【ROMAN02】シュレックと素手VT戦、ゲイ・ババカール「ただ『勝つ!』という精神だけで殴っている」
【写真】セネガル相撲を通じて子供たちにも大人気の「チャティヨフ」ことババカール(C)SHOGO UOZUMI
27日(日)に東京都新宿区のGENスポーツパレスで開催されるROMAN02にて、セネガルのゲイ・ババカールがR.O.M.A. Rules=時間無制限無差別級バーリトゥードで、関根シュレック秀樹と対戦する。
Text by Shojiro Kameike
ババカールは「セネガル相撲のトップコンテンダー」として、昨年10月に開催されたROMAN01に参戦し、初のMMAを戦った。試合は水口清吾(誠悟)との道着着用MMA戦にて、わずか18秒でKO勝ち。続いて今回は、シュレックとの素手VT戦に挑む。
ババカールのROMAN参戦には2人のキーパーソンがいる。一人は元MMAファイターの孫煌進(ソン・ファンジン)氏。彼がババカールの存在を知ったのは、インターネット上でセネガル相撲の試合映像を視ていた時だった。「チャティヨフ(ババカールがセネガル相撲に出場する時、使用しているリングネーム)の試合を視て、直感で『コイツは凄い!』と思いました。セネガル相撲をやっているから当然、組みが強くてテイクダウンされない。さらに組みがある距離感の中で、打撃もカウンターが凄い。そこで自分がセネガルに行き、スカウトしたんです」(ファンジン氏)
もう一人のキーパーソンは、現地で「日本人初のセネガル相撲選手」として活動する魚住彰吾氏だ。レスリング強化選手だった魚住氏は大学卒業後、JICA青年海外協力隊としてセネガルに赴任する。この経験をキッカケにセネガルへ再渡航し、現地でレスリングの普及と、自らもセネガル相撲に挑戦することに。加えて現在はYouTubeで自身の活動とセネガル相撲について発信している。
魚住氏の活動を知ったファンジン氏がSNSのDMで連絡を取り、現地に赴いたことでババカールのROMAN参戦に繋がる。セネガルの公用語はフランス語だが、主要民族であるウォロフ族が用いるウォロフ語もほぼ公用語として採用されているという。フランス語とウォロフ語を混ぜてババカールとコミュニケーションを取っている魚住氏の通訳と解説のもと、ババカールに初インタビューを試みた。ウォロフ語で「ランブ」と呼ばれるセネガル相撲、ババカールのルーツにも迫る。
ログログとはセネガル相撲で1勝1敗だ
――ババカール選手、今日は宜しくお願いします。今もファンジンさんと魚住さんから「チャティヨフ」と呼ばれていましたが、ゲイ・ババカールが本名で、チャティヨフがセネガル相撲で戦う時の名前なのでしょうか。
「その通りだ。『ヨフ』は僕の出身地の名前で、『チャティ』はウォルフ語で『末っ子』という意味がある。だからチャティヨフは『ヨフ地域の末っ子』という感じだね。僕がセネガル相撲の試合に出る時、祖父が『お前はチャティヨフという名前で戦え』と、この名前を付けてくれたんだ」
――自分以外の誰かに名前をつけてもらうことが、セネガル相撲では一般的なのですか。
「いや、一般的ではないね。選手によって違うよ。自分でリングネームをつけたり、親からリングネームをもらったり――あとは昔の有名な選手のリングネームに『Ⅱ』をつけて、『××二世』だという意味で使う時もある」
――セネガル相撲のプロでは、本名で戦う選手はいないそうですね。
「本名の一部を取り入れている選手もいるけど、完全に本名だけで戦っている選手はいないね(※注1)」
※注1)「本名を使わない理由のひとつとして、呪術の問題があると聞ききました。あくまで一説に過ぎませんが、セネガルは信仰の深い国なので、名前・年齢など個人情報は明かさないということです」(魚住氏)。これは昔の風習だった可能性もあり、ババカールによれば現在は選手のライセンス登録の際に本名、年齢など全て記入するとのこと。
――ババカール選手の出身地であるヨフについて教えてください。
「ヨフは漁師町だよ。僕は今もヨフに住んでいるけど、セネガルの首都ダカールの中でも、治安が良い町として有名だ。昔はこの町で誰か悪いことをすると、漁師たち全員が探し出して海に沈める。そうやって治安が守られてきたと聞いている」
