この星の格闘技を追いかける

【Shooto2022#06】草MAXと対戦、西川大和─01─「簡単に手に入ったら嬉しいと思わないタイプで」

【写真】リモート取材にONEのキャップを被って受けた西川。7月のインタビューで話していた、ONEへの想いが結実したのか──はインタビュー後編で (C)SHOJIRO KAMEIKE

19日(月・祝)、東京都文京区の後楽園ホールで開催されるShooto2022#06で、修斗世界ライト級王者の西川大和が、前HEAT同級王者の草MAXとウェルター級契約で対戦する。
Text by Shojiro Kameike

西川にとって、今回の草MAX戦は修斗のベルトを巻いてから4試合目となる。いまだ西川は明言していた海外プロモーションとの契約に至っていない。今後の西川の往く道を尋ねる前に、彼の日常生活を尋ねた。


――今日はよろしくお願いいたします。

「よろしくお願いします」

――いつもより声のトーンが低めですが、試合1週間前ということで疲労もピークなのでしょうか。

「そうですね……今回対戦する草MAX選手だけでなく、どんどん選手が出てきますよね。であれば強い弱いは関係なく、これからも様々なタイプの選手と当たると思います。それを考えて日々、いろんなことに挑戦しながら練習しています。だから練習量は多いほうだと思うんです」

――それは今の期間に、草MAX選手とは全く違うタイプと対戦することも想定した練習をするということですか。

「はい。ひとつの試合に向けて作戦を立てるというのは、もともと自分に穴がある証拠なんですよ。練習したり試合をすれば、その度に自分の穴が見つかるわけですね。そういう穴を埋めていく練習をしていくという意味です。何よりも自分自身が強くなりたいっていう気持ちで格闘技をやっているので」

――前回のインタビューも今回も取材依頼をさせていただくと、日曜日でというお返事がありました。それは、生活リズムや練習パターンが関係しているのでしょうか。

「基本的に日曜日はプライベートで遊んだり、家族と何処かへ行ったりする時間を大切にする。それもファイターとして重要なことだと思っています。そうやって普段の練習で会う人たちとは違う人に会うと、また別のエネルギーをもらえるし、今後の自分にとって役立つことじゃないかなと思っていて」

――取材でインタビューする側がエネルギーを与えられるかどうかは分かりませんが、その時間を割いていただいて、ありがとうございます。月曜日から土曜日までは練習予定でビッシリ埋まっていますか。

「練習以外のことはしていないですね。練習が終わって外食することもないですし、誘われても全て断ります。でも、そんな自分を理解してくださっている人が多いので。僕ぐらいの年齢になると、色気づく人もいるじゃないですか。大学に入ると、それまで以上に異性と話をするようになったり、お酒を覚えて飲み友達を作ったり」

――西川選手は2002年生まれ、同級生が大学に進学したり就職していることが多いでしょう。そのぶん、誘惑も多くなりますよね。

「でも、たとえばプロ野球を目指している友人がいて、すごくカッコイイなと思うことがあるんです。同じ世代でもプロ野球とかサッカー選手って、アスリートとして追及していますよね。試合だけじゃなく、そういうアスリートの私生活も参考にしていて。

僕、何でもそうですけど、簡単に手に入ったら嬉しいと思わないタイプで。反対に大変な思いをして手に入れたものは、自分の中で永遠に消えないと思っているんですよ」

――……。

「この年になると、いろんなお誘いがあります。それを断っていると、アイツ何だよって思われることもありますよ。でもソコに行って、その場だけでキャーキャー言われることに興味がないです。結果、練習バカになっています(苦笑)。

何より子供の頃から格闘技をやっていて、本当にいろんな方に支えてもらってきました。もちろん両親にも支えてもらい、その中で迷惑もかけてきました。なのに、ここで自分が誘惑に負けてしまうと、自分が周りの人たちに嘘をついているようで嫌なんですよね。
支えてもらったというのは、お金や生活面だけじゃないです。練習で支えてくれた人もいるわけで。時間を犠牲にして僕の練習に付き合ってくれた人がいる。

選手って、誰かを犠牲にして上がっていくものじゃないですか。ここで誘惑に負けたり、それこそ格闘技を辞めたら、そういう人たちに失礼だと思っているので。僕のために何かを犠牲にしてくれた人たちの想いを無駄にせず上に行きたいです」

――試合もそうですよね。勝敗をつけるスポーツなので、西川選手が勝てば、もちろん相手は負けている。その戦績の上に現在の西川選手がいるわけで。

「そうですよね。だから簡単には辞められないし、西川大和ってそんな人だったの!? と思われるようなことはしたくないです。どれだけ周りの人に地味だと思われても」

――となると、格闘技に関わる時間以外は何を?

「格闘技以外ですか……1日のルーティンが全て練習で、あとは食事して、ストレッチをして寝る。これで1日が終わるので、格闘技以外のことをするとなると、どちらかになると思うんですよね。遊ぶにしても1人で何かをするのか、誰かと一緒に遊ぶのかによっても違っていて。こういう言い方は失礼かもしれないけど、皆で集まってワーワー騒ぐのは、自分と似た仲間同士で集まっているようにしか見えないんですよ」

――アハハハ、ハッキリ言いますね(笑)。

「たとえば自分が間違ったことをしたとしても、それを否定せずに良いことだけを言う人と話す場へ行っても、たぶん居心地悪いんですよね。自分が格闘技で上に行きたいという気持ちを失くさないかぎり。そうすると一人で過ごしたり、先のことを見据えている人と一緒にいることを選んでいると思います。さっき言った、プロ野球を目指している友人や、他の競技で頑張っている人一緒にいたりとか」

――自分が格闘技で上に行きたいという気持ちを失くさないかぎり……、ご自身が格闘技を辞めたり、格闘技が無くなった人生を考えることはできますか。

「それは考えられますよ。格闘技が無かったら無いで、何か他のことをしているでしょう。食べていくための何かをして、楽しめるプライベートを過ごす。そこはしっかり線が引ける人間になると思います。歯止めがきかないようなことをするのではなく。

別にそれは格闘技が無くなったらということではなくて、今の生活の先も考えます。何か他の仕事をして成功したら、頑張っている選手を応援する側に回りますね。そうなった場合、自分は昔やっていたからって口を出す人もいるじゃないですか。でも僕は口を出さずに背中を押す。それこそ何の競技であれ、たとえプロになれなくても、何かしらのステージへ行けるようにサポートしたいです」

――西川選手自身が子供の頃からそうやって支えられてきたからこそ、ですか。

「はい。子供の頃から格闘技をやってきたことは大きいと思います。他の競技は若くてバリバリやっている選手ばかりじゃないですか。僕も15歳でプロデビューしていて、そうした他競技のアスリートの基準でいうと、結果を出して30歳ぐらいまでじゃないかな、と考えています」

――現役生活も30歳ごろまで、と。

「だから調子に乗っている余裕もありません。この年齢でベルトを巻くと、調子に乗る人も多いですよね。インタビューを読むと、オレ様気質を出したていたり。僕は出せないです。MMAの現状を考えれば、ONEなりUFCなり海外の名だたるプロモーションでベルトを獲って初めて、ようやくアスリートって言えるんじゃないですかね。他競技の選手から見て『西川大和って本物のプロスポーツ選手だよね』と言ってくれるようになってこそ、ようやく本物になれるんだと思います」

<この項、続く

PR
PR

関連記事

Movie