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【BJJ STARS08】怪物覚醒バルボーザから一本勝ち。ミカ・ガルバォン、柔術の神の子から柔術の神へ

【写真】9分間の神経戦から、一気の一本勝ち。柔術を見ても楽しめる層の心は既にダウプラ✖ミカに(C)BJJ STARS

4月30日(土・現地時間)、ブラジルのサンパウロにて豪華プロ柔術&グラップリングイベントのBJJ STARS 8が行われた。その目玉である道着着用ルールのミドル級GP。
Text by Isamu Horiuchi

レビュー第2回は、準決勝2試合とファン垂涎の一騎討ちが実現した決勝戦の模様をお伝えしたい。


<ミドル級GP準決勝/7分1R>
ルーカス・バルボーザ(ブラジル)
Def.1分30秒 by 変形腕ひしぎ十字固め
レオナルド・ララ(ブラジル)

試合開始早々、ララがジャンピングガードへ。バルボーザはそこに側転パスを合わせるが、ララはガードを閉じることに成功した。が、すぐに立ち上がったバルボーザはララのガードをこじ開けると再び右に側転。さらにララの左足を押さえつけながら左に回り、低く体重をかけて足を抜き、あっという間にパスを決めて見せたのだった。

さらにバルボーザは、1回戦のヒメネス戦と同様すぐに相手のニアサイドの腕を抱えて腕十字へ。うつ伏せで逃れようとしたララだが、バルボーザがその左腕をアメリカーナの方向に捻り上げると、たまらずタップ、わずか1分半の出来事だった。

勝利が決まった瞬間、バルボーザは立ち上がって上半身をはだけさせて咆哮。一回戦に続きリスクを厭わず攻め続け、今度は圧巻のパス&秒殺フィニッシュを決めてみせた。恐るべきサブミッションマシーンに進化したこの怪物に勝てる者など果たして同階級に存在するのだろうか、と思わせるほどの強さをもって決勝進出を決めた。

<ミドル級GP準決勝/7分1R>
ミカ・ガルバォン(ブラジル)
Def. 負傷棄権
マウリシオ・オリヴェイラ(ブラジル)

昨年のBJJ BETのノーギトーナメントの再戦。この時はガルバォンの引き込みの際にテイクダウン・ポイントを与えられたマウリシオ・オリヴェイラが、その後ガルバォンの攻撃を凌ぎ切って殊勲の勝利を収めている。ちなみにガルバォンが昨年の黒帯取得以来敗れたのは、このオリヴェイラ戦とWNOチャンピオンシップの決勝のタイ・ルオトロ戦のみ。他はギ、ノーギ合わせて30戦ほど戦い、その大半で一本勝ちを挙げているのだから、前回のオリヴェイラの勝利は──微妙な裁定を見方に付けたものだったとは言え──値千金だったと言える。

前に出るガルバォンに対し、オリヴェイラは引き込むと右足にデラヒーバガードで絡む。重心を落とすガルバォンだが、オリヴェイラはその左腕にスパイダー。そのままガルバォンを横に崩しにかかるが、ガルバォンも体勢を立て直す。

ならばとオリヴェイラは引き出したガルバォンの右足を抱えると、両足でガルバォンの体を浮かせながら後転。安定感抜群の重心を持つ神の子を見事に舞わせて上を奪取し、2点を先制してみせた。

下になったガルバォンがクローズドガードを取ると、腰を引いて距離を作るオリヴェイラ。ガルバォンはオリヴェイラのラペルを引き出し、それを首の後ろに回して掴んでハイガードを作る。

オリヴェイラが姿勢を正して立ち上がると、ガルバォンは右足にデラヒーバを作る。と、ここでオリヴェイラが左脚に異常を訴えて試合が中断、ドクターの診察を受けることになった。特にガルバォンが何かを仕掛けたわけでもなく、動きの中で起きたアクシデントのようだったが、オリヴェイラは立ち上がるのも困難な様子で、結局負傷棄権を余儀なくされることとなった。

とまれ、一度ノーギでガルバォンから勝利を挙げているオリヴェイラが、道着着用の今回も見事なスイープを決めて優勢に試合を進めていたことは特筆に値する。負傷が癒え次第、両者の3度目の戦いをぜひ見てみたい。

このようにすっきりしたリベンジこそ果たせなかったものの、ガルバォンの決勝進出が決定。一回戦のロ戦に続き、現在世界最強の柔術家の一人であるルーカス・バルボーザとのドリームマッチが実現することとなった。

<ミドル級GP決勝/10分1R>
ミカ・ガルバォン(ブラジル)
Def.9分37秒 by ボーアンドアローチョーク
ルーカス・バルボーザ(ブラジル)

