【Fight&Life#110】Lemino修斗出場。弥益ドミネーター聡志「岡田さんの経歴は、自分が歩きたかった道」
【写真】マウスピースに記された言葉は、DOMINATEだ(C)MMAPLANET
現在、絶賛発売中のFight&Life vol.110に、2日(火)に開催されるLemino Shooto01で岡田遼と対戦する弥益ドミネーター聡志のインタビューが掲載されている。
Text by Manabu Takashima
岡田遼引退試合の相手を務めることになった弥益。1年8カ月振りのファイト、そして岡田遼に対する想いを訊いたインタビューをFight&Life編集部の許可を得て、全文を掲載したい。
――Lemino修斗の旗揚げ戦で岡田遼選手と引退試合で戦う。意外過ぎる1年8カ月振りのファイトとなります。頭がフラフラすると言われていた期間が長かったと思いますが、いつ頃からMMAに復帰できる状態だったのですか。
「正直、復帰できる状態なのかはまだ分かっていないです。ダメージという部分では、確実に残っていますし。明らかに打たれ弱くなっています。ただ2年、3年と休んで、打撃をせずにMMAにいきなり復帰するというビジョンは見えていなかったです。なので、去年の春ぐらいからは何となく趣味として、週に3、4回と練習をしてきました。ずっとそのまま楽しく格闘技をやってきたという感じですね」
――試合を戦うということも、どこかで考えていたのですか。
「2024年は試合をしない。それは周囲にも伝えていました」
――つまり、いずれ試合に出たいという気持ちがあったと。
「試合がしたいというか。試合に出ないと、結局は何のために格闘技をやっているのかということになります。色々なコンプレックスを抱えて生きていて。少しでも自分を肯定したい……何かになりたい。求めらたモノから、逃げてしまった人間なので――自分は」
――だから、何かになりたいためのMMAだったと。
「ハイ、何かにならないといけない。そのために格闘技をやってきました。同時に、日々の戦いが楽しかったです。そうすることで、何かになれていた。試合をすることで、何かになりたい。何かを伝えたいというのが一番で。ただ、その気持ちを持って戦うには、RIZINでの自分の立ち位置は違う」
――う~ん。こういうとアレですが、弥益選手のためのマッチアップはなかなかないですよね。
「ハイ。それは自分が実力不足だったからです。僕のための試合を組んでもらえるような立ち位置にいることができなかったので。『試合に出たいです』と伝えると、何かしら組んでもらえたと思います。でも、それだと自分がなりたい……自分がなり得る姿に近づけるような試合では恐らくないので」
――ハイ。なので時折り、顔を合わせた時に「この辺りで、海外は?」などという笑い話をしていました。
「僕も誰も知らないところで試合をして、それが最後かなぁという気持ちは正直ありました」
――海外で戦いたいということは、常に言われていましたしね。
「そうなんです。それでも練習が楽しくて。自分がデキることも、少しずつですが増えています。そのなかで今回、オファーを頂きました。本当に想定外でした。岡田さんとはプライベートで酒を飲んだこともありますし、自分では仲が良いと思っていたので」
――手を合わせたことは?
「数えるほどですけど、グラップリングの練習をしたことがあります。僕と岡田さんって、同い年だし経歴が似ているんですよね」
――お勉学がデキるところが。
「大学院まで行ったという部分も、似ています。と同時に成人してから格闘技を始めたことも。そこまでは勉強を頑張っていて(笑)。言い方は悪いですが、岡田さんは『なぜ、格闘技をやっているの?』という人ではあると思います。自分のなかでは、憧れの人というか」
――そうなのですか。
「経歴が似ているようで、岡田さんは成功例なんです」
――そんな風に岡田選手のことを見ていたのですね。
「僕は岡田さんにはなれないけど、少しは近づきたい。そう思っていた選手なんです。結局、自分は何かしらの後悔をしてきた人間ですし」
――後悔? サラリーマンとして働きながら格闘技を続け、RIZINという大舞台も経験しているというのにですか。
「そうですね……。格闘技だけでなく、人生として勉強を頑張らないといけない学生時代を過ごしなら、頑張り切れなかった。周囲が望んだ進路に進まなかったです。言い方は悪いですけど、途中で格闘技に逃げた。でも格闘技に振り切ることもできず、結局はサラリーマンという道を選んでしまった」
――……。
「岡田さんは、それまで頑張っていた勉強を完全に振り切って、格闘技に全てを注いだ。そういう岡田さんの経歴は、自分が歩きたかった道なんです」
――弥益選手は格闘技一本でない人生を卑下していますが、社会人とし生活の糧を得て、家族を守っている。そのうえでプロとして、MMAを戦う。凄く誇れる人生を送っているとしか思えないですが。
「止めてください。褒められることに慣れていないので、普通に泣きそうになってしまいます(笑)」
――アハハハハ。ともあれ、岡田選手に対しては、なれなかった自分という風に捉えているのですね。
「ハイ。その分、オファーが来た時は凄く複雑でした。どういう気持ちで、岡田さんは俺にオファーしてくれたんだろうって。だから、返答をするまで1週間ぐらい、考えました。これまでで、一番長くかかりましたね」
――その真意を岡田選手から説明を受けたことは?
