガンやらないといけないです。アッ、でも先週の金曜日に元UFCファイターのキャット・ジンガーノさんが東中野にやってきて、私の相手をしてくれました。体も大きいし、手加減してくれているのは分かるのですが、初めて外国人の強い選手と練習ができて嬉しかったです」

――いずれにしても、東中野ではキャットと練習をしてきたわけですね(笑)。

「アハハハハハ」

――ところで女子選手とやっていないというのは?

「6月のRIZINでソルト選手と戦って、上手く動けなくて。でも、それはもうずっと続いていることで。で、なんでだろうと梅田(恒介)さんやドミさん、津田さんと話すなかで『普段の練習から思い切り当たっていない』からじゃないかという話になって。

私は普段は重いし、軽い選手が多いから言い方は悪いですけど遠慮してしまうところがあって。ケガをさせちゃいけないと思ってしまうから。そうやって普段から思い切りやっていないことが試合で影響しているのではないかと」

――そして、男子選手に思いきり当たる練習をするようになったと? 以前はクロウフォレストでトップアマ選手と思い切りやりあっていましたが。

「そうなんです。それが妹の送り迎えとかあって1年半ほど行くことができていなかったんです。でも、今回の試合前は以前のように行かせてもらうようにしました。

柔道時代とか、男子と思いっきりやっていたし。腕で相手の顔をゴリゴリ押し付けるとか。本当に全力で嫌らしいこともしていたんです。そういう練習が今回はできたので、もうやれる。勝てるって思っています」

まずは自分の居場所創り、それが練習より先に来ていた

――そういうと思い当たることがあるのですが、万智選手は運動神経が良くて動ける。高い運動能力を武器に戦って、勝つ。でも、実は殺気というか怖さがないと感じていました。それは天真爛漫な性格だからかと思っていたのですが……

「実は万智、柔道時代に『後輩をケガさせた』ということを言われて、虐められていたんです。中学の時に、匿名で学校に『暴力女がいる』とか電話を掛ける人とかいて。

あの時の万智は、戦い方も練習も尖っていて。でも、それからそういう尖った部分を出すのが怖くなってしまって。同級生とかだけでなく、その親の言動が凄く怖かったです。本当に怖くて。そういう部分、闘争心を心の奥底にしまうようになりました」

――……。

「あの時の大人たちが本当に怖くて、トラウマになって。MMAでは、あんな風になりたくないっていう気持ちが本当に強かったです。いつの間にか。自分にとって居心地の良い空間を求めているような感じになっていたんです。まずは自分の居場所創り、それが練習より先に来ていた。人間関係が一番っていう風になって。

人に嫌われたくなくて、良い子にしていました。でもメンタルコーチの(中村)剛士さんとも話して、『尖らないといけない時も、尖れない。それこそが自分への甘え』だと分かりました。遠慮なんて甘えで。やり切っていない。それが前回の試合でメチャクチャ出てしまいました。

きっと去年のパクちゃんとの試合でも、そういう部分があったんだと思います。パクちゃんのベルトへの想いが、万智とは違っていたから。

パクちゃんとどれだけやれるか。『勝てれば良いな』までいかず『パクちゃんと試合になれば良いな。戦いとして成立しれば良い』ということが、目標になっていました。だから、試合中も何も考えていなくて。

そうしたら何も考えないことが、一番強い自分が出ると分かって。あれからの4試合と比較すると良い試合ができていたし、格闘家として手応えが感じられる試合でした」

――あの試合以降、そして男の選手と練習をするようになってどこが一番成長したでしょうか。

「技術的には寝技が凄く伸びたし、今回はパクちゃんを相手にしてもしっかりとやれるかと思います。レスリング、スクランブル、そこの細かい技術、丁寧さが身についたと思います。男の人との練習では、正しい技術で思い切りぶつかっていかないといけないので。思い切り体当たりするような練習ができました。自分の強みが出せるようになったと思います。得意な部分と同時に、打撃も伸びました」

――その状態で迎えるパク・シウとのタイトル戦。改めて、ベルトへの想いを教えてください。

「戦う前なんですけど、最後は気持ちだとマジで思っています。剛士さんが、本当の万智を出してくれました。今は本当に倒しにいって、殺されるかもっていう勢いでやっているから、殺気のある昔の万智が出てきたと思います」

――おお。怖い万智がケージの中で初お目見えと。

「闘争心が漲っている猪突猛進な万智を見てもらうと思います。でも、喧嘩じゃないですよ。格闘技なので、超集中モードでパクちゃんを倒しに行きます」

――自信のほどは?

「100パーセント、勝てると思っています。いや120パーセントです。やっぱり自分を信じないと、強くはなれない。でも先々週ぐらいに『負けたら、どうしよう』という風に考えてしまって……。『こんなに皆に応援してもらっているのに、負けたら……』、『負けて、応援してくれなくなったらどうしよう』とか。負の感情に覆われてしまっていました。

そうしたら剛士さんが『万智が逆の立場だったらどうする? 一生懸命にやっている子が、全力を尽くして負けた。なら、応援をすることを止めるなんてないよね。万智の周りの皆も同じだから。全力を出しきることに集中しよう』と言ってくれて、もう気持ちが解放されました。

自分を信じきって、出し切る。そうすれば応援してもらえる価値が生まれる。ならやるっきゃないと今は思っています。出せない方が悔しいので、今回は今ある力を全てを出しきります」

万智とKARENちゃんがチャンピオンになって、新しい時代の幕開けに

――タイトル奪取後について考えることはありますか。

「まだ考えていないです。とにかくベルトが欲しい。やっぱりベルトとって、格闘技を辞めた時に戦ってきた証になるから。ただ『RIZINに出ていました』っていうんじゃなくて。そういう努力の結晶を持つ人たちが……藤野(恵実)さん、SARAMIさん、黒部(三奈)さんという風に万智の周囲にいてくれました。知名度とかでなく、強さを求めて命を削ってやってきた人が。

万智もあの人達のように強さの証明が欲しいです。MMAが大好きだからこそ、やってきたことの証を手に入れます。それに私の2週間後、23日にKARENちゃんがパンクラスでソルトさんに挑戦するじゃないですか。やっぱり万智とKARENちゃんがベルトを巻いていないと、女子ストロー級は、前に進まないなと。

いつの日か戦うことになるかもしれないですけど、9月は万智とKARENちゃんがチャンピオンになって、新しい時代の幕開けにします。そうしないといけない。万智も頑張ってチャンピオンになるから。KARENちゃんもベルトを巻いてほしいです」

精一杯怖さを前面に押し出した表情だそうです

――最後がKAREN選手へのエールという珍しいインタビューになりました。

「ちょっと待ってください。今回は、コレです。Don’t be round, be a star――丸くなるな、星になれ。周囲に合わせて丸く収まるんじゃなくて、尖ってストロー級を盛り上げていきます」


■視聴方法(予定)
9月7日(日)
午後5時10分~U-NEXT、サムライTV 、DEEP/DEEP JEWELSメンバーシップ

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