【RIZIN LANDMARK04】今成正和戦へ。鈴木千裕─02─「僕の実力が一つひとつ証明されていく」
【写真】山口会長の言う「最強を目指す」。格闘家としての魅力は、何よりもそこが一番。他は副産物(C)GENKI YAMAGUCHI
6日(日)、名古屋市中区のドルフィンズアリーナで開催される「RIZIN LANDMARK 4 in NAGOYA」で今成正和と対戦する鈴木千裕のインタビュー後編。
Text by Shojiro Kamaike
MMAとキックボクシングの二刀流で戦う鈴木は、RIZIN初戦こそ落としたものの、以降は3連勝中だ。MMAファイターとしての成長の陰には、所属するクロスポイントのMMA強化もあったという。鈴木と山口元気代表が語る、クロスポイントのMMA天下取りとは。
<鈴木千裕インタビューPart.01はコチラから>
――格闘技界を盛り上げるための二刀流ということですね。
「あとは技術的なことを考えても、MMAの中にもキックボクシングの要素があるじゃないですか。MMAを戦うために打撃の練習もしますよね。パンチも蹴りも、ヒザもヒジもある。それってキックボクシングですし、MMAで強くなるためにキックボクシングが必要になります。だから僕の中では、MMA一本にする必要がないんですよ。普段からキックボクシングの練習をしているので、それがキックボクシングを辞める理由にはならなくて」
――KNOCKOUT王者となり、2021年9月の昇侍戦からMMAに復帰しましたが、その昇侍戦は1R20秒でKO負けとなりました。この敗戦で自分の気持ちが変わることはなかったですか。
「あの試合はもう、何の言い訳もないです。KOされたことは事実なので。あの敗戦をバネにして、もう一度ゼロからMMAで強くなりたいっていう気持ちが強くなりました。むしろ、浮かれていた自分の気持ちを正すことができました」
――浮かれていた、というのは……。
「オレはRIZINに出るんだぜ、オレって強いんだぜ、っていう気持ちがなかったわけではないです。そんな気持ちはないって自分自身には言い聞かせていましたけど、やっぱり心のどこかには、その気持ちがあったんですよね。そんな自分を吹っ飛ばしてくれた試合でした。負けたし、良い経験だったと言いたくないです。でもあの負けがあったから今の自分がある、そう思っています」
――MMAを再開するうえで、何か新しく始めたり取り入れたものはありますか。
「キックボクシングの練習自体は変わっていなくて、そこにMMAや柔術、レスリングの練習を加えたという感じです。昼にキックボクシングの練習があって、午前中や夜に他の練習を加えています」
――昇侍戦以降、MMAはRIZINで3連勝しています。そこで練習したことは出せていると感じますか。
「チームとして固まってきたなと思います。柔術やMMAの練習はパラエストラ八王子でもやらせてもらっていて、山口会長も含めてチーム全体が僕の強い部分、良い部分を理解してくれている、というのは感じますね。この1年でようやく、チームとしての土台ができてきました」
――今のご自身の肩書は、MMAファイターなのかキックボクサーなのか。あるいは、その両方なのでしょうか。
「うーん、難しいですね。自分でもよく分かっていないです(苦笑)。考えたことがなかったんですけど、まず全部できればカッコイイと思っています」
――では、格闘家として目指しているものは何ですか。
「それは、クロスポイントというジムを体現する選手になることです。クロスポイントにはキックボクシングもあり、柔術もあり、MMAもあります。ただ、キックボクシングのチャンピオンが多いなかで、僕がMMAのチャンピオンにもなると、クロスポイント=鈴木千裕となるじゃないですか。鈴木は寝技が強い、だからクロスポイントに入ろう。鈴木はキックのチャンピオンだから、クロスポイントに通おう。そうやってクロスポイントの象徴になることが目標ですね」
――その言葉を聞いて……もう10年ほど前になりますが、山口会長が「キックボクシング人気を取り戻すためには、キックボクサーがUFCで勝つしかない」と仰っていたことを思い出しました。
