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【DEEP121】江藤公洋に挑戦、空手家・野村駿太「裁定基準がこうだからというようなMMAはしたくない」

【写真】凄く凡庸な表現かもしれないが、目力があって面構えが良い (C)MMAPLANET

本日16日(月・祝)、東京都文京区の後楽園ホールで開催されるDEEP121 Impactで、野村駿太がDEEPライト級チャンピオン江藤公洋に挑む。
Text by Manabu Takashima

全日本空手道選手権5位の実績を持ち、MMAに転じた野村は昨年7月に江藤と対戦し、テイクダウン&コントロールの前に判定負けを喫している。

あれから1年2カ月、MMAファイターのとして成長した野村にタイトル戦に向けて話を訊くと、MMAを戦うことで空手の本質を考えるようになったという興味深い言葉が訊かれた。(※取材は6日に行われた)


──試合まで約10日、タイトル挑戦に向けてどのような練習を行ってきていますか。

「所属するBRAVE、ロータス世田谷、あとは石渡(伸太郎)さんに週に1度で教わっています」

──石渡さんの指導も受けているのですね。

「もう3年ぐらいになります」

──そうだったのですか。石渡さんに指導を受けるようになったのは、どういうところからだったのでしょうか。

「もともと石渡さんのお父さんが、帝京大学空手部の初代に当たる大先輩なんです」

──ええっ!!

「そういう縁もあり、石渡さんも自分の大学の流派に空手を習いに来たりすることもあって。ちょうど石渡さんが指導に専念するタイミングで、教えていただくことになりました。BRAVEでは僕が入った時から、打撃の選手が増えてきた感じでレスリングは徹底して鍛えることができても、打撃を教えてもらう環境が整っていなかったので。

自分の空手をMMAに落とし込むことが、困難に感じていました。キックボクシングやムエタイの先生はいても、打撃のなかでも僕らのスタイルを理解しているという選手はほぼいないじゃないですか。僕自身、皆と同じルートを歩くのではなくて、僕には僕のルートがあると思っていて。打撃になると苦言を呈してくれる人もあまりないので、凄く有難い存在です」

──最近、MMAの判定基準がテイクダウンの評価が以前よりも低くなっている。そのようななかで、江藤選手との再戦となります。そこは何か影響はありますか。

「判定に関しては、(原口)伸があの試合で負けた。それがMMAの現実だと捉えるようにしています。ただ試合になるとポイントを意識することはあるかと思いますが、だからといって簡単に組まれたり、下になってはいけない。それは変わりないです。江藤選手には1年前に現実を見せつけられましたし、判定基準が変わったことで組みを軽視するようならここ(ロータス世田谷)では練習をさせてもらっていないです。何より今の裁定基準がこうだから、こういう試合をするというようなMMAはしたくないです」

──おぉ!!

「そんな勝ち方をしても嬉しくない。明白に勝ったと思われる試合をすることしか考えていないです。判定基準がストライカーに有利だと思うのでなくて、組みがデキるストライカーにならないといけないです」

──良いですねぇ。そのグラップリング面はロータスとBRAVEで積んできたわけですね。

「僕のなかで以前は壁レスとレスリングを分断していたのですが、そういうことじゃないと気づきました。MMAは流れのなかに色々な要素が組み合わさっているのに、そこを別モノと考えること自体が間違っていたと思います。

壁を使って守る。壁に押し込まれて休む。そんな意識だったことが、試合でも顕著に表れていました。今も技術として完全ではないですけど、意識としては繋がっています」

──そのような意識の変化があるなかで、今年はRoad to UFCを当初は狙っていると伺っていました。

「ハイ。最初はトーナメントがあると思っていましたし。去年の12月にDEEPの試合が終わって、3月に次の試合という話もあったのですが、それだと5月か6月のRoad to UFCに間に合わない。だからお断りして、Road to UFCからの返答を待っていました。

でも3月にトーナメントはないと分かりました。でも、これからどうなるか分からないし、それなら日本でDEEPのチャンピオンになることが大切だと。まぁRoad to UFCに限らず、海外からのチャンスが巡って来た時のためにもベルトを獲っておきたいです」

──と同時に、この再戦はこの間のMMAファイターとして成長度合が問われる試合になるかと思います。

「その通りだと思っています。ロータスで練習をさせてもらうようになったのも、前回の試合の時期からでした。僕の判断が間違っていなかったと証明したいです。あの時も勝つために戦っていましたが、こういう形になると負けてしまうという風に穴もありました。当時と比較すると、MMAとしてスタイルが固まってきたと思っています」

──組ませずに戦うことがベストだと思いますが、前回の対戦時と比べて組まれた時の対応力の差はどれほどだと感じていますか。

「前回の試合の時は局面によって相手の時間、俺の時間という意識がありました。でも、それも違う。どの局面でも自分のやるべきことをやる。例え組まれても、自分の時間。今回はそう思って戦います」

──MMAPLANETのインタビューで、江藤選手は前回対戦した時の野村選手は思った通りだったと言っていました。

「今もそう思い続けていてくれて、試合中にビックリしてくれた方が自分には都合が良いです。自分としては組ませずに勝つのが一番ですが、組まれても戦える。全ての面で、自分が勝ったと思われる試合をして勝ちます」

──2年前にゴン格の取材で空手時代とMMAに転向してからの打撃の違いを説明してもらいましたが、あの時に「MMAと空手は違うけど、空手の良さはある」というようなことを話されていました。これだけMMAファイターとして成長してきた野村選手ですが、その考えを今も持っていますか。

「あの時の打撃と、今の自分の打撃は全然違います。言うと……あの頃は空手を表面でしか理解できていなかったと感じています」

──おぉ。というのは?

