【ADCC2022】高橋サブ&堀内勇がADCCを深掘り─02─。77キロ級、柔術の神の子とADCCルール王
【写真】巧さは強さなのか。そして強さは巧さにどう対抗するのか(C)CLAYTON JONES/FLOGRAPPLING& SATOSHI NARITA
17日(土・現地時間)&18日(日・同)にラスベガスのトーマス&マック・センターで開催される2022 ADCC World Championship。2年に1度のグラップリング界最大のトーナメントが、コロナの影響で3年振りに開催される。
グラップリング界においても特殊なポイント制が用いられながら、世界最高峰の組み技の祭典を高橋Submission雄己とMMAPLANETグラップリング・ライター堀内勇氏が、独断と偏見と愛情をもって深堀り。第2弾は66キロの米国勢から、77キロ級の2人の優勝候補の対照的なスタイルについて話を続けてもらった。
<高橋Submission雄己&堀内勇、ADCC深堀対談Part.01はコチラから>
──話を蒸し返すと、ONEでトップグラップラーのグラップリングが頻繁に視られるようになるのは嬉しいのですが、それでもADCC欠場はやはり勘弁してくださいと気持ちになります。
堀内 やっぱりマイキーは個性が際立っていますからね。最近も『僕はピザとパスタしか食べない』なんてことを言いだして。朝はアサイーを食べて、毎日同じピザを食べているという話で。毎日ピザを食べて世界一になるって、ダイエット界や栄養学界の常識を覆しているんじゃないかって。
高橋 アハハハハ。
堀内 そういう彼が抜けるのは残念ですが、今大会はファブシリオ・アンドレイとかベイビーシャークなど、新しい力を知るきっかけになりますね。
──きっと勝てないという意見もありますが、そうなると『ちゃんと負けろよ』と思ってしまうんですよね。バトンタッチしてくださいって。ただ、チャトリはADCCで優勝した人間全員とサインするぐらいのつもりでいるんじゃないかと思います。マイキー不出場はさておき、他に66キロで注目すべき選手は?
高橋 ONEへの恨み節に関しては、ルールが違うから良いじゃないかなって。そりゃあ見たかったですけど、別競技といって良いほど違う。まぁサブオンリーのレフ判も納得できるルールではあるし、ソレはソレ。コレはコレじゃないでしょうか。
──じゃあRoad to ADCCに出るなよって……ってまだ恨み節が続いてしまいます。
高橋 それは……確かに(笑)。でも、やった相手がジオですからね。66キロ級で注目したい他の選手は、ゲイリー・トノンですかね。なんか期待値が高いです。66キロ級に落としてきて体が大きいから、細かい技術はさておき、立ち技も強いだろうし、極め力でいえば抜けている気がします。
優勝候補とまでは言えないですが、若くてそれなりに66キロ級のなかではデカい。伸びしろの多さも期待して、コールがどんなもんなのか凄く気になりますね。
堀内 僕もコール・アバテは楽しみにしています。17歳で、最年少です。
ベイビーシャークは20歳なのに子供に見えて、コール・アバテは17歳なのにやたらと落ち着いていて。態度も凄く偉そうだし(笑)。ただ戦い方は兄弟子のタイナン・ダウプラを彷彿させるというか。もの凄く圧力がある戦い方で、極めも正確でガチッと入る。力強くて楽しみです。
なんかお父さんが結構熱心で、子供の頃からやっていたようですね。そのお父さんがガレージで、『我々は過去のADCCの66キロ級の試合は全て見た』とか言っているんですよ(笑)。そうとうにお父さんが賭けているというのが伝わってきました。
高橋 僕もコールは期待で。後は敢えて名前を出すなら、イーサン・クレリンステンですかね。
堀内 トライスタージムでフィラス・ザハビの下で学び、その後はザハビの師匠格といえるジョン・ダナハーの指導を受けた選手ですね。
高橋 結局、ブラジル✖米国の様相になっていて、ADCCルールにおいてはブラジルが育んできた柔術スタイルが優る。そう思います。
──では77キロに移らせていただきます。世界中の誰もが見たい選手と、試合は別に見たくないけど勝てる選手。そのどちらが強いのか。
高橋 その通りですね(笑)。
堀内 見たい選手がミカ・ガルバォンで。この対談を万が一、あまり柔術に興味がない人が読んでくださっているとしたら、ミカ・ガルバォンの凄さってどういう風に伝えることができるんだろうって考えました。
──ありがたい限りです。
堀内 そして思い出したのが、コナー・マクレガーの言ったことだったんです。マクレガーがジョゼ・アルドを倒した時、「精度とタイミングはパワーとスピードを打ち負かす」という素晴らしい言葉を残しています。つまり精度とタイミングを持っている人間は、パワーとスピードがない。でもミカ・ガルバォンはその4つの全てを持っている。
──おおっ!!
