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【Special】月刊、良太郎のこの一番:10月 トプリア×ホロウェイ「トプリアの構え、ホロウェイのミス」

【写真】トプリアが右を当てるまでの過程には、他の選手では突くことができないホロウェイの一瞬のミスがあった(C)Zuffa/UFC

過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客が気になった試合をピックアップして語る当企画。背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。
Text by Takumi Nakamura

大沢ケンジ、水垣偉弥、柏木信吾、良太郎というJ-MMA界の論客をMMAPLANET執筆陣がインタビュー。今回は良太郎氏が選んだ2024年10月の一番──10月26日に行われたUFC 308のイリャ・トプリア×マックス・ホロウェイ、世界最高峰の打撃戦となった一戦を語ろう。


――10月の一番としてトプリアとホロウェイの試合をピックアップしていただきました。これはもう即決というセレクトですか。

「結構前からこのカードが決まっていて、この企画が始まったときから、どう転んでも(取り上げる試合に)入るだろうと思っていました。あの大会は好カードが多くて(スピニングバックフィストでKOした)シャラブジン・マゴメドフもいいなと思ったのですが、トプリアとホロウェイの打撃の技術が最近の試合では頭一つ抜けてるところがあるし、戦前の予想やお互いのキャラクターも踏まえて、この試合に決めました」

――やはりこの試合の立ち技のレベルは最高峰レベルでしたか。

「MMAという競技の中で、トプリアとホロウェイの立ち技の技術を比べた時に、完成度で言えばトプリアの方が上です。ホロウェイは細かいテクニックもあるけれど、前回の(ジャスティン・)ゲイジー戦のように、相手を自分の戦いに巻き込んで、最後にとんでもないKOで勝つ強さがある。そんな2人の試合だったのですが、結果的にはトプリアが完全に実力でねじ伏せた試合でした。個人的にはホロウェイの戦いの方が好きなのですが、トプリアはここ数年、歴代のトップ選手たちを見ても、MMAにおけるボクシング&レスリングの最高点に近いぐらいのレベルの高さにいると思います。特にボクシングスキルはずば抜けてますね」

――フィニッシュはトプリアのKO勝ちでしたが、そこに至るまでにどんな攻防があったのでしょうか。

「パターンで言ったらトプリアが右カーフキックで削って、みんなも予想していた右を当てて…という展開でした。あの右はスイング気味というかクロスカウンターに近い被せる打ち方で、ポイントはトプリアの構えなんです。トプリアの構えは真っ直ぐに身体が立ってない、右脇を絞って、やや右斜めに身体を傾けるように構えるんです。ようは右の拳をいつでも打てる位置に置く=ミサイルの発射台を常に設置しているようなイメージです。

 逆にホロウェイは頭頂部から一本棒が通っているように身体が真っ直ぐに立っていて、両手を前に出して触手のように伸ばして制空権を取りにいきます。しかもホロウェイはリーチが長くて左手を自由自在に使えて、高速ジャブ、フリッカー気味のジャブ、スマッシュ気味のジャブ…左を使い分けてヒット数を稼ぎつつ、試合を作っていく。左を伸ばすと、ホロウェイにとって左側のテンプルが空くのですが、ホロウェイはバックスピン、ミドル、関節蹴りを使って、そこを狙わせないようにする。それがホロウェイの基本的な戦い方です。

 トプリアもそれを理解したうえで試合をしているわけですが、トプリアはあえてホロウェイに左ジャブを出させる・左手で自分を触らせておいて、ホロウェイの空いている左側のテンプルを右で狙う、先ほど説明した右のミサイルを常に打てる状態をキープしていました」

――トプリアはいつでも右フックを被せることが出来るように構えていたのですね。

「はい。しかもトプリアは右脇を絞って構えるので右腕が真っ直ぐ立っていて、相手が三日月蹴りなど蹴りでボディを狙って来てもヒジでディフェンスできるんですよ」

――蹴った方が足を痛めるパターンですね。

「そうです。しかも右の被せるフックが直撃しなくても、そこから返しの左フックが打てるので、被せる右で仕留める、もしくは返しの左フックで仕留める。そういう戦いができます。またそこへの布石として、トプリアは右のカーフでホロウェイの前足(左足)を削っていて、あれが当たり始めてからホロウェイは焦っていたと思います。普通の選手だったら、あの右カーフで完全にペースを取られるのですが、ホロウェイも右の関節蹴りでリズムを取り返そうとするんです」