「自分が思う空手は結局、競技面でしか見ることができていなかったです。空手の先輩に永木伸児さんという方がいて、世界空手道選手権で3位を2度、世界王者に1度なっている凄い人なんです。その先輩の凄さは、口で説明できないぐらいで(笑)。体に感じる凄さがあって。世界大会だと67キロや70キロで試合に出ているのに、無差別の全日本でも優勝しています。

永木先輩が南柏で道場(永木道場)をやっていて、月曜日と木曜日に子供達に組手を指導させてもらって、水曜日と土曜日に基本稽古と型をやっています。永木先輩と話す機会も増え、自分がMMAを戦うようになって気付いた空手を競技空手のなかでやってきていたことが分かったんです。そこに気付いた時、MMAと空手を分ける必要はないっていう発見ができました。

空手ではこうだっていう以前の自分の考えは、競技に寄り過ぎていただけで。競技空手は審判の判断ですから、良く見えるように戦う傾向があります」

──ハイ。同門の南友之輔選手も言っていました。

「でも永木先輩は『相手に分からないように突けば、良いんだよ』と根本が違っていて。僕はポイントを取るために、空手の基本を疎かにしていました。五輪に採用されたり、競技化が進むことで──部活動で勝つための空手になっていたんです。でもボクシングを習った時に、直突きでも共通点も凄く多くて。

そういう空手本来の突きを競技用に、自分のなかで変えてしまっていたんです。巻き藁を突く時と、競技で使う突きが違う。自分のなかで、そういう本質的なことを疎かにしていました」

──空手の理、原理原則、本質を忘れてはならないと。

「ハイ。強い突きをつくためにも、筋力でなく体の使い方。そういうことを学ぼうとするようになりました。何が大切なのかは、皆それぞれがあると思います。でも、皆と僕にはズレがあって。

空手は凄く深くて、まだ入り口に立ったぐらいですけど色々と変化はあります。そこを遠ざけているのが、これまでの自分でした。競技の空手では基本稽古は必要ないという意見もありましたし。でも、MMAをやるようになって基本稽古の体の使い方ができれば強くなれる──そう思うようになりました」

──いや鳥肌モノの言葉だと思います。実は今日、ここに来るまで他の選手の取材をしていました。その選手はフルコンタクト空手出身です。そして『試合は空手から遠ざかる。空手は基本稽古にある』というようなことを口にしていました。

「そうなのですか。いや空手は空手なのなかって思います。別に基本稽古の動きを試合でするわけでなく、そうなると流派で代わって来るじゃないですか。その奥、深いところに空手はある。当てれば良い、倒せば良いってことでもなくて……使い方というのか。

凄く言葉にするのは難しいんですけど、僕は子供への指導でも、ポイントを取るためっていう空手は絶対に教えたくないです。スミマセン、何を言っているのか……自分でも……」

──いや、凄く興味深いです。

「触れれば勝てるというモノではなく、見やすさでもなくて、相手にバレずに先に突けば良い。何よりも、そこに入るまでのことが重要で。そういう風に考えています。それは組み技や寝技で自分が倒されるために逃げるんじゃなくて、そこで戦うことに共通していて。相手本位で戦っていては勝てないということなんですよね」

──そうなると、居着いてしまっているわけですね。

「そう、そういうことです。MMAを戦うことになって、僕は空手への気づきが増えました。コイツと戦うのは嫌だと思わせることが、格闘技の本質として存在していますし。とにかく強い人って嫌じゃないですか。

それは打撃だけでなくて、組み力もそうで。相手に嫌がれるようになりたいですし、なれると思っています。まだまだ分かっていないですけど、考えて、自分が思ったことがそうだったと感じられることが嬉しくて。

それに永木先輩が言われているバレずに突く。相手が分からない攻撃ができる距離やタイミングってあると思うんです。虚をつくというか。ボクシングのなかでも、MMAのなかにも虚ってある。なぜか当たる選手って、それがあるからだと思うんです。スミマセン、タイトルマッチのことに全然ならなくて」

──いや、この考えを聞けたことが大収穫です。その野村選手の空手の理が最大限に発揮されるのは、実は次の試合ではない。筋肉と捻り効果でKO勝ちを狙う海外勢との一番だと勝手ながら期待させていただきます。

「ハイ。自分より力が強いヤツ。デカいヤツ。速いヤツはいます。それを分かっていて、同じようにやって一番になろうとはしない。でも、その場で戦っている。それが永木先輩だと思います。見て分かってもらえることじゃないかもしれないけど、そういうことを試合間隔が空いた時に考えて、自分と向き合える時間が多かった。それは、この試合でも生きると思っています」

■DEEP121 視聴方法(予定)
9月16日(月・祝)
午後5時35分~U-NEXT、YouTube DEEP/DEEP JEWELSメンバーシップ、サムライTV

■DEEP121 対戦カード

<DEEPバンタム級王座決定戦/5分3R>
福田龍彌(日本)
瀧澤謙太(日本)

<DEEPライト級選手権試合/5分3R>
[王者] 江藤公洋(日本)
[挑戦者] 野村駿太(日本)

<メガトン級/5分3R>
水野竜也(日本)
大成(日本)

<フライ級/5分2R>
KENTA(日本)
渡部修斗(日本)

<フライ級/5分2R>
関原翔(日本)
杉山廣平(日本)

<フェザー級/5分2R>
五明宏人(日本)
相本宗輝(日本)

<バンタム級/5分2R>
雅駿介(日本)
谷岡祐樹(日本)

<バンタム級/5分2R>
力也(日本)
鹿志村仁之介(日本)

<ストロー級/5分2R>
多湖力翔(日本)
中務修良(日本)

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