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【Special】『MMAで世界を目指す』第3回:鈴木陽一ALIVE代表「体組成とフィジカルのバランス」─02─

【写真】2009年の段階で鈴木社長はすでに、MMAではなく柔術で戦っていた杉江アマゾン大輔とフィジカルトレーニングに取り組んでいた(C) SHOJIRO KAMEIKE

世界的なスポーツとなったMMAで勝つために、フィジカル強化は不可欠となった。MMAPLANETでは「MMAに必要なフィジカルとは?」というテーマについて、総合格闘技道場ALIVEを運営する鈴木社長=鈴木陽一代表が各ジャンルの専門家とともに、MMAとフィジカルについて考えていく連載企画をスタート。MMAとフィジカルについて考える連載第3回目は、MMAに必要な体組成とフィジカル――さらにジュニア世代のMMAについて考える。
Text by Shojiro Kameike

<連載第3回「体組成とフィジカルのバランス」Part.1はコチラ


――この10~20年間でMMAや柔術、グラップリングでもトレーニング内容は大きく変化してきました。

鈴木 以前はフィジカルといえば、スパーリングの中で培うものでした。しかし今は、たとえばスパーリングをやるためのフィジカルトレーニングがある。体組成も単なる減量ではなくフレーム=骨格に合った筋肉量や体脂肪率を探す。そういった面でも、だいぶ科学的になりましたね。あと体組成を考える場合、MMAはキャリアの中で――野球やサッカーでいうとポジションを変更できることは大きいと思いますよ。

納土 確かにそうですね。

鈴木 野球でいうと中学、高校、大学とピッチャーで鳴らしていた選手が、プロになってからヒジを壊してバッターに転向する。MMAの場合は、その転向が短期間で可能なわけです。二十代はストライカーだったけど三十代になったらグラップラー、というケースがありえる。すると体組成的にもフィジカルトレーニングの内容を変えていかないといけません。

たとえば十代、二十代の時にストライカーの場合はビジョントレーニング(動体視力のトレーニング)や200メートルダッシュ、SAQ(スピード、アジリティ、クイックネス)のトレーニングを行う。三十代になったら柔術とかで、手順を踏んだ寝技を覚えたりとか。そうして瞬発系より持久系のトレーニングに移行していきます。

アライブでは杉江アマゾン大輔がそうでしたね。先日、ウチの道場生から懐かしい話をされたんですよ。私が20年前に杉江アマゾン大輔と坂道ダッシュをやったり、ハートレートモニターを付けて心拍数を測ったりしていたことが雑誌で紹介されていたこととか。

当時のSAQトレーニング風景。柔術界では珍しかった(C)SHOJIRO KAMEIKE

――当時のアマゾン選手はMMAでなく柔術に集中しており、柔術家の中でもラダートレーニングを取り入れたりしていたのは珍しかったです。

鈴木 杉江の場合はラダーと坂道ダッシュといったトレーニング内容が、400メートルダッシュに変わったりしていました。年齢的なフィジカルの変化は、MMAでは十分にありえます。逆に言うと、同じトレーニングをしていてはダメなんですよ。若い頃はウェイトトレーニングをバリバリやっていて、キャリアの終盤に階級を落とすというのは、実は理にかなっている面もあるわけです。

MMAの場合、実施されている階級の体重幅が大きい。そのために無理に筋肉量を増やしたりとか、無理な減量をする場合がある。やはりトレーナーと選手本人が、体脂肪計などを利用しながら体組成を考えないといけないと思いますよ。

あとMMAは下のポジションになることがある競技です。筋肉量という意味のフィジカルにおいては、ベンチプレスとかレッグプレスなどを行う。また、組み合うのでローイングなど、ウェイトトレーニングで自分の限界値を上げていく必要がありますね。

――テイクダウンされた選手が、ボトムからスクランブルに持ち込むためには重要です。

鈴木 そうです。バランス感覚、調整力を持ったうえでプッシュ力とローイングの力を鍛えるためには、ウェイトトレーニングしながらのレスリングトレーニングが必要になります。他のフィジカルトレーニングは400メートルダッシュや器械体操など、自分の体重をコントロールできるものを基準にしたほうが分かりやすいですね。

納土 そもそも減量自体が、身体への影響を考えると良くない行為です。特に過度な減量は腎機能に大きな影響を及ぼしてしまいますから。人体の成長よりも、内臓に障害を及ぼしてしまいます。