――2Rにホロウェイの関節蹴りがモロに入っていましたよね。

「あれで少しホロウェイも旗色が良くなっていました。ただそこでトプリアも改めて右カーフを効かせてペースを譲らなかったわけです。トプリアの仕留め方としては、いいタイミングで右のスイングフックが入って、そこから左ボディを効かせて、最後は右から返しの左フックでフィニッシュだったんですけど、勝負を決めたのは最初の右のスイングフックだったと思います。あの場面をスローで見てもらうと分かるのですが、ホロウェイはスイッチ&右の関節蹴りの流れのなかで足が揃うことがあって、あの時も一瞬だけホロウェイの足が揃ったんです。そこをトプリアが右でぶち抜きました。あの右はアレックス・ヴォルカノフスキーをKOした時と同じで、本能なのか体に染みついたものなのか分かりませんが、トプリアの必殺技です。ホロウェイが打たれ強いので、あの右をもらってからもしばらく戦っていましたが、並みの選手ならあの右一発で終わっていたと思います」

――まさに一瞬のスキを突いた一撃ですか。

「本当に一瞬なんですが、ホロウェイが右の関節蹴りを多用し始めてから両足が揃う場面があるので、ぜひ試合映像を見返してみてください。ホロウェイとしては右の関節蹴りで展開を変えて、ちゃんと足を戻して左ジャブから試合を作り直しかったんだと思います。ただ試合をトータルで振り返るとホロウェイは1Rにトプリアにタックルに入られている。そのくらいトプリアのプレッシャーが強くて、右カーフも効かされていたじゃないですか。ああやってホロウェイにプレッシャーをかけて前足を潰しておくと、ホロウェイもずっと同じスタンス・構えではいられないので、どこかでスイッチすることになる。そうなると両足を揃うミスが起こりうるわけで、トプリアの必殺の右が当たる可能性が上がりますよね」

――ホロウェイの反撃のきっかけだった関節蹴りが実は狙われていた、と。しかも1Rのテイクダウンと右カーフがそこにつながっているのは奥が深いですね。

「そうですね。試合が始まった直後、トプリアは前手=左手でホロウェイの前手を押さえるボクシング的な動きを見せていて、そこからタックルに入る・右のカーフを効かせていましたが、使っている技はそのくらいなので、やっていること自体は超シンプルです。そのシンプルな攻撃でホロウェイを削って削って、ホロウェイの土俵には上がらずに戦っていましたよね」

――その展開の中でホロウェイが3Rに足を揃えるミスをしてしまった、と。

「ただあれもミスじゃないと言えばミスじゃないんです。あの一瞬で右を合わせるボクシングスキルがあるトプリアが相手だったからこそミスに見えるわけで。トプリア以外であの右を合わせられる選手はいないと思います」

――先ほど解説していただいたトプリアの構えの解説も非常に興味深かったです。あの構えがトプリアの強さを生んでいると言ってもいいのでしょうか。

「右脇を絞って右フックを打てるように力を溜めつつ右のカーフも蹴れる。前手=左手を前に出して左側にフレームが作れているから左フックも返せる。そういう構えでもあります。あとは相手からすると左手が前に出る&フレームが出来ていて、体を右に傾けられると思った以上にトプリアの顔が遠いんですよ。だからジャブを当てづらい。そこにプラスしてトプリアは倒せる右を持っているから、その右も警戒しないといけないので、なおさらやりにくいですよね」

――向かい合った時に感じるやりづらさがありそうですね。

「ホロウェイもいつのもようにジャブが当たらなくて打撃の火力を出すまでに時間がかかっていましたからね。だからこそ右の関節蹴りに切り替えて活路を見出したホロウェイはすごいし、それを上回ったトプリアはもっとすごいんです。トプリアの練習動画を見てもボクシングスキルが尋常じゃない。立ち技の試合にポンっと出してもすぐチャンピオンになると思いますね。ボクシングをやってもかなり強いと思います。しかもトプリアはグレコローマンレスリング出身で柔術も黒帯じゃないですか。それであのボクシングスキルだから……ちょっと訳が分からない強さですね」

――パンチのKOが続いていますが、相手によっては組み主体で戦うこともできると思います。

「テイクダウン主体で寝かせにくる選手が相手になってもトプリアは対応できますからね。組みで展開を作れないグラップラーは前に出られなくなるので、そうなるとトプリアの打撃のプレッシャーを受けて下がってしまって仕留められるでしょう。例えばマラブ・デヴァリシビリはひたすらタックルに入ってテイクダウンを狙い続けますが、トプリアは『こっちはいつでもテイクダウンできるよ』や『もし組みに来ても対応できるよ』があったうえで、あのボクシングスキルでKOを狙うので、タイプが違う強さですね」

――ヴォルカノフスキーとホロウェイをKOして王座に君臨しているので、現時点ではフェザー級で無敵状態ですよね。

「穴もあるんでしょうけど、それを補う波に乗っているというか。アレックス・ペレイラもそうですけど、手をつけられない波に乗っている感じはありますよね。トプリアの打撃スキルは立ち技の選手が見ても勉強になるレベルだと思います」

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