【AJJC2019】ライト級に参戦──全日本王者・毛利部慎佑─01─「選手、指導者、経営者として」
【写真】毛利部の道場——「JUMP FIGHT CLUB」というネーミングは、子どもの頃に通っていた体操教室が由来。そこでは身体を動かす楽しさはもちろん、何事にも一生懸命取り組むことの尊さを教えてくれたという(C)SATOSHI NARITA
13日(金)から15日(日)にかけて、IBJJF主催のアジア柔術選手権が東京都足立区の東京武道館にて開催される。
アダルト黒帯ライト級には、昨年の同階級で3位入賞を果たし、今年8月のJBJJF全日本選手権ではクレベル・コイケとの激闘を制して黒帯として初の全日本王者に輝いた毛利部慎佑がエントリーしている。
大会への意気込みを訊くため、さいたま市北浦和の道場を訪ねると選手としてだけでなく、指導者、そして経営者としていかに世の中をサバイブしていくかに知恵を絞る青年の姿があった。
——道場はいつオープンされたのですか。
「昨年(2018年)の4月5日です。自分の誕生日は忘れちゃうんですけど、これだけはしっかり覚えています(笑)」
——今年7月で30歳になられたということですから、30歳を前に道場を出すというのも大きな決断だったと思います。
「もっと先のことだと思っていたんですけどね。もともと体操教室のインストラクターとして働きながら選手をやっていて、2016年の世界選手権で渡米する前日に仕事を辞めて、2年間くらいニートの期間がありました。その年は世界選手権紫帯ライト級で3位に入ることができて、全日本もアジアも獲れたんですけど、次の年、茶帯で挑戦したワールドプロでスウェーデンのマックス・リンドブラッドにボコボコにされ、世界選手権も2回戦敗退、アブダビ・グランドスラム東京も渡辺和樹さんに負けたりと、負けが続いて精神的に追い込まれてしまったんです。そこで人間の価値って何だろうと、迷宮に入ってしまって」
——人間の価値、ですか!!
「今振り返ると、柔術一本で生きていくという覚悟はありながら、情熱だけが空回りしてしまっていました。このままでは周りの人に良い影響を与えることはできない、自分にも何か与えられる価値はないのかと考えた結果、小野瀬(龍也)先生にも相談し、幸いなことに親から資金を借りることもできたので、ポシャるかもしれないけれど、思い切って自分のジムを持ってしまおうと」
——順風満帆な道場開設と勝手に想像していましたが、紆余曲折があったのですね……。今、会員数はどれぐらいですか。
「50人くらいです。最初は子どもと大人で同じくらいの割合だったんですけど、大人の集客は難しいですね(苦笑)。今は子どもが6割くらいです」
——京浜東北線の北浦和駅に繋がる通りに面した道場で、「体操」、「ブラジリアン柔術」と窓に大きなサインが貼り出されているのが印象的でした。
「体操はあくまで柔術のトレーニングの一環で、単独のクラスはないんですが、やっぱり子どもの習い事として体操と水泳は定番で、体操をきっかけに柔術にも興味を持ってもらえていると感じます。本音を言えば、体操をアピールするのはイヤなんですが(笑)」
——それは何故ですか。
「指導者の毛利部慎佑として、柔術を教えているという自負がありますから。ただ、そんな拘りはいいから、会員さんを集めなければいけないという経営者の僕もいて。他の道場との差別化にはなるものの、こればかりは正解がないので、実験の繰り返しですね」
——実験と言えば、最近はYouTubeでも『ブラジリアン柔術ジャンプファイトチャンネル』で積極的に発信されています。
「会員さんが困っていることを解決していく感じで、変な話、『何か困っていることありますか?』と指導中に訊いて、その答えに対して『じゃあやってみましょう!』とすぐに撮影を始めるくらいの勢いでやっています」
——始められたきっかけは?
「道場の広告になればいいなということもありますし、道場だけ、この地域だけを見ていては限界がありますから、動画を通してもっと多くの人に価値を与えられないかと思ったんです。YouTubeがきっかけでどうなっていくかはわかりませんが、けっこう目立ってきたなという実感はあります。始めてから半年、まだ130本くらいなんですけど、個人のチャンネルとしては橋本(知之)さんに次ぐ登録数になりました。ただ、登録数が1000人を超えたので収益化してみたんですけど、自分で撮影も編集もして週に4本アップと考えると、割に合いません(苦笑)」
——数分の動画でも、テロップを入れたりBGMをセレクトしたりするとなると、それこそ何時間もかかってしまうことがあります。
「日本一の選手がこのペースでテクニック動画をアップしているのって、自分だけだと思いますし、いつも見ていますと言ってもらえたりすると嬉しいですね。僕にはまだ家族はいませんが、将来のことや遠征費のことを考えると、どうにかして収益を上げていかないといけない。だから、3人の自分がいる感じですね。選手、指導者、経営者の自分がいて、指導者としても経営者としてもまだまだレベル1。道場の空き時間をどこかに貸してみるとか、もっと考えていかないといけないなと」
<この項、続く>