ここまで、「怪物覚醒」とでも言いたくなるようなアグレッシブな戦いで強さを見せつけているバルボーザは、決勝も気合い十分。対するガルバォンは、こちらも前2戦同様にリラックスして微笑んでいる。難攻不落の怪物を前にしても、神の子はまったく気負っていない様子だ。

近づいて襟を掴み合う両者。バルボーザがタックルを仕掛けるが、腰を引いて防ぐガルバォン。さらにバルボーザは一回戦で猛威を振るった膝を付いての背負いに入るが、腰の重いガルバォンは崩れない。さらにバルボーザは2度、3度と背負いを狙うが、ガルバォンのバランスは崩れず。

このバルボーザの仕掛けに対し、ガルバォンの方も受けに回ることなく煽り返しては、逆に足を取ってのテイクダウンや、背負いを狙ってゆく。バルボーザもそのたびにしっかりとディフェンスしてみせる。

その後もスタンドでの攻防を続ける両者。お互い道着を掴んで煽り合っては、飛び込んでの背負いやタックルを狙う。ガルバォンの背負いの前に一瞬バランスを崩すバルボーザだが、すぐに戻る。ここまで下になることを厭わずに勝ち上がった両者だが、この決勝戦ではお互いトップゲームを警戒し合い、譲るつもりはないようだ。

一つのミスが命取りになるような立ちでの神経戦が延々と続き、7分が経過。ここでレフェリーが両者にペナルティを宣告し、両者は一旦離れてから再開となった。

ここでガルバォンは素早くタックルで飛び込む素振りを見せては退く。腰を引くバルボーザだが反応が遅れ、体勢を立て直した時にはガルバォンがすでに距離を取った後。疲労が目立つバルボーザと、まったく動きの落ちないガルバォン。ここにきてスピードの差が見え始めてきた。

さらにガルバォンは素早くレベルチェンジしてアンクルピックを仕掛ける。一瞬体勢を崩されたものの、すぐに戻るバルボーザ。主審はここでガルバォンにアドバンテージを宣告したが、副審によって取り消された。これは妥当な裁定だろう。

その後も両者譲らずスタンドの攻防が続く。バルボーザが膝を付いての投げを仕掛けると、すかさずがぶりにかかるガルバォン。バルボーザはなんとか体勢を立て直したが、がぶりを仕掛けさせすらしなかった序盤と比べ、動きは鈍っているようだ。

さらに両者にペナルティが追加され、とうとう試合は残り1分に。先にポイントを取った方が勝利濃厚という展開だ。スタミナ十分のガルバォンがバルボーザの襟を煽り、さらに前に出たところで、膝を付いて飛び込むバルボーザ。残り48秒で勝負を仕掛けた。

反応の速いガルバォンは、再びがぶりを試みる。体勢を戻そうとするバルボーザだが、ガルバォンはそれを上回る速さでバルボーザの斜め後ろに着くと、そのまま一気にドライブ。右手でバルボーザの襟を取り、左手で右足を抱えて怪物を豪快になぎ倒し、テイクダウンに成功した。なんとかスクランブルを試みるバルボーザだが、ガルバォンはあっという間にそのバックへ。

右手の襟のグリップを持ち続けているガルバォンは、さらにバルボーザの左膝のパンツを掴んで弓矢締めの体勢に。そのまま締め上げると、残り23秒のところでバルボーザがタップした。

9分12秒にわたる立ち技の神経戦で怪物バルボーザを疲弊させ、その後の25秒で一気に畳みかけて圧巻のフィニッシュ。昨年のEUG大会のタイナン・ダウプラ戦ではトップからの無類のプレッシャーの強さを発揮したガルバォンは、今大会の1回戦ではロ相手にガードからの突出した攻撃力と盤石の防御力を、決勝ではバルボーザ相手に立ち技の安定感と持久戦の強さ、そして圧倒的な極め力を見せつけた。

全局面において見る者を驚嘆させる柔術の神の子ミカ・ガルバォン。バルボーザの怪物性が覚醒したのであれば、ミカは柔術の神の子から、柔術の神へと道を歩み始めた──。

6月のムンジアルでは一体どのような戦いを見せてくれるのか。昨年のミドル級王者のタイナン・ダウプラとの再戦や、今回欠場した元王者イザッキ・バイエンスとの初対決等、興味は尽きない。

【ミドル級GPリザルト】
優勝 ミカ・ガルバォン(ブラジル)
準優勝 ルーカス・バルボーザ(ブラジル)
3位 マウリシオ・オリヴェイラ(ブラジル)、レオナルド・ララ(ブラジル)

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