堀内 柔術家に良く見られる、問答無用の重厚な圧力。ベースが強くて、プレスがもの凄く強い。
1度体重を掛けられたら、対戦相手はもうどうにもならない。ああいうファンダメンタルの柔術の圧力がありながら、反応速度が素晴らしく良い。相手の体に一瞬に反応して、素晴らしい体捌きで技を決めます。精度もスバ抜けて高い。それを全て持っているのは、ズルいんじゃないかっていうぐらいで(笑)。
他の人にはない。ちょっと人間離れしたモノを見ることができる。そんな喜びをミカの試合からは感じます。
──反応の良さは、道着でモダン柔術の攻防になった時も際立つようにも感じます。
堀内 タイ・ルオトロとは2度試合をして、ノーギでは競り負けて、道着だとボコボコにしている。それを見ても分かるように、ミカが柔術の神の子たる所以、強さが最も出てくるのは道着の試合ですよね。道着があって滑ることなく、相手がなかなか逃げられないので。ノーギだとタイのようにバランスの良い選手は、そこを凌ぎ切って自分のペースに持ち込むこともできないことはない。そしてノーギのなかでもサブオンリーの方が、ADCCより適しているんじゃいかと思います。
──それは?
堀内 やはり圧倒的なレスリング力があるとは、言えないので。そうなった時に、同じノーギでもADCCルールの権化のJT・トレスと戦うとどうなるのか。試合は別に見たくないと言われたJTとミカは対照的な2人なので、本当に興味深いです。
高橋 そうですね、ミカはレスだとたまに転がされている場面を見ますよね。しかも77キロ級だと身体的な圧力は他の選手より劣るような気がします。本当に堀内さんの見立て通りだと思います。
──JTの強さはともかく、彼の試合のどこを楽しめば良いでしょうか。
高橋 トーナメント全体の見方として、誰がJTを倒すのか。それで良いと思います。ディフェンディング・チャンピオンだし、何が凄いってルールへの対応力。
組み技の質量、技量は皆が高いレベルで拮抗している。そこでJTが勝ち抜き続けているのは、勝負どころを見極め、自分だけでなく相手の特性を理解している試合運びの上手さがあるからで。ここは受けて、ここでは2Pを取るという判断と実行力がともに正確です。そこが絶対王者たる所以で。
対抗馬としてスタイル的にも対照的なのが、ミカですよね。ミカを筆頭に、誰がJTを打ち破るのか。JTはちょっと可哀そうですけどヒール的な見方をしてもらうのが楽しいのではないかと思います。JTを優勝させたら、つまらなくなるぞ──みたいな(笑)。
──JT・トレス=北の湖ですね。
堀内 アハハハハ。
──ルールもポイントも違いますが、ルールを研究し抜いて、ルールに合った技を駆使してギリギリで勝つ。それってフィロソフィーとしては、完全にIBJJF柔術の強い人のソレではないでしょうか。そうなると、JTとの競り合いに負けないのは、同じフィロソフィーの持ち主──IBJJFルールに強い柔術家なのかと。JTは柔術では準決勝ぐらいで勝ち切れなくなることが多い印象がありますし。
高橋 確かに、ホントにそうですね。
堀内 FLOGRAPPLINGが77キロ級出場の各選手の練習風景を追っているカウントダウン映像を流していたのですが、そこで主要メンバーがお互いの印象を話しているんです。だいたい皆がJTに関しては、高橋選手が言ったように隙の無さ、ルールを知り尽くした戦い方だと言っています。
そのなかでケイド・ルオトロはATOSの後輩で「JTのことは尊敬している。JTは隙が無くてペースを掴むのに長けている。でも俺はそのペースを乱すことができる手が、いくつかあるんだ」って話しているんです。ケイドは凄く動きますから、JTの不動のペースを乱すよう、色々と仕掛けてくるのかと。特にスタンドが注目です。あと、もう一人はニッキー……ニッキー・ライアンですね。
<この項、続く>