【Pancrase354】初インタビュー。平田直樹戦へ、栁川唯人「立ち位置的にも超えなきゃいけない相手」
【写真】パンクラスはランキングから受け取る印象よりも、団子状態。タイトルコンテンダーとの対戦は、非常に重要になってくる (C)MMAPLANET
6月1日(日)、東京都港区のニューピアホールで開催されるPancrase354で、栁川唯人が平田直樹と対戦する。
Text by Takumi Nakamura
メインイベントで三宅輝砂×中田大貴のフェザー級KOPCが行われるなか、コメインでは同級2位・平田に8位・栁川が挑む一戦が組まれた。栁川は柔道出身、一昨年のネオブラッドトーナメント優勝の実績を持ち、攻撃的なファイトスタイルと独特のキャラクターで存在感を示す。今年3月に公務員=消防官という安定した道ではなく、プロMMAファイター一本で生きていく決断をした栁川。フェザー級台風の目になるであろう栁川に話を訊いた。
コンテナみたいなジムだったので扉を開かないと中の様子が分からない
──今回栁川選手の初インタビューということで、これまでの経歴から聞かせてください。栁川選手が格闘技を始めたきっかけは何だったのですか。
「幼稚園の年中から柔道を始めて、高校3年まで柔道をやっていました。ただ高校の途中で柔道には飽きちゃって、ちょうどその時に山本“KID”徳郁さんの試合動画を見て(MMAが)超面白そう!と思ったんです。一番強さの証明になるのはMMAだと思って、21歳になる少し前にMMAを始めました」
──柔道ではどういった目標を持って続けていたのですか。
「本気で日本一になりたいと思っていたんですけど、県で上位に入ったり、関東大会にちょくちょく出るくらいで、全国に行けるレベルではなかったです」
──栁川選手がKID選手の試合を見ていた時期はKID選手がUFCで試合をしていた時期と少しずれていますが、YouTubeか何かで試合を見たのですか。
「YouTubeで見ました。KIDさんはめちゃくちゃ華があって、ブレずに自分がやりたいことを見せてきた選手で、試合は派手だけど話し方や普段の雰囲気はすごく落ち着いているじゃないですか。あのギャップもものすごく魅力的で引き込まれていきましたね」
──格闘家としてだけではなく、山本“KID”徳郁という人物に惹かれたのですね。21歳で本格的にMMAを始めて、その2年後にはネオブラッドトーナメントで優勝しているわけですが、MMAを始めて自分に合っていると思いましたか。
「いや、そういうわけでもないです。僕がK-PLACEに入った頃はプロ選手とプロ志望の選手しか取らないスタイルで、当時はコンテナみたいなジムだったので扉を開かないと中の様子が分からないんですよ」
──それはジムに入るのにも勇気が必要ですね。
「ジムに入会してすぐの頃に代表の小池(義昭)さんに『スパーリングの道具を用意して持ってきて』と言われてMMAスパーリングに混じったんですが、宮澤雄大さん、荻窪祐輔さん、関原翔さん、金田一孝介さん……当時の先輩たちはみんな若くて血気盛んなんですよ。僕は柔道経験こそありましたけど、打撃はほとんどやったことないから、先輩たちにボッコボコにされる毎日でしたね(苦笑)」
──まるで肉食動物がいる檻に放り込まれるような気持ちですよね。
「ホントそんな感じです。毎日『やべえな……』と思いながら練習に行っていました」
――練習がキツくて辞めようと思うことはなかったですか。
「それはなかったです。これで辞めたら口だけ野郎じゃねえかと思って、その檻のなかで肉食動物たちから何とか生き残ってきました(笑)」
──当初は打撃の洗礼を受けていたと思いますが、徐々に練習を重ねていくうちに慣れていったのですか。
「そうですね。組んじゃえば大丈夫なんですけど組むまでが大変で。柔道は掴むところがありますけど、MMAは掴む場所がないんで、そこも最初は苦労していました。そこからコツコツ練習を積み重ねて、だんだんMMAが出来るようになった感じです」
──それだけ厳しい練習環境に身を置いていたら同じキャリアや年齢の選手たちには負けないというプライドもありましたよね。
「ありましたね。変な話、僕は試合前に練習でボコボコにされるのがめちゃくちゃ好きなんですよ。こんなに強い人たちと練習しているんだから、試合でこれ以上強い人が出てくるわけないだろうって。ネオブラの前は金田一さんとかにボロ雑巾みたいにやられていて、いざネオブラに出た時は『全然いけるじゃん!』と思ってやっていました」
──栁川選手は思い切りの良さが持ち味だと思うのですが、普段の練習ではやられていることの方が多いのですね。
「僕、練習ではめちゃくちゃ弱いんで、自分で自分のことを強いなんて思ったことがないです。試合になったら自信を持ってやりますけど、練習ではアマチュアの子にやられることだってあるし。でも僕は練習でやられても気にならないんですよ。それよりも練習でやられて自分のどこがダメだったのかを考えることの方が大事だと思っています」
──試合になるとスイッチが入るタイプなのかもしれませんね。
「割とそうかもしれないです。僕は試合になったら本当に楽しんでいるし、試合の緊張感も好きなんです」
──緊張したり、固くなることはないですか。
「全くならないです。むしろ楽しいです。入場する時って自分の好きな曲を流せるじゃないですか。あれとか最高に気持ちいいですよね。入場しながらカメラマンを見つけて『カッコ良く撮ってほしいな』とか思っちゃうくらい、落ち着いて楽しんでいます(笑)」