ちなみに減量に関する効果を調べてみたところ、2022年のMMAでUFCファイターのうち616人のデータを集めた研究結果があります。その結果によると公式計量前の72時間以内に総体重の7パーセントを落とし、計量後から試合までに総体重の10パーセントが増加しているそうです。あくまで統計的には――ですが、この期間と体重幅は腎機能に影響を及ぼすと思います。

鈴木 筋肉と内臓は、脱水が体重の4パーセントが起きた場合、24時間ほどで筋肉と内臓に水分が戻ると言われています。しかし脳と脊髄に水分が戻るには、48時間は掛かるそうです。それがMMAの場合平均7パーセントということは、計量の24時間後の試合時には脳か脊髄に水分が足りない。となると、頭部への攻撃が効きやすい状態にあるわけです。そのためにも体組成を考慮し、減量時の脱水は4パーセント以内に収めたいところですよね。

理想としては、通常時は体脂肪率が低い状態でいてほしいです。ライト級のファイターであれば、通常は74~75キロぐらいで練習し、計量は汗や排泄物などを中心に脱水を4パーセントまでに抑える。試合の時も戻すのは5キロくらいですか。

――ハイドレーションテストを導入したONEの階級制と計量システムは、その点を考慮したものですね。

納土 ただ、それはそれで抜け道を探す選手も出て来ます。ちなみに体重を減らしすぎた選手は、試合で負ける可能性が高いというデータもあります。もちろんデータの集計方法次第で、減量幅が大きくても増加幅も大きい選手のほうが勝率は高いというデータも出すことができてしまうんです。それよりも、まず減量という行為自体について考えたほうが良いのではないでしょうか。

鈴木 昔、ハイパーリカバリーという方法が流行りました。ライト級の選手が試合当日は80キロまで体重を戻す――とか。しかしハイパーリカバリーをやっていた選手の多くは、選手寿命が短くなっていますからね。これは重要だから繰り返します。技を教えるインストラクターとかトレーニングを教えるトレーナーではなく、選手に寄り添うコーチとしては、競技寿命や引退後の生活のことを考えなければいけないんです。

――減量と勝率については、いかがですか。

減量が勝敗に直結するのではなく、減量により練習時間が減ることで勝敗を左右する、といえる(C)ALIVE

鈴木 コーチの視点から考えると、減量幅が大きい選手は試合直前、減量に集中してしまいますよね。我々としては、たとえば試合2週間前にハードスパーを終えた場合、試合直前まで確認作業を行いたいです。しかしその時点で落とす幅が大きい減量に入っていると、確認作業ができずに勝率も落ちると思います。その点でも体組成とフィジカルを考えると、通常体重から体脂肪率を10パーセントほどに抑えて、試合直前の脱水も4パーセント程度に抑えるようにする。すると試合直前の知的作業ができるようになるわけですね。

ラグビーやサッカー、いわゆるコンタクト系スポーツは休養を3~4日取れば、試合に迎えると思います。しかしMMAで多いのは、最後の最後まで脱水を行うと試合までに回復しない。体の回復もしていないし、技の反復確認もしていないでは、勝率も下がるのも当然ですよね。

逆に、体重が増えると強くなったと勘違いする選手もいます。それはそうですよ。スパーリング相手に掛かる負荷が違いますから。でも、それは強くなっているわけではない。やはり通常体重で試合に臨むと、一番パフォーマンスは高くなります。

納土 サッカーでは減量して試合に臨む人はいないですからね。

鈴木 そう考えると体組成という部分は、普段から試合を想定した体脂肪率であるべきかと思います。よくショートノーティスで試合に出場する選手がいますよね。むしろ体組成は、ショートノーティスでも試合ができるようにするべきなのかな、とも考えます。

リミットから10キロオーバーしている選手は、ショートノーティスでオファーを受けても「その期間で体重は落とせない」と言います。それは逆で、たとえば1カ月前のオファーならトレーニングで1~2キロ、脱水で3~4キロを落としてリミットまで到達する状態を保っておくほうが良いんですよ。

通常体重増やしすぎない、体脂肪を増やしすぎないようにしておく。そのためには普段の食事から考える必要もありますので、次回は管理栄養士さんと一緒に、「身体をつくるために必要な栄養」について考えていきます。

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