【Special】HOMIES誕生から1年─02─細川顕の拘り「柔術はマットと人間が2人いればできる」
【写真】どこに拘るのか。そこに柔術への想いが伝わってくる細川だった (C)MW
MARTIAL WORLD Presents 日本の道場を巡る──旅、第一弾──細川顕インタビュー後編。
自らの城ALMA FIGHT GYM HOMIESを開いて1年以上が経過した細川、試合に出場する機運が高い同道場にあって、細川がもっと拘ったのがマットだったという。
なぜマットにこだわるのか──この拘りことが、細川顕の柔術道といえる話が訊かれた。
<細川顕インタビューPart.01はコチラから>
──マットは道場の顔ですか。つまり、私がオープン前にまだマットが敷かれる以前にやってきた時は、まだ顔がなかったということですね(笑)。
「そうですね(笑)。マーシャルワールドさんに協力してもらって道場を出すのであれば、マーシャルワールドのロールマットがどのようなモノかすぐに尋ねました」
──仕事柄、道場へ取材に行かせてもらうことはいくらでもあるのですが、マットの質というモノに注視することはなかったです。でも、考えてみるとマットとシートの間のたわみや、マットの隙間が感じられる場所もありました。
「まず道場にもよりますが、マットと言ってもジョイントマットを重ねているだけのところ、あるいはジョイントマットにシートを張るところ、そしてロールマットを敷いてシートを張る道場がありますよね。僕個人の印象ではジョイントマットを重ねただけだと、やはり固いです。
ノーギなんてテイクダウンがあるから、そこが顕著に出てしまいます。ノーギがあまり日本で流行らない理由はマットが固いからじゃないかとか、薄っすらと思っていました(笑)。もちろん、立ち技で打撃のある格闘技を主にする場合はある程度の固さも必要だと思います。ただ僕個人としては、柔術をするにはジョイントマットは固いですね」
──細川選手のスタイルだと、ノーギでも引き込むから良いじゃないかとはならない(笑)。
「アハハハ、短パン一つでやるようなモノじゃないですか、ノーギって。布一枚で素肌でやると、もう顕著なんですよ。やはり柔術の稽古をする層を考えると、その辺も優しくありたいです。
キックや空手だと逆にジョイントマットぐらいの固さの方が良いでしょうし」
──マットに関しては、ただ柔らかいというのではなくて反発力というものを必要かと思うのですが。MMAの試合でもロールマット&シートでやけに沈む場合があれば、板の上にシートだけ敷いて、これでテイクダウンは危ないだろうとか。本当に色々なモノを見てきました。
「板の上にシートだけっていうのは、危ないですねぇ。ありえないです。マットですらないですからね、もはや」
──確かに(苦笑)。
「それに柔らかくても、密度がないというのか。あまり経験したことがないのですが、変にフワフワした状態のマットも危ないですね。固すぎると痛いけど、柔らかすぎると立ち技とかでバランスがおかしくなると思います。だから、その中間というんですかね……ある程度の固さが必要で、吸収されるだけでなくて反発力もないといけないですしね。
ウチで使っているマットは、柔術としては絶妙なところにあると思います。ただし、空手の人に言わせるとやはり沈むっていうことですし。だからそれぞれなんですけど、柔術の道場として、僕はこの柔らかさと固さを求めました。
青木(真也)さんがセミナーをしてくれた時に、柔らかくて立ち技のときに沈み過ぎて、ヒザがやられそうになるマットもあるけど『ここのはちょうど良い感じだ』と言ってくれました」
──寝技が多い柔術では、体の密着率が立ち技と違ってきますし、その辺で衛生面というのはより敏感になるのかと思いますが。
「そこでもやはりジョイントマットをむき出しにして、スポンジが汗を吸っているようなところは……」
──スパーリングしている人同士がぶつからないよう、ジョイントマットを用いることも、細川選手は好きではないですか。
「僕はやらないです。あの文化って日本だけじゃないですか? AOJとか凄い人数でやっていても、ジョイントマットを持って間に入るなんてないじゃないですか?」
──確かに。
「僕はスパーリングを監督していて、自分で入るようにしていますし。きっと海外なんかは自分たちで見られるようになれっていうなかで、スパーリングをしているのだと思います。
あとジョイントマットをそのままにしてあるのは衛生面もそうですし、当然のように痛みが顕著で色褪せてきて見栄えも良くないと僕は思います」