――……。セネガル相撲出身のMMAファイターといえば、ONEに出ているログログことウマウ・ケニが有名かと思います。
「ログログはチャーロイという漁師町の出身だね。チャーロイは、どちらかといえば新興の町だ。僕とログログはセネガル相撲のブレ・サンプレ(パンチなし)で2回対戦し、1勝1敗なんだよ。ブレ・ドール(パンチあり)なら自分のほうが強いと思っている(※注2)」
※注2)セネガル相撲のプロには「ブレ・ドール」=パンチありのルールと、「ブレ・サンプレ」=パンチなしのルールがある。「ブレ」がウォロフ語で「戦う」つまりセネガル相撲のことを意味しており、「ドール」はウォロフ語で「殴る」。「センプレ」はフランス語で、英語の「シンプル」と意味は同じ。
――おぉっ! ログログとセネガル相撲で1勝1敗とは、ババカール選手のMMAにも期待が高まります。ババカール選手がセネガル相撲を始めたのは、何歳の時ですか。
「ブレ・サンプレは11歳か12歳の時、ブレ・ドールは18歳の時に始めた」
――セネガルでは幼少期にブレ・サンプレを始める選手が多いのでしょうか。
「セネガル相撲が盛んな地域であれば、それぐらいの年齢が普通だと思うよ。6歳ぐらいから始めている選手だっている。最初は皆、パンチなしの遊びから入るんだ。放課後、皆で組み合って遊ぶ。
セネガルで人気のスポーツはサッカーとセネガル相撲だけど、ブラジルだと子供たちが放課後にサッカーで遊んでいたりするよね。セネガルではサッカーとセネガル相撲が、そんな感じだ。2メートル以上あるセネガル相撲の選手も、サッカーが上手かったりするよ(笑)。
僕はセネガル相撲を始めた頃から、将来はプロ選手になろうと思っていた。それだけセネガル相撲のプロというのは凄いんだ」
――凄い、というと……。
「最高峰だよ。セネガル相撲でチャンピオンになると、お金も手に入る。国内の人みんなに知ってもらえる。さらに大統領から挨拶も受けるからね」
早くて30秒、長引いても1分で試合を終わらせる
――さらにチャンピオンになると、女性にもモテるのではないですか。
「チャンピオンにならなくても、僕クラスでもモテモテだよ(笑)」
――アハハハ。セネガル相撲にはどのようなランクがあり、ババカール選手は現在どのランクにいるのですか。
「明確な名称はないけど、分かりやすく言えばA、B、Cのランクがある。Aはチャンピオンクラス、Bはチャンピオンではないけど有名な選手。Cがその他という感じだね。僕はBにいる。Aクラスになると何億も得ることができる(※注3)。プラス、チャンピオンはダカールで、たくさんの看板に顔が貼り出されたりする。企業の看板やバス停の看板――要はCMスポンサーだね。そのスポンサーフィーも加わるんだ」
※注3)セネガルの通貨は西アフリカCFAフラン。日本円にすると5000~7000万円ほど稼ぐ選手がいる。ババカールの言うBクラスだと、1試合のファイトマネーは100万円~250万円ほどと言われる。
――ブレ・サンプレは子供の頃から始めたのことですが、ブレ・ドールで使うパンチはどのように学んだのですか。
「そんなの誰にも教えてもらったことはないよ。小さい時に喧嘩で殴り合っていたぐらいだね(笑)。試合では、ただ『勝つ!』という精神だけで殴っているんだ」
――勝つという精神で殴る! 凄い言葉です。ちなみにセネガルでMMAは、どれぐらい知られているのでしょうか。
「セネガルでMMAが知られてきたのは、ここ2~3年ぐらいだと思う。それまではMMAに対する興味は薄かった。フランスで法改正があり、MMA(※パウンドあり)がOKになってから、フランスのMMA団体がセネガルへ選手を探しに来た。そこでスカウトされたのがログログなんだ。ログログは試合で、腕を取られた時に相手を持ち上げて、マットに叩きつけた(※注4)。その試合で注目されたログログがONEと契約して、セネガルでもMMAが注目され始めたね。しかもログログがONEで稼ぎ始めて、『こんなにMMAって稼げるのか!』と注目されている」
※注4)2019年12月、セネガルのダカールでAres FC01が開催された。ログログはフランスのソフィアン・ブキシュと対戦し、初回にキムラを狙ったブキシュを持ち上げ、スラムで叩きつけた。続く2Rにパンチ連打でTKO勝ちを収めている。
――ババカール選手が初めてMMAを視たのは?
