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【Special】月刊、青木真也のこの一番:7月─その弐─SASUKE ✖工藤諒司「責任を感じることはない」

【写真】青木は試合展開よりも、ファイターのキャリアアップにメスを入れた (C)MMAPLANET

過去1カ月に行われたMMAの試合から青木真也が気になった試合をピックアップして語る当企画。

背景、技術、格闘技観──青木のMMA論で深く、そして広くMMAを愉しみたい。

青木が選んだ2021年7月の一番、第二弾は7月25日に行われたShooto2021#05 から修斗世界フェザー級王座決定戦=SASUKE✖工藤諒司戦について語らおう。


──青木選手が選ぶ7月の一番、2試合目は何になりますか。

「SASUKE選手と工藤選手の修斗のフェザー級タイトルマッチですね。あんなに行かないチャンピオンシップって、ありますか?  2人とも揃って。僕、工藤も工藤だと正直思っちゃいました。『行かなかった』と皆言いますけど、まぁ、行かないファイターじゃないですか、工藤選手は。今までもずっとそうだった。

彼のインタビューで面白いというか、自分のことをちゃんと見ることができているなと思ったのは、『僕はレスリングをディフェンスに使っていて、切って相手がミスをしたところで殴る』と言っていたことなんです。それでずっと来ていて。それで勝てていたから、これまでは良かったです。

でも『相手がちょっと強くなると、やっぱり自分からアテンプト、アプローチしないと勝てないよ』って言っていたんです。そこがしっかりと出た試合だと思いました。当てに行かないと勝てない」

──SASUKE選手と工藤選手にとって、ここが最終目標ならそれでも良いと思います。SASUKE選手はUFCを目指し、工藤選手もONEと口にしていました。そうなると、試合展開的にも勝っても採用とはならないですよね。あの試合がコンテンダーシリーズで組まれたとすれば。

「そうなっちゃいますよね。明確な差をつけるか、一本を取らないと。何よりもファイトしていないだろうという風に思われちゃいますよ」

──コンテンダーシリーズやLFAは両者がフィニッシュを狙うことで、何かが起こってフィニッシュが多くなります。対して、この試合は互いにリスクを避け、ミスをしないように戦っていました。そうなると、フィニッシュとは違うベクトルの試合になります。

「工藤は性格ですね。ずっと、そういう試合をしてきた。それとケガが多い選手なので、今回も万全ではなかったと思います。試合前の練習を見る限り。それでも勝てると踏んで戦ったのだから、言い訳にはならないですけど……練習はできていなかった。

ケガがあるというか、コンディションを創れない奴が悪いと思っています。そしてSASUKE選手は悪くない。自分が前に出られなかったことを彼は気にしているようだけど、試合をロック──止めていたのは工藤です。ずっと待っているので。だから、ああいう試合になったことに対して、SASUKE選手は責任を感じる必要がないんじゃないかと」

──あとから見直すと、それほど工藤選手のパンチは印象ほど当たっていなかったです。

「工藤のパンチは当たっていないですよ。一緒に練習しているから余計に分かりますけど、待たされているSASUKE選手に自爆がなければ負けるなと思いながら見ていて。2Rを終わった時には負けだと結論が出ていました。

逆にSASUKE選手は、よく崩したと思いますよ。あの小外と小内刈りは見事でした。あの後の打撃も良かったし、1Rのスピニングバックフィストも良かったです。だから判定が2-0になるのがおかしくて。2PはSASUKE選手のリードだと思いました。だからSASUKE選手は責任を感じることはなく、このままやっていけば良いと思います」

──その『このままやっていく』ですが。じゃあ、どこでどうやっていくのか。SASUKE選手に関しても、進路はどうなるのかということです。

「正直、それは分からないです。どのタイミングで上がっていくか、分からない。だから、このままやっていけば良い。上がれるタイミングは誰にも分からないので。この試合でも責任を感じる必要はないですよ」

──良い試合にならなかった責任というのではなく、自身のパフォーマンスを悔いているというか。これではUFCという言葉を出すと笑われるということを試合後も言っていました。

「あぁ、そうなんだ。それって回りに、整理をしてあげてSASUKE選手に言ってあげられる人っていないんですかね」

──それはどういうことですか。試合内容でいえばセコンドの猿飛流選手が、あれで良いということを試合後に話されていました。

「僕は良く頑張ったじゃないですか──と思っています。嫌らしい言い方をすると、ここでUFCに行くとかっていうことで見ていないから。正直な話をすると、そこのラグはあるかと思います。だってUFCに行くっていっても、どうやっていくのかってことじゃないですか」

──ルートというモノの模索の仕方に関していえば、日本人選手は韓国人選手より貪欲ではないですよね。UAE Warriorsフェザー級チャンピオン(※イ・ドギョム)になったりだとかっていう視点はなく。UFCとONE以外の海外の大会を視線の先に置いている選手、関係者は非常に少ないと思われます。

「へぇ、そうなんですか。じゃあBRAVE CFとUAE Warriorsっていうところは目に入っていないのですね」

──ほぼほぼ選手の口から中東の団体名を聞いたことはないです。上久保(周哉)選手や長谷川(賢)選手ぐらいですかね、自分は。

「えぇ、だって例えばフライ級だったらホゼ・トーレスとか、アリ・バガウティノフとか元UFCファイターがいるわけだし。そこら辺に勝てれば、UFCと行けるって考えないんだ……。そういう勝負の掛け方とかあると思いますけど、そういう視野がなかったら厳しいですね」

──では青木選手がSASUKE選手に対して、「UFCに行くなら」というフィルターをかけて、あの試合を見ればどういう意見になりますか。

「いやぁ、UFCに行くならっていうフィルターを掛けることができますか?」

──そうすると工藤選手との試合内容では、無理という意見になると思います。

「これじゃ無理だとかっていう言葉が出るレベルじゃないんじゃないですか。だって、普通に考えてUFCの中堅どころの選手、契約できるかギリギリのところの選手を呼んできたら、日本人は皆負けるわけじゃないですか」

──だからこそビザ取得という壁があるLFAとまではいわなくても、青木選手が言われた北米以外で国際大会を開催できているプロモーションの目を向けてほしいというのがあります。それはSUSUKE選手が──ということではなく、この国のMMAファイターに対し『UFCへ行くというフィルターをかけた』ときの、モノの見方かと。

「だって多くの連中がUFCなんて口にできるレベルじゃないわけじゃないですか。それぐらいで見ていて、この現状はヤバイって感じています。だから修斗、パンクラス、DEEPのチャンピオンになった時、自分がどういうキャリアを進みたいのか。そのためには、何が必要なのか。どういう行動をとるべきなのかを自分で創っていくしかないです。

それこそ田中路教選手がLFAへ行って、UFCを目指す。自分が幸せになる道を自分で創る。それが自分の幸せになるので。これは何も格闘技、MMAに限った話じゃないと思います。自分のやりたいこと、目的、価値観を自分で見つける。それしかないです。

ONEでも良いし、オープンになれば韓国でも良い。UFCを見るならLFAでも中東でも良い。修斗のチャンピオンで良いなら、それでも良い。自分で自分の価値を見つけないといけないです」

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