【TTFC10】1年5カ月振りの実戦=轟轟戦前の狩野優「自分が取材される優先順位は低いはず」
【写真】慇懃無礼の真逆、そんな狩野優 (C)MMAPLANET
16日(金)に東京都練馬区のココネリ・ホールで開催されるTribe Tokyo Fight Challenge 10に狩野優が1年5カ月振りの再起戦で轟轟と戦う。
Text by Manabu Takashima
昨年3月にONE FFでイヴァン・パルシコフと対戦し、ヒザ十字でまさかの50秒一本負けを喫した。その後、国内外で実戦の場から姿を消していた狩野は学業に専念し、大学院で修士課程を修了していたという。
MMAファイターを続けるうえでの休養期間を終え、狩野の想いを訊く中で彼の口からは「自分より、他の選手を取材してほしかった」という言葉が発せられた。
言葉は丁寧でも、無礼な人間はいくらでも存在する。対して決して饒舌ではなくても狩野優という漢が口にする言葉からは、無骨かつ誠実な彼の生き方が伝わってきた。
MMAは他に収入源がないと続けられない
――16日のTTFCで昨年3月以来、1年5カ月振りの試合となります。これだけ試合期間が空いた理由をまず教えていただけますか。
「大学院での学業に専念、論文を書いていました」
――それは就職をするためということで?
「ハイ。やっぱりMMA以外で収入がないと選手を続けることもできないので。修士課程を修了して、今は会計系の仕事に就いています。MMAを続けることは大前提として、仕事をしていても練習ができる環境を創れるようにしてきました」
――つまり今は以前のように練習ができていると。
「ハイ、昼にあるプロ練習にも出ています」
――安定した収入があると、安心して練習もできますか。
「安心というか、日本のMMAファイターはほとんどがそうやって生きているわけですし。強さだけでなく、知名度が必要で。強くても何か仕事をしている人がたくさんいて、自分もその1人になったという認識でいます。MMAは他に収入源がないと続けられないから、そうした――までです。
ただMMAをいつまでも続けられることでもないので、やはり社会経験はしておくべきだとも考えていました。MMAは突然、できなくなることもあるわけですし。そういうことを考えると、自分は仕事をしながらMMAを戦うことを選びました」
――1年間、実戦から離れることも込みで。
「ハイ。まぁ、去年、ONE FFで負けて……ヒザ十字でケガをしたこともあったので。あれがなければ、そこまで学問に集中していなかったもしれないです。ケガ云々だけでなく、あの負けで現実を知ったという部分も大きくて。
持っている選手っているじゃないですか? 自分は持っていないし、若い選手のなかでは終わったなという想いになっていました。だから、逆にアレがあったので学問に集中することができたと思います」
――試合を見据えた練習ができるようになったのは、いつ頃からでしょうか。
「論文に追われていた時期が終わると、すぐに試合モードの練習に戻りました」
――去年の11月に上久保選手の取材でTri.H Studioを訪れた時、狩野選手が監獄グルグルに参加されていました。あの時には、練習から離れているとは思えない動きでした。
「本当ですか。あの時は結構、論文に集中していた時期です。ただ、ついていくことで精いっぱいでしたけどTri.Hで練習をしていることは安心につながっていました。1日に1度ですが、毎日練習ができている時もあったのですが、年末になると全くできなくなっていたので」
――試合から離れることを伝えた時に、長南さんの反応はいかがでしたか。
「凄く分かってくれていました。あの時、長南さんに理解をしてもらえて、自分がやるべきことに集中できました」
――ONE FFで敗北。まさかのヒザ十字での負けからも、学べたことがあったのではないでしょうか。
「ONE FFの時は監獄グルグルでの練習を過信してしまっていて、思いもしない力でやられてしまいました。自分は攻防を見せたいと思っています。スパッと試合を決めることができたほうが、印象は良いかもしれないですが……POWND STORMの時もそうですけど、時間を掛けて倒したいというのがあるんです。
POWND STORMではデビュー戦の相手に煽られたから、苦しめて終わらせてやろうって。15分間使って残虐性を見せる。ボコボコにして、最終的に一本を取る。結果、対戦相手も自分の甘さに気づいただろうし、自分が屈服させたと勝負だと思っていたんです。でも『デビュー戦の相手に時間を掛けやがって』とか批判されて」