「2021年か2022年に、スマホでコナー・マクレガーの試合を視た。その時から彼のファンで、ファイトスタイルも参考にしている。ライオンのように相手を仕留めるスタイルが好きなんだ」
――当時、セネガルにMMAを練習する環境はあったのでしょうか。
「格闘技のジムといえばボクシングぐらいしかなかったよ。2023年、ダカールにムエタイと柔術を教えてくれるジムができて、そのジムでMMAファイターが練習するようになった。
ジムのオーナーはマタール・ロゥといって、セネガル人だ。彼はカナダに住んでいる時、ムエタイのチャンピオンになり、柔術も黒帯を取得した。もちろんMMAの試合にも出てKO勝ちしている。そのあとセネガルでムエタイと柔術を広めたいという想いから、ダカールに『マンティス』というジムを創ったんだ」
――ババカール選手も、そのマンティスジムで練習しているということですか。
「いや、行っていない。マンティスに行くには交通費もかかるし、いろいろな費用も必要になるからね。実は、セネガル相撲のファイトマネーもあまり残らないんだよ。応援してくれる家族や友人に渡したり、チケットを買えない友人のために入場料や交通費なども全額出したりする。そうなると試合の10日後には、ほんの少ししか残らないんだ」
――ババカール選手も前回のROMAN01で、MMAデビューを果たしました。
「日本に行ったのは、その時が初めてだった。日本は全てが素晴らしい国だ。1カ月でも2カ月でも日本に滞在したいよ」
――ROMAN01の誠悟戦は道着着用MMAでしたが……。
「正直言うと、道着はあまり好きではないね(苦笑)。できればファイトショーツだけで試合がしたい」
――次のシュレック戦はファイトショーツ着用で、しかも素手によるバーリトゥードです。
「セネガル相撲ではグローブを着けていないし、素手で戦うほうが普通だからね。グローブ無しというオファーを聞いても、特に何も感じなかった。今すでに100パーセント準備ができている。あとは倒すだけだ。次の相手は組みが強いけど、打撃は弱い。早くて30秒、長引いても1分で試合を終わらせるよ」
――今から32年前、UFCは素手によるVTを世界中に知らしめました。今回ROMANで、素手で殴り合うセネガル相撲の選手が素手VT戦に挑むのは楽しみです。
「ジュルジュフ(※ウォルフ語で『ありがとう』の意味)。僕はいずれ、そのUFCに行くよ」
■ROMAN02 視聴方法(予定)
4月27日(日)
午後12 時00分~Twit Casting LIVE
■ROMAN02 対戦カード
<R.O.M.A. RULES無差別級/時間無制限>
関根秀樹(日本)
ゲイ・ババカール(セネガル)
<ROMAN COMBATライト級/15分1R>
日沖発(日本)
アレッシャンドリ・フランカ・ノゲイラ(ブラジル)
<ROMAN COMBATウェルター級/15分1R>
大浦マイケ(ブラジル)
ウィル・チョープ(米国)
<ROMAN COMBATフェザー級/15分1R>
松本大輔(日本)
門脇英基(日本)
<ROMAN COMBATフェザー級/15分1R>
大村友也(日本)
清水俊一(日本)
<ROMAN COMBAT94キロ契約/15分1R>
中山賢一(日本)
瓜田幸造(日本)
<ROMAN COMBATバンタム級/10分1R>
江崎壽(日本)
江木伸成(日本)
<ROMAN COMBAT75キロ契約/10分1R>
押木英慶(日本)
高橋孝徳(日本)
<ROMAN COMBAT95キロ契約/10分1R>
中里謙太(日本)
田馬場貴裕(日本T)
<ROMAN COMBAT95キロ契約/10分1R>
テイラー・ラング(カナダ)
関澤寿和(日本)
<ROMAN柔術無差別級T1回戦/7分1R>
ランジェル・ロドリゲス(ブラジル)
白木アマゾン大輔(日本)
<ROMAN柔術無差別級T1回戦/7分1R>
森戸新士(日本)
柳井夢翔(日本)
<ROMAN柔術フェザー級/7分1R>
大脇征吾(日本)
鍵山士門(日本)