お蔵入り厳禁【ADCC2022】ゴードン・ライアン、スーパーファイトでガルバォンを圧倒。RNCを極める
【写真】ゴードンの圧倒的な強さを引き出しのは、ガルバォンの頑張りだった(C)SATOSHI NARITA
9月17日(土・現地時間)&18日(日・同)にラスベガスのトーマス&マック・センターにて開催された2022 ADCC World Championshipが開催された。
Text by Isamu Horiuchi
ADCC史上、他のグラップリングイベントの追随を許さない最高の大会となったADCC2022を詳細レポート。最終回は――お蔵入り厳禁、アンドレ・ガルバォンとゴードン・ライアンのスーパーファイト・タイトルマッチの模様をお伝えしたい。
大会の目玉であるスーパーファイトは、2013年にブラウリオ・エスティマを下しスーパーファイト王座に就いて以来、3度防衛に成功しているアンドレ・ガルバォンと、前回大会の階級別と無差別を完全制覇し、今回も最重量級を圧勝したゴードン・ライアンの一戦だ。
ガルバォンは当初引退を宣言していたが、王冠とマントを纏う傲慢不遜な「キング」を名乗るゴードン──グラップリングというマイナースポーツで名を売るためには何が必要かと考え、このキャラクター創造に至ったと自ら語っている──は、SNSを用いてガルバォンや門下生たちへの挑発を開始。両者の仲は険悪化し、昨年の2月のWNO大会後にはゴードンがガルバォンに張り手を浴びせ、あわや乱闘勃発かという騒ぎにまで発展した。
ゴードンはその後、長年悩まされていた胃腸不全の悪化のため競技からの無期限撤退の発表を余儀なくされた。が、ADCC大会の統括モー・ジャズム紹介の医師のおかげで症状が改善して復活。片や「下らない遺恨は忘れよう。僕はゴードンを許す」と宣言したガルバォンの方も、引退を撤回し対戦を決意。ついに両者の一戦が実現の運びとなった。
なおガルバォンは、今回の大会前に受けたインタビューにて「僕はゴードンのSNS攻撃の罠に嵌り、精神がダークサイドに堕ちてしまっていた。毎日何時間もスマートフォンを眺めて夜も眠れなくなり、神の道から離れてしまっていた」と告白している。
競技者のメンタルをリアルに蝕む、SNS時代ならではのストーリー展開を経て──事前の予想は圧倒的にゴードン有利で、勝負論的な興味は薄いと思われた──この試合は「グラップリング史上最大の注目を集める戦い」と呼ばれるものとなった。
<スーパーファイト/20分1R>
ゴードン・ライアン(米国)
Def.16分4秒 by RNC
アンドレ・ガルバォン(ブラジル)
超巨大スクリーンに作り込まれた煽りビデオが流され、ド派手な火花が舞うなかレニー・ハートのコール(残念ながら段取りにミスがありタイミングがずれてしまっていたが)で入場した両者。
さらにブルース・バッファーが改めて両者の名をコールし、最高潮の盛り上がりのなかで試合は開始された。
握手を交わした後、気合十分のガルバォンはまるで相撲の突っ張りのようにゴードンの胸を押す。さらに──以前もらった張り手のお返しと言わんばかりに──ゴードンの顔に右の掌打。ゴードンは苦笑し、ガルバォンはレフェリーから注意を受けた。
その後ハンドファイティングが続いた後、ガルバォンがダブルレッグに入ると、ゴードンは抵抗せずあっさり倒れる。
座ったゴードンは、すぐにガルバォンの股間に両足を入れて開かせ、右足を抱えて引き寄せると、そのまま足を絡めて外ヒール狙いへ。
しかしガルバォンはすぐに反応し、ゴードンの足を押し下げながら勢いよくスピンし、支点をずらして足を抜いてみせた。
次にゴードンはガルバォンの右足にハーフで絡み、逆に左足に外掛け。が、ガルバォンはゴードンの左足を両手で掴んで勢いよく足を抜く。階級別の準決勝、決勝と相手がいくらエスケープを試みてもまったく離れなかったゴードンの足の絡みから、ガルバォンは2度逃れてみせた。
再びシッティングで近づいたゴードンは、ガルバォンの右足を引き寄せて絡めると、左かかとを掴んで後ろに倒す。