――すぐに敗北を取り返そうとせず、時間をおきました。そしてTTFCというホームで轟轟選手との試合に挑む。地に足をつけているという印象です。
「1年半空いているので、リセットという意味もあります。対戦相手の戦績とか、それほど気にしていないですけど、自分が戦っていない間も結果を残しています。パンクラス時代に戦って名田(英平)選手と同門で、しっかりとした選手だと思っています」
――この間、河名マスト選手や中村京一郎選手という拳を交えた選手たちの活躍を見て、焦ることはなかったですか。
「河名との試合は、1Rにバッティングをされて記憶が飛んでいるんですよ。アレを捌けないレフェリーも問題ですけど、アレで勝って喜んでいるのもどうかなって。
あの戦い方でUFCに挑戦しちゃうんだなっていうのもあります。代理戦争で優勝したヤツも、2月ぐらいにファイトベースの月曜日のグラップリングの練習しているんですよ。グラップリングを学びたくて、コクエイ・マックスのやっているクラスに出ていて……岩﨑(大河)選手が誘ってくれて。
2年振りぐらいに組んで……、まぁ代理戦争のトーナメントって、デビューしたての選手がいっぱいいるなかで4、5戦をしているんだから、優勝して当然だと自分は思っています」
――「今に見ていろよ」という気持ちが伝わってくるような気がします。
「本当ですか? 自分は自分の道を……強いヤツに勝って上に行きたいですし。過去に戦った人のことはどうでも良い……というか、頑張ってねという感じです」
ただ、俺の試合を見て欲しい
――ではキャリアの仕切り直しを迎えて、今後はどのように上がって行きたいと考えていますか。
「今後のことを考えると、また間違いをおかしてしまうので。まずは今回の試合を勝つことです」
――そういうなかでTTFCではTRIBEの練習仲間が揃って出場します。ホームで負けられないという気持ちもありますか。
「負けられないのは、いつもです。TTFCも他からオファーがなくて、長南さんから『出るか』と言ってもらえたので、出ました」
――では特に想いがあるということでもない?
「それでも3大会連続で出ていますしね、う~ん……そこでいえば、こうやって自分がインタビューをしてもらっていますけど、柔術黒帯の後藤(亮)さん、デビューから負けなし(4勝1分)の永井(奏多)君、引退する大越(崇宏)さんのインタビューをしてほしかったです」
――……。
「自分は(エフェヴィガ)雄志君みたいにメインで戦うわけじゃないし、ただ久しぶりに試合に出るということだけなのに。勢いがあったり、引退する選手のストーリーと比べると、自分が取材される優先順位は低いはずです。スポットライトなら、そっちの人たちに当ててもらいたかったです」
――MMAPLANETの在り方は書き手の各人が、その人のことを知りたい、その選手のことを知って欲しいということで取材対象を決めていきます。個人の感性に寄ってくるのですが、自分は狩野選手が戻ってくる。その背景を読者の人に知って欲しいと考えています。
「……。俺、結果を残しているわけじゃないので。ただ、休んでいて試合をする。だったら未来のある子を取材をした方が良いんじゃいかと」
――この場でチームメイトのことを思い遣る言葉が聞かれて、狩野選手にインタビューをさせてもらって良かったと思っています。同時に、今の提言をしっかりと受け止めさせてもらいます。そして、MMAを戦い続けるための選択の結果がどのようなモノなのか。ケージの中を直視させていただきます。金曜日の夜、ファンに何を見せたいですか。
「何を……ただ、俺の試合を見て欲しいです。休んで、力が落ちているわけではないです。結果なんて分からないけど、この空いた期間に何をやってきたのかも結果に反映してくると思っています。なので、試合を見てほしい。それだけです」
■視聴方法(予定)
8月16日(金)
午後6時25分~ツイキャスLIVE
■TTFC10対戦カード
<ライト級/5分3R>
エマニュエル・サンチェス(米国)
エフェヴィガ雄志(日本)
<64キロ契約/5分3R>
上田直毅(日本)
ティオール・タン(ミャンマー)
<フェザー級/5分2R+Ex>
大越崇宏(日本)
小森真誉(日本)
<ライト級/5分2R+Ex>
岩倉優輝(日本)
チェ・ジョンミン(韓国)
<グラップリング78キロ契約/10分1R>
伊集龍皇(日本)
室谷勇汰(日本)
<フェザー級/5分2R+Ex>
狩野優(日本)
轟轟(日本)
<バンタム級/5分2R+Ex>
永井奏多(日本)
唐沢タツヤ(日本)
<ライト級/5分2R+Ex>
後藤亮(日本)
グラップラー脇(日本)