お蔵入り厳禁【Special】月刊、大沢ケンジのこの一番:6月:風間敏臣✖マイマイティトゥハティ
【写真】風間選手、スミマセン。師匠は一切、試合について触れていません…… (C)MMAPLANET
過去1カ月に行われたMMAの試合からJ-MMA界の論客3名が気になった試合をピックアップして語る当企画。
背景、技術、格闘技観を通して、MMAを愉しみたい。3人の論客から、大沢ケンジ氏が選んだ2022 年6 月の一番。
お蔵入り厳禁、6月9日に行われたRoad to UFC ASIA2022 Ep01で行われた風間敏臣✖クルムアリ・マイマイティトゥハティ戦──と記しつつも、一切試合内容には触れなかった大沢親分の格闘技界の現状への危機感とMMA愛とは!
──大沢さんが選んだ6月の一番は?
「ウチの風間がRoad to UFCで戦った長い名前の中国人選手との試合です」
──クルムアリ・マイマイティトゥハティ戦ですね。
「行く前とか、ついてからも特別想うところはなかったんです。シンガポールには何度もONEで行っているし。会場も同じ、スタッフの顔が違っていて──ちょっとスムーズだなってくらいで。
どうせRoad to UFCだから。敏臣がRoad to UFCに出場が決まった時も昂りのようなモノは一切なくて。取りあえずUFCに続く道に立つことができた。それだけで。
でも入場してケージを目の前にした時に『来たな』と(笑)。テレビで視ているヤツだと。僕はWECからUFCに行けなかったから。WECは間違いなく、軽量級の世界のトップでした。そこに誇りはあるけど、僕はUFCファイターにはなれなかったという気持ちは持ち続けています。
WECとUFCが一つになる1カ月ぐらい前に、僕はWECをリリースされているんです。アントニオ・バヌエロスに負けて、どうなるのかって思っていたら、しっかりとリースされました」
──あの時の3Rが、今の大沢さんの指導の軸となる『行け』という部分に多いに影響していると私は思ってきました。
「僕、現役時代には後悔ばかりなんです。最初は激しい試合をしていたけど、戦績としては芳しくなかった。そして勝ちに徹しようと思ったら、本当につまらない試合ばかりやっちゃって。終わってから現役時代の話になると、最初の頃の激しく戦っていたことの試合ばかり皆が口にするんですよね。だから結局、俺は何もしていないとか色々な想いがあって。
なんといってもWECの時に戦い方が定まっていなかった。激しい試合をしようか、勝ちに徹しようか。一番自分の中で煮え切らない時期で……。振り切れていなかった。ホントに悔いが残っています。そして敏臣のセコンドでケージの前に立った時に、なんか本当に色々なことが蘇ってくる感覚があって」
──あの時のWECはUFCです。誇りに思うべきことかと。
「それは僕自身が想っていても、結局、回りの人はUFCで戦ったのか、そうでないかでしか判断してくれないですしね。自分で『当時のバンタム級ではWECはUFCと同じなんだ』なんて言うと、余計に軽く見られちゃいますよ(笑)。
それに水垣は実際にWECからUFCに生き残って、元UFCファイターとして認知されているわけですし。僕はWECまでだったということで、そこを自分でアレコレいうのは恰好悪いから」
──分かってくれる人は分かってくれる。それで良いのではないですか。
「そこなんですよ。今の日本のMMAって。どれだけ頑張っても分かってくれる人が分かってくれるレベルで、普通の人は分からない。そして格闘技的なモノは話題になって。そこを無視して良いのかってことなんですよね」
──う~ん、別モノですし。実際、その格闘技的とされているモノをMMAPLANETが格闘技として掲載してPV数を稼ごうとは思っていないので。
「でも、その価値が分かる人が増えた方が良いじゃないですか。Road to UFCがあって、UFCの認知度が上がっている。それはRIZINがあって、MMAに興味がある人が増えたから、この現象があるわけで。だから分かる人に分かれば良いじゃんって思っていると、分からないままで終わるイメージを僕は持っています。
例えば凄く美味しいラーメン屋さんが、家族と友達にしか食べてもらえないと──もう、そこまでなんです。僕はそう思うんです。いくら美味しくても、家族と友達しか分かってくれないなら、それは世界一という評価は無くて。
だから価値が分かって、伝えるのが上手な人が、その美味しさを伝えないといけない。そこに世界一があるなら、色々な人が認めてくれるように」
──味で世界一、店舗数で世界一、売り上げで世界一。色々な世界一があるかと思うんですよね。味はイマイチでも値段と戦略で大いに繁栄する企業もあるだろうし、味にこだわって味の分かる人を相手に商売をし、慎ましく生きるラーメン屋さんもいるでしょう。格闘技でいえば味は強さ、店舗数が知名度、売り上げが収入なら、そのどれを目指すかではないですか。
「じゃあ最高に美味しいのに、知名度がなくて、売り上げがいかないとどうすれば良いと思っているんですか? やっぱり最高の美味しいラーメンを創っているのに、誰も知らないって……それじゃやっていけないじゃないですか」
──じゃあ、店を閉めれば良い。本当に世界一のラーメンを創りたくて努力して、でもやっていけないなら。
「それは違いますよ。高島さん、何言っているんですか。だって、俺たちは今、どうやれば格闘技、MMAは日本で人気が出て、知名度が上がるのかっていう話をしているのに。辞めれば良いって、そんなの絶対違いますよ。そんな話をしているんじゃない!!
