【UFC ESPN52】UFCデビューへ、中村倫也「限界はない。当然UFCチャンピオンを目指して戦っていきます」
【写真】実はこの前夜、追い込み過ぎて──インタビュー時間になっても眠り続けていたという事実があります(笑)(C)TAKUMI NAKAMURA
26日(土・現地時間)にシンガポールはカランのシンガポール・インドアスタジアムで開催されるUFC on ESPN52「Holloway vs The Korean Zombie」で、ファーニー・ガルシアを相手に中村倫也がUFC本戦初登場を果たす。
Text by Takumi Nakamura
2月のRoad to UFCバンタム級優勝後、5月に韓国&モンゴルのジムを渡り歩き、6月には米国ATTでの約一カ月間の合宿を敢行。中村は来るべきオクタゴンデビューに向けて様々な格闘技──MMAのエッセンスを取り入れ、日本でその技術に磨きをかけてきた。決戦まで2週間を切ったなか、中村は「ここから先の景色はどんどん広がっていくだろうし、限界はないだろうし、どこまでいけるか想像もつかない」とオクタゴンでの戦いに想いを馳せた。
――UFC本戦デビューを9日後に控える中村選手です(※取材は18日に行われた)。調整も最終段階に入っていると思いますが、今のコンディションはいかがですか。
「練習量としてのピークはすぎて、テーパリング(コンディショニング)の段階に入っています。ちょっとずつスピードや調子の感覚が上がってきていて、試合前だなぁって感じですね」
――ここからどう動きが上がっていくか楽しみなようですね。
「はい。減量も苦じゃないし、これから調子が上がっていくだけなので、楽しみなことがたくさん待っています」
――ATT滞在時でのインタビューでは、ATTでの練習をどう日本での練習で仕上げていくかが重要だと話していました。具体的に日本ではどこに力を入れて練習してきたのですか。
「今までは練習に行く先々でスパーリングをしていただく形が多かったんですけど、今回は津田さんのところやKRAZY BEEで、余っている時間に打ち込みやMMAドリルをお願いしています。そこでは一つ一つの技の精度を意識しながら、要所要所でちゃんとキツいことをやって(スパーリングと)分けてしっかり取り組むことができました」
――ATTと同じくドリルの重要性を日本での練習も感じましたか。
「やっぱり頭で理解することと体で理解することは全くの別物なんですよ。あっちで練習する人はそれを分かっているから、練習中もしゃべる時間を与えないで、ひたすら反復練習させる。そういう練習をしていると『自分の骨格的にこうした方がいい』とか『自分は背中で引くよりお腹を出す感覚の方が決まる』とか、自分だけの細かい気づきやポイントがたくさん見つかるんです。
試合中に訪れる1回のチャンス、攻防をモノにするためには、体で理解する練習をやりこんでおかないといけないと感じたし、こういうメニューが練習のプログラムに入っているのと入っていないとでは、試合になったときに違ってくるなと思いました」
――それは面白い話です。最先端のMMAテクニックを知る=頭で覚える、知識を蓄えるイメージでしたが、それを試合で使うためには体で覚える必要がある、と。考える前に身体が勝手に動いているように、ひたすら反復練習を繰り返す。今の日本で否定されがちな根性論に近い「理屈はいいからやって覚えろ!」という練習をATTではやっていたということですね。
「僕の勝手なイメージですけど、昔はそういう“頭じゃなくて身体で覚える”練習を日本人がやっていて、日本人が得意にしていたと思うんですよ。僕としては米国でそれを取り戻せた感覚ですね。『そうそう。こういう練習は大事だよ』って」
――例えばレスリング時代はそういった反復練習が多かったのですか。
「やっていましたね。美憂先生とか派手な印象があるかもしれませんが、練習はとにかく基本の反復なんです。僕もアーセンと一緒に毎日構えの練習とか先生が手を叩いたらバービーみたいな基礎練習を延々とやっていましたから。正直その時は『つまんねえ!』と思っていましたけどね(笑)」
――中村選手の場合はレスリングがバックボーンですが、オリンピックスポーツにおける指導方法・メニューがMMAにも取り入れられているのがATTであり、米国での練習環境ということでもありますよね。
「そうかもしれないですね。あっちは本人の感覚に任せていると落ちていく部分を練習でプログラム化していたので。僕も所属がフリーになって約1年、スパーリングばかりやっていて、体で覚える練習も大事だなと感じていました」
――スパーリングとドリルの練習時間やバランスはどうしているのですか。
「スパーリングの量を一回減らして、ドリルを増やして正確な動きを覚えるようにしました。それが出来ていればスパーリングで何が起こっているかも分かるようになるし、相手がやってきたことに何を返せばいいのか、そこの精度も上がっていくんで」
――所属ジムがない練習環境ができるというのは、ジムや練習仲間と考えの共有が必要ですよね。今の練習環境にはそれがあるということですか。
「僕が『こういう練習やりたい』と相談すると、ほとんどみんな『自分もそういう練習が足りないと思っていたんだよね』というリアクションだったんです。だから僕が足りないと思っていた練習とみんなが増やしたいと思っていた練習が共通していました」