「なかったです。さすがに対戦相手ですし、オファーは松根さんからだったので。まぁ、岡田さんからするとおいしい相手だと思います。アハハハハ」
――そうですか? 会見の時も、弥益選手の方が体が大きかったですし、岡田選手はもうバンタムに落とせない。だからフェザーで戦うけど、フェザーのフィジカルではないかと。
「最後に勝てる相手として僕を選んだのか。それとも感情優先で選んでくれたのか。そこは本当に分からなくて。かといって、本人に聞くわけにもいかないじゃないですか。いずれにしろ、先ほど言ったように僕が何かになるための試合であることは間違いないです。ただ、この試合に勝って自分が選んだ道を正解としたいということではないんです」
――岡田選手を合わせ鏡にして、自己否定と自己肯定をしているような。凄く複雑な心境なのですね。
「ハイ。岡田さんと交わることで、自分が歩んできた道も悪くなかったと思えるんじゃないかと。そういう意味で、岡田さんと試合がしたいと思ったことは一度もなかったのですが、今の心境的には急に湧いて出た話なのに『間に合った』という感じがしています。酔っぱらって、良く分からない電車に飛び乗ったら目的地に着いたみたいな(笑)」
――もう、本当にそこは弥益選手にしか分からない心境なのでしょうね。
「正直、梅田(恒介)さんは『やらなくて良いんじゃないのか』と言われていました」
――確かに引退試合の相手って、これからキャリアがある選手にとっては得るモノが少ないと感じます。
「それでも今の僕に、この試合以上に感情を揺さぶってくれるオファーってないと思います。それこそ、さっき言ったような海外で、誰も知らないところで、訳の分からない強いヤツと戦うとか。そういうことでないと、日本では多分ない。岡田さんと僕の試合って、岡田さんの引退興行としても良いカードだと思うし。僕とは違う誰かでも良い試合でなく、僕だから良いと思ってもらえるんじゃないかと」
――話題をぶり返すことになるのですが、この試合のオファーがあった時の体調面というのは?
「週に4度、打撃のある練習をするときは、ちょっとした覚悟が毎回必要です。良いのを貰うと、効かされてしまうはずですし。そのなかでスタイルチェンジとまではいかないですが、意識の変革とかはちょっとしていて。少し手応えを感じ始めた……ぐらいの時期でした」
――試合が決まって、練習への向き合い方はギアが上がりましたか。
「こんな言い方をするのは恥ずかしいですけど、過去イチきついことをしています。『ここで頑張らないとな』って。正直、勝ちたいとかじゃないんです。岡田さんと戦って、恥ずかしい試合をしたくなくて。岡田さんに『こんなものか』と思われたくない。『弥益、結構強いじゃん』と思われたい」
――過去最高に厳しいことを強いている。それはどういう部分で?
「やっぱりドロドロとしたケージレスリングになると、岡田さんが一番の強みが出る。そこに対して、良くないのかもしれないけど付き合いたくて。だからスパーを連続でこなす。その回数が、過去になかったぐらいやってきています。スパーリング仲間もそこを伝えていますし、それ以外の日もダッシュ、階段ダッシュと一人でやれる練習を夜中にやっています(笑)」
――そうやってドロドロのケージレスリングとスクランブルをやれるだけの体力をつけていると。
「体だけでなく、メンタルもですね。なので、そこに関しては余り不安はないです。ケージレスリングとシンプル・グラップリング・テクニックについて、岡田んさんのバンタム級時代の試合を見ていても、明らかに後半に失速します。他にも要因があるかもしれないですが、減量の影響は確実だと思います」
――フェザー級での試合で、そこがどうなるのか。
「それも織り込んでいます。普段の練習で、スタミナがないなんてことはないと思いますし。僕も過去バンタム級でやっていて、フェザー級に階級を上げるとメチャクチャ調子が良くなったことがありました。同じことが最後の最後に岡田さんに訪れて、引退撤回ぐらいまでいくと想定しています(笑)」
――そこまで、読んでいると。
「それぐらいの気持ちでいるということですね。過去最強の岡田さんが、僕の前に現れるだろうと。それぐらいの気持ちで創らないと、自分が納得できないです」
――岡田選手の工夫はいわば辞書や図鑑に載っていることを記憶して、組み立てていく。弥益選手の創意工夫は閃き。そういう風に感じます。
「そこでいえば、だからこそ僕はピンとこないと身につかないタイプで。岡田さんとはスタイル的にも真逆だとは思います」
――ところで岡田選手は弥益選手が言われたように院卒というキャリアを使わない道を選択した。と同時に、その現役にもスパッとかどうかは分からないですが、見切りをつけて次に進もうとしています。
「そこに対して、僕は格闘技に依存しています。正直、格闘技がなくても奥さんがいて子供もいる。凄く幸せです。本当に良い生活を送ることができています。だから、本来なら格闘技がない方が幸せなんです」
――奥様からすると、ここで格闘技に依存するとか言われると……。どのような心境になってしまうのか。
「体の心配は、本当にしています。試合をすると伝えた時も冗談ですけど、『岡田選手に顔は殴らないでと伝えておいて』と(苦笑)」
――次の試合を家族に見てもらうことは?