味が分かってもらえないなら、生き残るために自分の信じた味を変える必要だってあるはずです。例えば、本格的な味を追求していなくても、味がそこそこでもやっていけるとことはある。そこから学ぶ必要があるって、俺は言っているんですよ」
──それが格闘技的なモノから、格闘技をしている人間は学ぶ必要があるということに通じるのですか。
「ハイ。格闘技を辞めないで済むように、辞めないために格闘技的なモノから学ぶ必要もあるだろうって、俺は思っています。そこを無視して、強くなることだけに努力していれば良いって……それは違いますよ。だってね、強いだけじゃやっていけないですから」
──でもMMAファイターが、MMAファイターとして生きていくには強くないとどうしようもないではないですか。
「いや、選手だってSNSを活用して、自分を知ってもらうことは必要ですよ。それで自分のチャンスを広げることはできるわけだし。実際にそうやってチャンスを手にしている選手もいる」
──う~ん……。そうやりたい人がいれば、やれば良いし。強さだけ追求したい人が、強さを追求して、活路を見出すという方法論もあるのではないでしょうか。SNSで名前が売れて、チャンスが広がるって──MMAファイターとして活路が広がることになるのでしょうか。
「いや、何か噛み合わないっスね……話が。必死に強さを追求して、それだけやれば良いってことはないってことを俺は言いたいんですよ。そういうところも、選手は自分を売るために努力しないと。
いくら強くても、世間に認めてもらわないと。プロモーションだって結果的に選手が頑張って良い試合だった──で完結するんじゃなくて、その最高の試合をもっと認知されるために考えてくれって。
試合は良いけど、格闘技的なモノより話題にならない大会ばかりですよ、実際のところ」
──選手のSNS活用については、色々な考えがあるでしょう。ただしプロモーションは本当にそうだと思います。プロモーションがラーメン屋さんだったら、味の分からない人にもその美味しさを分かってもらう努力は絶対に必要です。友達や親せきだけをお客さんにするのではなくて。
「ですよね。言うとアレですけど、本当のMMAの面白さを分かっていない人も、本当に分かっている人が面白さをアピールすれば、それが面白いと思うようになることがあると思うんです。それがRoad to UFCで起こったことかと。
UFCに強い日本人選手を送り込むには、現状の日本の格闘技界よりもお金が流れてこないといけないですから」
──確かに強い選手を生むには、資本がある方が良い環境を創れます。大会もイベント自体のグレード、そして選手のファイトマネーのアップと、全ては経済の理論ですからね。だから大沢さんの言われている、格闘技的なモノから学ぶ必要もあるのでしょうね。
「そうなんですよ。そうでないと1分間、ただ殴り合うってものにK-1でもMMAでもファンが流れてしまう。でも、喧嘩しろって言っているわけじゃないんです。見られる努力もしろってことなんです。
格闘技的なモノって、MMAが本当に好きな人間にとっても何かを考えるきっかけになるはずなんです。やっぱり、俺思ったんですよ。Road to UFCでケージサイドに陣取ったときに、ここだって。ここがMMA……いや格闘技界の頂点はUFCだって。ボクシングはメインしか良い目を見ないけど、MMAは興行全体で出場している選手にリスペクトがある。だから、それをやっぱり、もっともっと色んな人に知って欲しいです。
そのために色々と言っちゃうけど、それすると業界内の人から文句を言われちゃうんですよね(笑)」