──パンクラスの公式サイトで「公務員(消防官)という安定を捨て、格闘技に人生の舵を切った」と紹介されていましたが、いつお仕事を辞められたのですか。
「格闘技を始める1年くらい前から消防官の仕事を始めて、約5年間務めて今年3月いっぱいで辞めました。格闘技と仕事の二足のわらじもいいんですけど、それでは中途半端だし、自分が目指しているものに辿り着けないと思ったので踏ん切りをつけました」
──ご家族から止められることはなかったですか。
「もともと親には格闘技や試合のことは伝えていなくて、試合当日に『どこ行ってくるの?』と聞かれたんですよ。それで『…………格闘技の試合に行ってくる』と応えたら『あんた格闘技やってたの!?』みたいになって(苦笑)。親父からは『消防官を辞めたら縁を切る』と言われていて、絶対に辞められねえじゃんと思いつつ、結果を出すしかないと思ってコツコツやっていました。
そうやって最初は両親も消防官をやりながら格闘技をやっていることをよくは思っていなかったのですが。試合を重ねるとだんだんと応援・理解してくれるようになってくれて、今は自分の背中を押してくれる存在です。消防官を辞めて格闘技一本の生活になってからは、本当に毎日“俺、生きているな”って気持ちを感じています」
──栁川にとっては2023年12月のRyo戦がキャリア唯一の敗北を喫しています。
「最後の最後に腕十字で逆転負けした試合だったんですけど、今は若くして負けたことはラッキーだったと思います。もっと勝ちや試合を重ねてからの負けは精神的にキツいし、あの負けから学んだことはたくさんありました。実はあの時、試合前からヒザを怪我していて、試合が終わったら手術する予定だったんです。そういうタイミングで負けを経験して、普通の負けよりも学べることは多かったと思います。しかもあの当時は練習もあまりできていなくて、週1、2回ぐらいの練習で試合に出たんですよ。だからメンタル面もそうだし、普段の行動もそうだし、あらゆる面で自分の良くなかったところや改善した方がいいところが見えた試合でしたね。ただもうここからは一回も負けるつもりはないです」
――Ryo戦以降は2戦2勝、より打撃と組みがミックスされたスタイルになった印象があります。ご自身ではこの2試合にどんな手応えがありましたか。
「僕はアマチュア時代から判定までいったことが1回しかなかったので、復帰戦(2024年9月に糸川義人に判定勝ち)は最初から3Rやるつもりだったんです。多少自分の弱点が出てもいいから、そこをリカバリーして戦う、みたいな。あの試合はそれが出来たかなと思います。逆に2戦目(2024年12月に名田英平にTKO勝ち)は、今までグラウンドになったら寝かせる意識でやっていたんですけど、あの時は殴る意識に変えたんです。それでTKO勝利できたので、どちらの試合でも自分の試したいことを試せた試合でしたね」
同じ階級の選手にはマジで活躍してほしくないです
──そして今大会では平田直樹選手と対戦が決まりました。試合が決まった時はどのような心境でしたか。
「周りからも(平田戦を)見たいという声が多くて、いつかやる相手だろうと思っていたので、ここで来たか!という感じですね。正式に試合が決まって嬉しい気持ちになりましたね」
──どのような試合をイメージされていますか。
「格闘技経験者や格闘技通しか楽しめないようなドロドロの試合になるか、サクッと終わらせる試合になるか。どちらもあると思いますが、いずれせよMMAって面白いなと思われる試合になると思います」
──ここで平田選手に勝つことになれば一気に次のチャンスにつながると思います。今回の試合をどう位置付けしていますか。
「平田選手はいずれやると思っていた相手だし、立ち位置的にも超えなきゃいけない相手だと思っています。ここを落としているようじゃ世界には行けないし、チャンピオンにもなれないと思うので、絶対に落とせない・落とすわけにはいかない試合だと思っています」
──栁川選手はパンクラスでタイトルを獲って、海外の団体に出ていくことを目標にしているのですか。
「そうですね。今年のRoad to UFCには日本人選手がたくさん出ていて応援はしていますけど、同じ階級の選手にはマジで活躍してほしくないです(苦笑)。ファイターは自分が一番になりたくて格闘技をやっているわけだし、自分が自分がという気持ちになるのは当然だと思います」
──それでは最後にファンのみなさんにメッセージをいただけますか。
「見せたいものを見せて、伝えたいものを伝える試合をします。チャンピオンに挑戦できるようにしっかり勝ってクリアするので楽しみにしていてください」
■視聴方法(予定)
6月1日(日)
午後13時05分~ U-NEXT
■Pancrase354 対戦カード
<フェザー級KOPC/5分5R>
[王者] 三宅輝砂(日本)
[挑戦者] 中田大貴(日本)
<フェザー級/5分3R>
平田直樹(日本)
栁川唯人(日本)
<バンタム級/5分3R>
田嶋椋(日本)
山木麻弥(日本)
<ミドル級/5分3R>
長岡弘樹(日本)
平田旭(日本)
<ストロー級/5分3R>
寺岡拓永(日本)
飯野タテオ(日本)
<フェザー級/5分3R>
岡田拓真(日本)
中村晃司(日本)
<ライト級/5分3R>
丸山数馬(日本)
後藤亮(日本)
<女子フライ級/5分3R>
和田綾音(日本)
オノダマン(日本)
<フライ級/5分3R>
萩島answerタクミ(日本)
加藤和也(日本)