――これも前回のインタビューで話されていたことですが、打撃の面において「(ATTでは)ミットを持ってもらえる人がいない。これも帰国してから日本で練習してみないと分からないところですけど、日本にいるとより細かいコミュニケーションがとれるというのはあります」という部分です。これは具体的にどういったことなのでしょうか。
「ATTと比べて、という話をすると打撃のスタイルが合わないコーチもいて。例えばブラジリアンのトレーナーが教える打撃はレスリングとミックスさせるのが難しいんです。自分と持ち手の打撃のリズムや感覚が合わないとミット打ちで得られるものは少ないですよね。あとは打撃独特の心理戦や駆け引きっていうんですかね、『こういう状況になったら、こう思うよね』とか『こういう攻撃をすると相手はこう思うんじゃない?』とか。
日本人はどちらかというとビビりだから、ホントに心のちっちゃい部分まで考えてやっているし、そこまで深めようと思ったら日本で練習する方がいいと思いました。技術的にも細かいフェイントのかけ方など、そこまで細部を工夫している人が多いのも日本人の良さだと思います」
――中村選手はボクシングジムやキックボクシングジムなど、打撃専門のジムで練習したことはあるのですか。
「いや、そういうジムで練習したことはないですね。今回もMMAのなかでの打撃を伸ばすような練習をしています」
――中村選手の過去の試合を見ていると、その試合その試合ごとに使っている技が違うように感じました。この試合では左ストレート、この試合ではヒザ蹴り、この試合では左ミドル…のように。そこはご自身でも意識していたのですか。
「自分は左の攻撃が多くて、そこの集中力には自信があります。ただ打撃そのものを分かりきってないところもあって、その時その時の自分の判断で技を出している……感じですかね」
――なるほど。でもその時々の判断で色んな技が出るということは、それだけ多くの状況を想定して練習していることですよね。
「ありがとうございます。相手によって苦手な角度や技の散らされ方があると思うので、そこは相手に合わせて対策を練ったり、頭でシュミレーションしたりしています」
――では改めて対戦相手のファーニー・ガルシアの印象を聞かせてください。
「メキシカンボクサーで打撃のプレッシャーが強い。パンチも3発目、4発目、5発目まで速い回転で打ってくる。下がりながらでもパンチが打てる……そんな印象です。ただ寝技に関しては最低限のディフェンスはできるというくらいですかね。
もちろんUFCファイターなんで寝かせれば(寝技は)ザルってことはないですけど、プランとしてはそこも頭に入れて戦いたいです」
――カウンターが上手い分、ある程度、相手の攻撃を受けるタイプの選手だと思いました。
「そうですね。あとは蹴りに対するリアクションも大きいし、あっちはテイクダウンも警戒しているだろうから、持っている手札は僕の方が多いと思うんですよ。その手札をフルに利用できるブレーンがあれば試合当日は問題ないと思います」
――また、ガルシアは攻防が少なくてもいいから、自分の得意分野でポイントを取るというタイプのように感じました。まさに中村選手がどのようなアプローチをするか=手札を切るかによって試合展開が決まると思います。
「ガルシアは横の動きや角を使う動きは上手いですし、ただ前後に速いだけじゃない。左右の動きを使って詰めて来るので、向かい合ったら嫌なプレッシャーはあると思います。そのうえで攻略のイメージはばっちりで、プランもちゃんと立てているので、あとはその精度を上げて尖らせていくだけですね」
――Road To UFC優勝でオクタゴンデビューを勝ち取った中村選手✖連敗中のガルシアという図式は、この試合の結果で中村選手のUFCにおける立ち位置がはっきり分かる試合だと思います。これからUFCでトップを目指す選手として、連敗中の相手には負けられないですよね。
「それは間違いないです。ガルシア戦はUFCから『上に行きたいなら、ここはさくっとクリアしろよ!』と言われている試合だと思っています。ガルシアはフィニッシュされたことがない選手ですけど、僕はばっちりフィニッシュするイメージもできていますし、終わらせて勝つことを目標に掲げています。向こうも2連敗で後がない状況だから、戦い方も色んなパターンを用意していると思うんですよ。ボディから作ってくるパターン、回転早くダダン!ダン!とまとめてくるパターン……あとは腹を括ってやられてもいいから1RKOを狙ってくるパターン。今回は色んなことを想定して戦います」
――確かにガルシアはガルシアで「ここでニューカマーに負けて3連敗したらリリースだ!」と突きつけられているようなものですからね。それこそ死の物狂いで勝ちにいくと思います。
「ガルシアの立場からしてもそうですよね。だから自分が攻めているだけじゃなくて、打撃を効かされた場合の動き方もイメージしているし、あとはそれを試合で遂行するだけです」
――ここからオクタゴンでの戦いが始まり、中村選手のMMA人生においても本格的に勝負のスタートだと思います。
「色んな人の力を借りてここまで来ることができて、そういう人たちの想いが自分には乗っているので楽しみですね。ここから先の景色はどんどん広がっていくだろうし、限界はないだろうし、どこまでいけるか想像もつかない。当然UFCチャンピオンを目指して戦っていきます」
――その色んな人たち、そして日本のファンに向けてメッセージをいただけますか。
「2月の試合からさらにパフォーマンスが上がって、毎日強くなる自分を感じてワクワクして過ごしてきました。来週爆発させるのが自分でも楽しみなので、みなさんも僕のパフォーマンスと爆発を楽しみにしていてください」