──見栄えも気になりますか。
「道場主になってからは、余計にそこは気に掛けるところになりました。デザイン、色、そういうところもリクエストさせてもらったんです。この2色になっているのも、僕の要望に応えてもらったもので道場のアイデンティティともいえます」
──このブルー系のマットがHOMIESだと。もともと青が好みだったのですか。
「AOJのように真っ白で勝負をする勇気は僕になかったです(笑)」
──アハハハ。ジョイントマット、ロールマットにしろシートを張ってと。ただ、そのシートとマットの間でたわみが目立つ。そんな道場も正直あります。
「そこに関しては、ロールマットでもどうしても皺が出てくることはあります。もう、そこはどうしても出るので、いかに少なくするのか。僕のところは、もともと内装ができていたので、そこで採寸をしてもらってサイズもピッタリに合わせて、マットを敷いてもらいました。だから、そこも最小限だと思っています。
あらかじめサイズを合わせて納品されているので施工時間も2時間ぐらいで、僕らが何かをやるということは一切なかったです。
間をテープで張るやり方もありますけど、あれは剥がれてくるから嫌だったんです。ここはマーシャルワールドさんによると企業秘密という技術で(笑)、上手く対応してもらいました
このマットの隙間というのはジョイントだと反って来たりして……これは経験上、何度も目にしてきました。ここで使っているロールマットも当然、使い込んでいくと痛みは生じてくるのは絶対です。ただ、傷んだところだけ変えてもらえるという利点もあります」
──お値段的には?
「もちろんジョイントマットより、値は張ります。でも、練習しやすい環境、安全面に金をかけない道場ってどうなんだって。だって使い続けるものですよ。それは僕にとって拘りであり、道場で指導している人間としてのプライドでもあります。そこは『良いモノを使っているんだ』っていうプライドを持っています。だからこそ、石川さんもマットは道場の顔だって言われているんだと思います」
──なるほどっ!! ウェイトを置く、サウナを置く、それぞれの目的があるなかで柔術道場として一番触れ合うマットに拘りをもったということなのですね。
「はいっ!! 僕はマットの質もそうだし、マットスペースを広くとりたかった。逆にマット以外は要らないだろうって(笑)。柔術はマットと人間が2人いればできますからね」
──おおっ!! 名言です。
「だから床だけでなく、壁マットにも拘りました。またジョイントマットの話になってしまいますが、壁マットにジョイントマットを使っているところも時々、あるじゃないですか?」
──はい。細川選手は壁マットのどこに拘ったのですか。
「頭から突っ込む人が多いかと思い、実は床のマットよりも分厚くしてあるんです。壁マットがなかったり、鏡のところとか怖いんですよ。それにどうしても日本は耐震面を考えて柱が合ったり、壁にも出っ張りがある。だから壁マットは必要だし、そこもさっき言ったように採寸してピッタリとするように施工してもらいました。
床のマットを敷くときも、このでっぱりが厄介ですし。シートが寄る原因も、そこにあるってマーシャルワールドの社員さんが言っていました。だからこそ、そこをちゃんと面倒みてもらえて、しっかりと敷き詰めることができたと思っています。要はオーダーメイドで、どんな形にも対応してもらったということですよね。
何より、僕が壁マットに寄りかかりたかったんです」
──?
「よくブラジルの柔術家同士が、壁マットに寄りかかっている写真があったじゃないですか? 生徒たちのスパーリングを眺めている時に」
──ハイ、柔術家写真あるあるです。
「あれをやってみたかったんです(笑)」
──アハハハ。細川選手の城です。お好きになさってください(笑)。では、最高のマットを持つALMA FIGHT GYM HOMIES、今後どのように発展させていきたいと考えていますか。
「大会が多いので、大会に出てきます。大会に出ないと、発展しないですよ。あっ、意外とこういう空気を僕が出しちゃっているのかもしれないですね(笑)。試合に出なくても良いのが柔術の良いところと言えば、もっと敷居を低くできるかもしれないですけど、チームで試合に出るのは良いモノですよ。
仲間の試合ほど、力が入るモノはない。感情移入の度合いが半端ないですから。だからこそ、安全面にはこだわりますし、皆が強くなってその練習を僕が壁に寄りかかって眺めている。そんな日が来ることを願っています(笑)」