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【KBJJA BJJ PRO & ONE49】漢・関根シュレック秀樹、警察官辞職。「死ぬ時に後悔すると思った」

hideki-sekine【写真】43歳、今わの際に後悔しないための選択を行った関根秀樹 (C)MMAPLANET

30日(日)、東京・墨田区総合体育館でKBJJA BJJ PRO JAPANが開催される。同大会のアダルト黒帯オープンクラスに出場する関根“シュレック”秀樹は、12月にONE世界ヘビー級王者ブランドン・ベラへの挑戦も決まっている。そんな関根に今大会への意気込みを聞くと、意外な事実が明かされていった。
Text by Takao Matsui


――大会の直前に申し訳ありません。警察の仕事の当直明けと聞いています。

「そうなんです。でも、大丈夫ですよ」

――今回も大会のギリギリまで仕事が入っているのですか。

「はい。大会前日の29日の昼間の勤務が、警察官として最後の仕事です」

――最後?

「辞めることになりました」

――ええっ!? 

「自分が死ぬ時に、このままの生活を送っていて、本当に納得できるのかを考えてみた時に後悔すると思ったんです」

――警察官をやりながら世界チャンピオンになれれば、こんなにカッコ良いことはありませんよ。

「そんなに甘い世界ではありません。この仕事は3日に1回の当直があって、徹夜した翌日なんて1日半は潰れる生活が続いています。とくに今年の夏は、バラバラ殺人事件とか放火事件があったので1週間練習ができないこともありました。週3、4回程度の練習で、毎日、追い込んだ練習をしている海外のトップ選手に勝つなんて失礼ですし困難です」

――関根選手は現在43歳で収入も安定しているでしょうから、それを捨てるということになります。

「ブルテリアボンサイで、後輩や生徒に対して夢について話をすることがあるんです。うちの鈴木琢仁君にも『夢を諦める時が、夢が消える時だよ』とよく言うんですけど、気がついたら俺が一番、安定したところにいて、すぐ横に世界タイトルを狙える位置にいるのに挑戦していないことが分かりました。

これは、すごくカッコ悪いことだと気づき、恥ずかしくなっていきました。そして、カッコ良く生きたいと思うようになったんです」

――思い切った決断ですね。

「思い切ったと言うか、やりたいことをやらなくては生きている価値がないですよね。辞めるなと言われて踏み止まった場合、死ぬ時になって後悔したとしても誰も責任はとってくれません。結局は、自分が責任をとることになるんです。だったら、後悔のないように自分で考えて、自分で選択するしかありません」

――なるほど。

「ただ、自分のワガママで決断するわけにもいきませんので、嫁の了解をとりました。そして、マルキーニョス先生と(ホベルト・)サトシ先生に相談しました。反対されたら、警察官を続けるつもりでいたんです」

――それで、みなさんは反対しなかったわけですね。

「嫁は『分かった。私は自分の好きな美容師の仕事をさせてもらっているので、好きなようにやっていいよ』と言ってくれました。マルキーニョス先生とサトシ先生は、『父のアジウソンから“人生は夢を追い続けないといけない。人生はチャレンジだ”といつも言われてきた。だからヒデキがどちらを選んでも、オレたちは応援していくよ』と言っていただきました」

――素晴らしい話です。

「それで決意が固まりましたね。警察官の仕事は嫌ではないし、むしろ誇りを持っています。警察官の大切な仲間もたくさんいますので、本当に心苦しいですが、今しかやれないことをしたいんです。世間から見たら“43歳のおじさんが夢を追いかけて安定を捨てた”と笑われるかもしれませんが、それほど魅力的な世界なんです」

――12月2日には、ONEチャンピオンシップで世界ヘビー級王者のブランドン・ベラへの挑戦も決まっています。

「実はONEのマット・ヒューム副社長から何度もオファーがあったんですが、仕事がありましたので、その度に断っていたんです。でも、警察の仕事が終われば出場することが可能ですからね」

――打撃の練習もしているのですか。

「ボンサイでキックボクシングの練習はしています。マルキーニョス先生やサトシ先生、クレベル(・コイケ)とかもいますので、ここで十分に打撃の練習もできます。ただ自分は、MMAとグラップリングを分けては考えていません」

――なるほど。元UFCファイター、ベラとの戦いの自信の程を聞かせてください。

「客観的に見たら、よくて3:7、現実的には1:9くらいの差があるんじゃないですかね。5ラウンド、打撃、ブランクなどを考えてみても不利なのは分かっています。でも、たとえ1:9しか勝率がなかったとしても、その勝てる1回を最初に持ってくることは可能です。それは日常の所作とか、いろいろな要素が絡んでくると思っていますので意識しています」

――その前に今回のBJJ PROは警察官を辞して初めての柔術トーナメント──大きなターニングポイントとなる一戦ですね。

「そうですね。1ヵ月前から出場を決めていたんですが、マルキーニョス先生も誘ったら、3日前に出場したいから詳しく教えてほしいと連絡がありました。先生と一緒に出場できるので、楽しみですね」

――対戦するとなれば決勝戦ですが……。

「いえいえ、自分の師匠ですから。家族みたいな存在なので、対戦するなんてとんでもないことです。ボンサイの選手は、みんな自分と同じように考えると思います」

――優勝賞金は10万円ですが。

「たとえ100万円だろうと、1000万円だろうと関係ないです。今、ここに自分がいるのはマルキーニョス先生やサトシ先生のおかげですから。先生の優勝に貢献できることが、自分の喜びです。あとは警察官と格闘家の兼業として最後となる大会ですから、勝利に対してただ貪欲に勝負をするだけです」

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