スクランブルを試みるガルバォンだが、一歩先をゆくゴードンは立ち上がってガルの右足をホールドして崩し、すぐに背後に付いてボディロックを取った。
すぐに立ち上がるガルバォン、ゴードンはその足を払ってグラウンドに。
上を取りに来るゴードンをガルバォンはバタブライで跳ね上げるが、ゴードンはバランスキープ。上の体勢を確立した。足関節だけではなく、スクランブルの攻防でも動きに隙がないのがゴードンだ。
ガルバォンは下からゴードンの体を浮かせて左足を引き出すが、ゴードンはバランスを保って足を抜く。立ち上がったゴードンの右足にガルバォンが浅いデラヒーバを作ると、ゴードンは低く体を預け、ガルバォンの右足を押し下げ、さらに左足に体重をかけて潰してゆく。ハーフの体勢になったガルバォンは、左足のシールドとスティッフアームでその侵攻に耐える。
その後、ガルバォンはなんとか距離を作ろうとするが、ゴードンはそれを許さず巨体でじっくり圧力をかけていった。
6分経過時点、ガルバォンはバタフライに戻すことに成功。が、ゴードンはすかさずボディロックを作って体重をかけてガルバォンの腰を固定。その後ゴードンは自らの腰を上げて改めてガルバォンの左足に体重をかけ、右足を押し下げる形で侵攻を再開した。
やがてハーフに入ったゴードンは、ガルバォンの腕のフレームを突破し、胸を合わせることに成功。さらに左ワキを取るゴードン。が、ガルバォンもここは差し返す。
慌てず騒がずじっくりとプレッシャーをかけてゆくゴードンは、再び左ワキを差して攻め上がる。枕を取りガルバォンの首を巨大な上半身で圧迫するゴードンは、やがて絡まれた右足を抜くが、次の瞬間ガルバォンは動いてまたハーフに戻してみせた。
残り11分。胸を合わせたゴードンは、ワキを制しガルバォンの上半身を完全に殺した状態でじっくりと体重をかけてゆく。やがて右足をヒザまで抜いたゴードンは、いつでもマウントを取れる状態に。が、ここで一度動きを止め、加点時間帯の開始を待ってからマウントに移行し、3点を先制した。
ガルバォンは下からなんとか体をずらすが、ゴードンはそれに乗じてバックを奪い、完全にガルバォンの体を潰した上で襷のグリップを作りさらに3点追加。さらにガルバォンの体を起こして、ボディトライアングルに移行した。その右手はガルバォンの右腕を制している。
こうして完全コントロールを奪ったゴードンは、そこからじっくりとチョークを狙う。諦めないガルバォンはなんとか体を動かすが、サイドが変わるたびに足のフックを入れ替えてゴードンは点を重ねてゆく。
やがてゴードンは自らの左足でガルバォンの左腕を完全に固定。さらに右腕でガルバォンの右腕も制すると、残った左腕で無防備になったガルバォンの顔面を圧迫するが、ガルバォンは意地でも首を開けようとしない。ゴードンはさらに右腕のホールドを解いて、両腕を使って片腕のガルバォンのディフェンスを崩しにかかる。
完全に余裕のある表情のゴードンは、アゴの上からの絞めやネッククランク等を試みるが、ガルバォンは諦めずに耐え続ける。ガルバォンは何とか体をずらそうとするが、ゴードンはそれを許さない。
やがてゴードンは、右腕の手首の細い部分を利用して首にねじ込む。たまらず仰向けになって最後の抵抗を試みるガルバォンだが腕が深く入ってしまい、残り4分の時点でとうとうタップした。
技を解いて座ったゴードンは、優しい微笑みを浮かべてガルバォンに握手を求め、それに応じたガルバォンにハグ。さらに首を抱き合い語り合う両者を、場内は暖かい歓声で称えた。
勝ち名乗りを受けた後、ガルバォンの手を上げてみせるゴードン。両者の3年越しの長い戦い──特にガルバォンにとっては精神を削られた辛い戦い──は、ついに終焉を迎えた。
大方の予想通りゴードンの完勝に終わったこの試合。が、地上最強最強のグラップラー、ゴードン・ライアンの無類の強さ、動きの隙のなさが、──足関節だけでなく、スクランブル、パスガード、コントロール、極めと多彩な局面において──存分に堪能できるものとなった。それを引き出したのは、ゴードンの足狙いを凌ぎ、不利な体勢に追い込まれても抵抗を続けたガルバォンの不屈の闘志に他ならない。
