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【Pancrase323】Ryo戦へ。ヒマラヤン中田大貴─02─「そこにUFCがあるから、UFCに出るしかない」

【写真】いつの日かUFCのオクタゴンの金網に駆け上がると、どのような景色が見えたのかを中田に聞ける日が来れば良いなと思います(C)MMAPLANET

12日(日)、東京都江東区のスタジオコーストで開催されるPancrase323のメインに出場する中田大貴のインタビュー後編。
Text by Shojiro Kameike

インタビュー前編では、トンデモ人生といえる経験を語ってくれた中田だが、ヒマラヤ登山とUFCの話になると俄然、感情の高ぶりを見せた。しかし、そんな感情の中に中田がMMAを戦う本質がうかがえる。

なぜMMAを戦うのか――その答えは、彼が見せる試合の中にある。

<中田大貴インタビューPart.01はコチラから>


――ヒマラヤとUFC……予想外の展開になってきたので、いったん整理させてください。まずヒマラヤ登山について教えていただけますか。

「まず学生時代、アルバイトをしていたレストランから富士山が見えて、富士山に登りたくなったんです。それで登山セットを購入し、富士山に登りました。そこで富士山を見ていたら、さらにヒマラヤに登りたくなったんですね」

――日本一の次は、世界の頂上だと。

「冒険心、ですね。自分は、何でもチャレンジしたいんです。他人から『そんなことできないよ』と言われても、僕は『できる』と答える。そんな感じで、ヒマラヤにも挑戦したくなったんです」

――ヒマラヤ登山というのは、どのルートを通ったのですか。

「ネパールのカトマンズから入って、シェルパと一緒にエベレスト・ベースキャンプを通って、カラパタールという標高5,545メートルのところにある展望台を目指しました」

――標高5千545メートル! 登山に慣れていない状態で、それほどの高地でのトレッキング、何も問題はなかったのですか。

「慣れという部分では問題なかったんですけど、いろいろムチャをしてしまって、高山病になってしまいました。おかげさまで無事でしたけど、それだけの経験をしてたどり着いた場所から見える景色が、自分の人生に大きな影響を与えたんです」

――標高5千545メールから見えた景色というのは……。

「どう表現したらいいのか分からないんですが、『これって現実の世界なのかな?』と思うような景色でした。神の世界というか、自然って神様なんだなと思うぐらい。とにかく、雷に打たれたようにビビッと来たんですよ」

――では、その感覚とUFCが、どのように結びつくのでしょうか。

「初めてUFCを見た時、カラパタールから景色を見た時と同じぐらい、ビビっと来ました。マーク・ハントとロイ・ネルソンが日本で対戦した大会です」

――2014年9月20日のUFC JAPAN2014(UFN52)ですね。

「実は当時、やっぱり現実を見て生きようと考えていました。大学を卒業して就職するか、実家の仕事を手伝ったりとか。でもそういう人生の中で、ヒマラヤに登った時のような、魂が震えるような感覚が消えていってしまうんじゃないかって、怖かったんです」

――自分が自分でなくなってしまう、といった感じですか。

「はい。そんな時にUFCを見て、全身に雷が走ったような感覚を覚えたし、この感覚を大事にして生きていたいと思ったんですよね。そこからMMAについて調べていって、気づきました。やっぱり自分は格闘技が好きなんだなって。過去を振り返ってみても、格闘技だけ、純粋な気持ちで向かい合えていたと思います」

――登山に関する有名な言葉の一つに、「なぜ山に登るのか。そこに山があるからだ」というものがありますが……。

「それです。そういうことなんです。なぜ格闘技をやるのか。そこに格闘技があるから。それぐらいのインスピレーションを、UFCから受けたんですよね」

――MMAをやるうえで目指すのは、やはりUFCですか。

「そうですね。そこにUFCがあるから、UFCに出るしかない。僕の中では、山での経験も、UFCとの出会いも運命だったと思っています」

――中田選手の行動は突発的でも、感覚としては深いですね。

「たとえば、俳優さんって役に対して命を懸けていれば懸けているほど、見ている側に気持ちが伝わりますよね。僕にとっては、格闘技って究極的に命を懸けているものなんです。負けたら全てを失うし、体もプライドもボロボロになる。だからこそ会場も盛り上がるわけで、格闘技のそういう部分に惹かれています。そんな格闘技の中で、UFCという世界の頂きを見てみたい。世界最強のファイターと、命を懸けた試合がしたいです」

――UFCにたどり着くためには、今後も国内で落とせない試合が続くと思います。次の対戦相手、Ryo選手の印象を教えてください。

「アウトサイダー時代から、試合の映像を見ました。柔道ベースで、テイクダウン、足関節や腕十字、そしてギロチンが得意なグラップラーですよね。自分にとっては、勝てないといけない相手だと思っています。確かにグラップリングは強いけど、そのRyo選手にグラップリングだけでも勝てるようなレベルにならないと、UFCには行けないと思うので」

――中田選手は、現在フェザー級3位です。Ryo選手に勝つと、タイトルマッチも見えてくると思います。

「パンクラスのフェザー級は、ISAO選手と中島太一選手が突出しています。だけど、最近はフェザー級も選手が増えてきて、レベルが高くなっている。そのなかで僕自身は、まだランキング3位のレベルにはないと思っています」

――そうなのですか。意外な意見です。

「今回の試合は次期挑戦者決定戦とも言われているそうですが、自分がそのレベルにはないことも分かっています。でも、むしろその状況が、自分が成長するキッカケになります。この試合に勝って、あと半年か1年経ったら、すごい速度で成長していると思いますよ」

――……インスピレーションのお話から一転、格闘技に関するお話では、すごく冷静で客観的な語り口になりますね。

「え、そうですか(苦笑)。何でしょうね……。僕にとっては格闘技が、人生の救いだったんです。格闘技があるから、今こうして頑張ることができる。そんな格闘技に感謝しています」

――その気持ちも、お話から伝わってきます。

「今まで人生で、いろんなことがありました。でも、もう後悔しながら生きたくはないんです。格闘技に懸けている、その気持ちが伝わるような試合を見せたいです」

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