「行こうかなと言われましたが、止めました」
――えっ?
「子供を連れて見に行こうかなと言われて、自分は子供に見せたくない。子供には親の極端な姿を見せたくなくて。特に年齢もいっていない時に、父親が格闘技の試合を戦うという刺激の強いモノを見せると、その後の選択肢を狭めてしまうような気がするんです。それを自分はしたくないんですよね。中学、高校生とある程度の分別がつくようになって、『お父さんはこういうことをやっているんだよ』と見せることができれば、選択肢を増やすことになると思います。でも物心もつかない時に見せて、好きになるか嫌いになるか分からないですが、いずれにしても子供の視界を少し狭めてしまうことにつながるような気がして。格闘技が危険だとか、そういうことではなくて。ウェイトとして重いモノを見せたくない、という何となくの主義なんです」
――ここしっかりと発言できる考えですし、お子供さんのことを真剣に考えている意見だと思います。とこで岡田選手は引退試合を公言しています。一方で弥益選手も「これが最後かも」という気持ちが、どこかにあるのでしょうか。
「引退試合って、それだけ格闘技に人生を賭けてきた人に用意される花道だと現時点では思っています。僕は引退試合を戦うつもりは、今のところはないです。自分の人生で、たまたま最後に戦った試合が、自分の引退試合になる。現時点で、岡田さんとの試合を最後にするつもりはないですが、自分が死ぬときに最後の相手が岡田遼だったら、凄く満足して逝ける。そういう気持ちがあるから、今回の試合を受けたということもあります」
――そこで感じた手応え次第で、またキャリアップをしたいという想いも持たれていますか。
「行き場はもうないんですよね。自分の格闘技は、だんだんと過去の清算に近づいてきています。『なぜ格闘技を始めたのか』とか『なぜ、やらないといけなかったのか』。そういうところに、意識が向いているなって感じています。それが解消されると、スッと辞めてしまうかもしれないです。将来とかでなく、過去をどう綺麗にするのか。過去をどう肯定するのかという話になってきている。そこに近いかと思います」
――そんな弥益ドミネーター聡志にとって、岡田遼戦とは?
「岡田さんが結果を残している。それは自分に『お前も頑張れ』と言う時の発奮要素でした。そこと向き合うなかで、色々な過去とも向き合うことになる。それ以上に岡田さんのキャリアの最後に、自分の名前が連なるのが本当に嬉しいです。だから岡田さんとの試合は、自分にとって勲章でもあるし、鏡を見ている気持ちにもなる。自分のエピローグ、終盤に相応しい試合です。RIZINに出させてもらって、広い層の人々に見ていただくことは経験したうえで、やっぱり自分は自分のためにやりたいと思いました。自分が頑張れるための刺激として、本当に岡田さんはこれ以上にない相手です。自分のために試合をしますし、岡田さんも岡田さんのために最後に良い試合をしてほしいです」
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■視聴方法(予定)
9月2日(火)
午後5時45分~Lemino
■Lemino Shooto01対戦カード
<フェザー級/5分3R>
岡田遼(日本)
弥益ドミネーター聡志(日本)
<フライ級/5分3R>
山内渉(日本)
デウジヴァン・ソウザ(ブラジル)
<ストロー級/5分3R>
当真佳直(日本)
内藤頌貴(日本)
<フライ級/5分2R>
岡田嵐士(日本)
古賀優平(日本)
<バンタム級/5分2R>
下間英史(日本)
塚本竜馬(日本)
<2025年度バンタム級新人王決定T一回戦/5分2R>
翔べ!ゆうすけ!(日本)
辻純也(日本)
<49キロ契約/5分2R>
徳本望愛(日本)
安田”kong”詠美(日本)
<ジュニア修斗54キロ契約/4分1R>
長谷川凌生(日本)
窪田登馬(日本)
<ジュニア修斗54キロ契約/4分1R>
河上純登(日本)
中坊一(日本)