【Bu et Sports de combat】なぜ武術空手に型の稽古は必要なのか─08─站椿04「腕が動く時、空気がある」
【写真】突きも、飛行機も新幹線も、そしてF1も時間と空気の中を動いている。その空気の存在を感じるための站椿を剛毅會では採り入れている (C)MMAPLANET
型、中国武術の套路をルーツとされるなか沖縄で手の修得に用いられた。それが空手の型だ。ここで取り上げているサンチンもそのルーツは中国武術にあるといわれている。元々は一対一、あるいは極小人数で稽古が行われていた型は、明治期に入り空手が体育に採用されることで、集団で行う体力を養う運動へと変化した。
型を重視する剛毅會の武術空手だが、岩﨑達也宗師は「型と使って戦うということではない」と断言する。自身の状態を知り、相手との関係を知るために欠かせない型稽古を剛毅會ではサンチンから指導する。そんな剛毅會の稽古には站椿が採り入れられている。
なぜ、型稽古が必要なのか。そして型稽古に站椿を採り入れているのか。それは我々の周囲には大気が存在し、重力や引力とともに成り立っているからだった。
<【Bu et Sports de combat】なぜ武術空手に型の稽古は必要なのか─07─站椿03「中国の意拳は違う」はコチラから>
──站椿や推手がレスリングに通じてくる実感があったということですか。
「MMAにチャレンジしようと思ってもレスリングや寝技で勝とうということではなかったですからね。打撃で勝つにはテイクダウンをするレスリングと、テイクダウンをされないレスリングということで、レスリング自体も変わってきます。ずっと空手をやってきて寝技で勝とうなんて風にはやはりなれないですから、テイクダウンが上手くなろうというレスリングでの稽古ではなかったです。
でも、打撃だけ勝つなんて方法論は当時のMMAには存在していなかったので、自分が求めているMMAを稽古するうえで站椿は役立ちました」
──それはどういう風に役立つのですか。
「例えばレスリングやグラップリング、組み合いでも相手との衝突が起こるわけじゃないですか」
──ハイ。
「その組み合った時の力の逃がし方だとか、踏ん張りあっているときに意拳の動きを使うと、意外と凌げることができたんです」
──それは周囲から理解を得ることはできましたか。
「そこは試合に勝たないと理解はしてもらえないですよ。それが勝負、スポーツの世界です。だから周囲の理解云々とは関係なく、自分のなかで蓄積はありました」
──それは今もMMAに向き合っている選手たちにも生きるのでは……。
「生きます。ただ……何というのか、あの当時はまだ武術空手に出会っていなかったので、二子玉川に行くのに山手線をグルグルと回り続けるように、降りる駅が見当たらない状態だったんです。でも、それを『渋谷で降りれば、田園都市線に乗り換えて二子玉川に行ける』と教えてくれたのが武術空手、型だったんです。意拳、站椿をやっていて必要だとは感じている……ハマってきているものがある。でも、私がやっているのは自己流です。だから中国に渡って習おうと思った時期もありました。でも武術空手と型に出会うことで進むべき方向が定まりました」
──今、剛毅會で稽古をしている人達に站椿を指導するのは、どういうことからなのですか。
「それは……例えばサンチンをやるときに、最初に諸手の腕受けで構えを取ります。
その時に自分の腕が動く。自分の腕が動く時には必ず空気であったり、重力であったりというものは大気中にあり、それらとの関係のなかで動かしているんです。
その感覚はないと思います。ただし、事実として重力は存在しており、腕を動かすにも大気の流れと関係しているんです。我々は目に見えないモノに活かされていて、その事実関係を理解した方がより力が出ます。
引力も重力も空気圧も関係なく手を動かして力を出すのと、そこを踏まえて手を動かして力をだすのとでは違ってきます。新幹線が360キロで走るために、どんどん口ばしが長くなるような流線形の車輛に変わってきました。
F1だと前に進むのにはエンジンという動力があって、タイヤが回り、地面と設置する。そのためにダウンフォースという上から抑えつける力を利用し、かつ空気抵抗……ドラッグを少なくすることで、前に進みます。
四角い自家用車とは全く違うから、あのスピードでコーナーを曲がることができる。それと同じなんです、突くも受けるのも。飛行機が空に飛びだすためには空気抵抗をなるべくなくして、浮力を得る必要があります。抵抗していると、それこそ空中分解してしまいますよね。」
──私にとっては凄く分かりやすい例えです。
分厚い雲のなかに入っていく、あの揺れのなかで飛行機が気圧、気流、浮力、動力があり飛んでいる。『あぁ、これぞ武術だな』と思うことがあります。やはりパイロットも上手い人と、そうでもない人がいるのでしょうね。
一度、積乱雲のなかを飛ばすという時に『揺れますが、問題ありません』というアナウンスがあって。あの時の積乱雲のなかに飛行機が入っていく、まさに武術でいう入るですよ。飛行機はああいう空気圧の中に入っている。あの中で揺れなくするためにエンジンの回転数を上げたりだとか、色々とパイロットの人が操縦をしている。気流のなかでエンジンの回転数を上げる、それこそサンチンに要求される呼吸力ですよ」
──あぁ、面白いですねぇ。
「この呼吸力というのは言葉や文字では絶対に説明しても分かってもらえないです。実際に体験してもらわないと。だから体験してもらって、理解してもらう。そのための站椿です」
──これが面白いのは、興味があるからです。興味のない人には、やはり目に見えないし、腕を振るうのに空気抵抗は感じない。
「そうですね。だから否定する人がいるのは構いません。ただし、今、ここに存在しているものなのです。F1で同じエンジンを積んでもシャシーが違うと、速さも違ってきます。それはなぜか、シャシーが空気を制御し利用できているのと、そうでない場合があるからです。空気圧、重力と戦い、調和して機体差がでます。エンジンの出力はそれほど変わらない。それは人間、MMAを戦うために懸命に稽古している選手たちの出力も同じなら、この空気抵抗、重力を知ることで突きの威力は変わってきます。
ブラジル人やロシア人、米国人のような出力の高いエンジンを持っている連中と接触してからやり合おうと思っても勝てない。ただし、接触しなければ勝負できます」
<この項、続く>