試合後、ケニー・フロリアンから勝利者インタビューを受けたゴードンは「俺はアンドレのことを悪く思ったことなんて一度もなかったさ。まあちょっとした揉め事や言い合いがあっただけだよ。リスペクトしているし、俺は彼の半分もタイトルを持っていない。彼の最後の相手として、そのレガシーの一部に加われるなら光栄だ。だからサンキュー、アンドレ!」と、今までガルバォンにしてきた数々の酷すぎる仕打ちはいったい何だったのか、とツッコミたくなるようにコメントした。
さらに胃腸の調子について尋ねられると「だいたい70パーセントくらいかな。前よりはいいけど、100パーセントとは言えないよ」と語ったゴードンは、99キロ超級での戦いについて尋ねられると「調子は良かったよ。ポイントはエネルギーの使い方だった。フレッシュなアンドレとの試合が、ハードでフィジカルなものになることは分かっていたからね。階級別の準決勝決勝は合計3分くらいで終えることができたから、ゲームプランをうまく実行できたよ」と振り返った。
続いて次の目標について聞かれると「今回はいい試合ができたけど、でもパーフェクトではなかった。全試合サブミッションは取れなかったからね。それに俺は、フィリぺのこともボコボコにしなくてはならないんだ。だからファンが求めて、主催者のモーが同意してくれるなら…今から20-30分くらい奴にウォームアップする時間をやるし、俺は(奴と違って)これ以上の金を請求したりしない。だからフェリペよ、やるぞ! 今からだ。もうファッキンな言い訳はなしだ!」と、──今回最大のライバルと目されながら、準決勝敗退に終わった──フィリッピ・ペナを挑発。スーパーファイトと無差別級の両方を制し、ADCC至上初の快挙を達成してなお貪欲に戦いを求める姿勢を見せた。
「みんなありがとう。試合に向けてすごくいい準備ができたよ。今回は16週間と長めに準備期間を取ったんだ。でも練習開始して4週間のところでヒザの靭帯と半月板と損傷してしまった。それから出来る限りの治療をして試合に臨んだよ。まだヒザは少しぐらついていたし、キャンプ中もヒザが悪いからガードの練習ができなかった。
だから、この試合で唯一なってはいけないのは下になることだと分かってはいた。ゴードンはプレッシャーも強いし、力もすごく強い。ゴードンは今、全盛期だ。片や僕は39歳で、04年からADCCに参加しているんだ(04年に予選に初参加、本戦出場は07年から)。いや、言い訳はしない。この試合を受けたのは僕だし、いい試合が出来ると思っていた。
しかし残念ながら怪我が少し障害となってしまった。でも、生徒たちはみんなサポートしてくれたよ。彼らの多くが試合をするべきじゃないと言ってくれたけど、僕は一度試合を受けた以上は、やるべきだと答えたんだ。僕は、前回大会のペナとの試合のときにこれが最後だと言った。でも僕の最後の試合がいつなのかを知っているのは、神だけなんだ。神が僕をこのマットに戻してくださった。それには理由があるはずだ。
ゴードンとは試合前にいろいろあったけど、あれは僕も悪かった。僕はあの頃、人生においてとてもダークなプレイスにいたから。でも、この試合に向けて王者らしく準備することができた。ATOSにいる多くの王者たちとともにね。試合はベストを尽くしたけど、ゴードンはリーチも長かったし、でかくて強かった。ゴードンおめでとう。これからも幸運を祈るよ。
みんなありがとう。そして僕もここを去る前に…、まだこれができるんだ! (と、6本指を立てて、合計6度のADCC優勝&スーパーファイト勝利のサインを作ってみせた)。僕は、ゴードンとさっきここで話すことができて本当に嬉しいよ。ものごとは、こうあるべきなんだ。邪悪さに対して邪悪さで応じてはいけないんだ。主よ、感謝します。人生において、僕に教えてくださった全てのことに対して」
一時はゴードンのSNS攻撃に精神を蝕まれ道を踏み外しかけたレジェンドは、自分を取り戻して最強最大の敵に堂々と挑み、そして敗れることで大いなる赦しを得たかのようだった。