山口 なぜ僕がキックボクシングをやったかというと、ゴン格も格通も当時は「最強の格闘技はムエタイ」っていう扱いだったじゃないですか。極真がムエタイに挑戦したり、大道塾の長田(賢一)さんがラクチャートとやって負けちゃったりして。あの頃は MMA と言うもの自体がほぼなくて、シューティング(修斗)が出来たか出来ないかの頃でしたね。そんな中やはり、ムエタイが最強だ!と僕も思って始めたんですよね。でも今は MMA も確立されて、僕はMMA の中で生き残るもの、使える技術がホンモノの技術だと思っているんですよ。だから格闘技ジムとして、MMA で結果を残さないといけないと考えています。
だからジムとしては、最終的にMMA でトップ選手を排出することが目標です。ただ、やはり今はそのノウハウがないので、周りの方の力を借りて選手育成をして、その子達が育った時に今のキック部門の様に、MMAのプロ練が出来る様に整えて行く事を考えています。
千裕は高校生の時にクロスポイントへ入ってきて、キックボクシングもやって MMA のクラスにも出ていました。ジムとしては、千裕がクロスポイントの MMA 第一世代であり、今後こういう選手が増えていくと思いますよ。まぁ……どうやったら MMA で強くなるのか。まだ千裕と一緒に手探りでやっている状態で はありますけどね。
そういえば、たまたま今日は日大レスリング部の元キャプテンで、現在はサモアのナショナルチームでコーチをやっている赤澤岳先生が、特別にクロスポイントでレスリングクラスをやってくれるんですよ。今回は特別クラスですが、今後は定期的にレスリングのコーチに来てもらおうと話しています。MMA に限らず、格闘技で強くなるためにはキックのプロ選手もレスリングを経験して方がいいと考えているのと、子供の頃からレスレングをやらせたいなと思っています。
――ジムとしても MMA で戦うための態勢が整ってきているわけですね。
山口 もちろん千裕が MMA でも活躍できるのは、彼自身の体の強さもありますよ。
――確かに鈴木選手はキックボクシングでもMMAでも、体がブレないしパンチに体重が乗る強さがあります。それは鈴木選手がもともと持っていたものなのか、あるいは鍛えてきたものなのか……。「両方じゃないですかね。パンチ力については、もともと持っているものがあったと思うんです。ただ、自分は身体能力が高いかどうか、それは分かっていませんでした。特に足が速いわけでもないし、ジャンプ力が高いとかズバ抜けたものもなくて。だからこそ、巻き藁にストレートを何十本、何百本と打ち込むような練習を繰り返していました。最初から最後まで、ひたすらワンツーをサンドバッグに打ち込んだりとか。それこそ右の拳がボロボロになるまで……。大人になるにつれて、そういう練習が生きてきていると思います」
――大人になるにつれて……!? ずっと最近の練習かと思って聞いていましたが、その練習を子供の頃にやっていたのですか。
「はい(笑)。空手の道場でやっていました。当時は泣きながら練習していたんですよ。中学生の時、僕がプロになりたいと言ったら、道場の先生にケチョンケチョンにやられて……。相撲で投げ飛ばされて『立て! 泣くんじゃない、プロは甘くないぞ!!』と。そういう練習を3年ぐらいやっていました。そうやって、プロになりたいっていう僕に、本気で向き合ってくれた先生がいました。あとは鈴木洋平さんとのレスリング練習もそうでした。
その練習があったうえで、成長するにつれて外国人特有の体の強さがあったりとか(鈴木はペルーと日本のミックスルーツ)。僕は天才でも何でもないです。そうやって練習してきて、たまたま格闘技に向いている体の強さが重なってきただけで」
――次は今成選手と、どう戦いますか。
「強いし、やりにいくい相手ですよね。でも同じ人間だから、必ず弱点はあります。どちらが先に相手の弱点を見つけて、そこを突けるか。僕が試合の中でそれを見落とさず、突くことができれば僕が勝ちます。
面白いファイターだから楽しみです。こういう相手に勝つことができれば、僕の実力が一つひとつ証明されていく。強い相手に勝ってこそ得られるものがあります。僕は、そうやって得られるものが大好きで。それが格闘技をやっている醍醐味ですから」