【JBJJF】芝本幸司、ルースター級初戦でカルロス・アルベルトに完敗を喫す
15日(現地時間・火)から20日(同・日)にかけて、ポルトガルの首都リスボンにあるパヴィラォン・ムルチウソス・ジ・オジヴェラスにてIBJJF(国際柔術連盟)主催のヨーロピアンオープン柔術選手権が開催された。ヨーロッパを中心に、各国から強豪が参戦するこの大会レビュー。まずは最軽量級ルースター級で一昨年このヨーロピアンを制しており、今年もメダル獲得が期待された芝本幸司の戦いぶりを紹介したい。
Text by Isamu Horiuchi
<ルースター級準々決勝/10分1R>
カルロス・アルベルト(ブラジル)
Def. by 4-2
芝本幸司(日本)
準々決勝から登場の芝本の相手は、GFチーム所属のカルロス・アルベルト。昨年のこのヨーロピアン最軽量級の茶帯王者にして、6月のアメリカンナショナルズのワンマッチ決勝戦では、芝本の後輩である澤田伸大を倒している新鋭だ。
試合開始後、両者ともに座ってダブルガードに。やがて膠着ブレイク&両者ペナルティを経て再び揃って座るが、ここでアルベルトの方がすぐに立って上を選択しアドバンテージを得る。前傾でシッティングの体勢を取る芝本は、アルベルトの右足首をピックしかけるが、アルベルトはすぐに振りほどく。芝本が背中を付けて足を効かせると、アルベルトはその足を捌いてトレアナパスを見せる。これに対応して戻した芝本は再び前傾姿勢のシッティングから仕掛けを試みるが、アルベルトは低く腰を引き芝本の額に自らの額を付け、長い両腕を張る形で足に触れさせない。
残り7分、芝本は背中を付けて引き込みながら横に返そうとするも、アルベルトが巧みにバランスを保つ。ならばと足でラッソーを作った芝本だが、ルベルトが右ヒジを巧く使って絡ませない。芝本が右足でもラッソーを採ろうとするや、アルベルトはすかさずその足を捌き、瞬時に横に動いてのトレアナパスに。この攻撃で芝本に一瞬腹ばいを余儀なくさせたアルベルトは、次の瞬間自ら座り込む。この高度にテクニカルな動きで、アルベルトはアドバンテージを一つ追加するとともに、無失点で下のポジションを取ることに成功した。
芝本からすると「上になっただけでは逆転できない状況」を作られてしまったということだ。ほんの一瞬の攻防におけるアドバンテージ獲得劇だが、上下の入れ替わりによる逆転再逆転のポイントゲームとなりがちな軽量級の戦いにおいて、この意味は大きい。
その後はダブルガードの攻防の後、芝本は起き上がって上からの攻撃を試みる。しかしアルベルトは長い足を芝本の左腕にラッソーで絡め、さらに左足も掴んで芝本のバランスを崩してみせる。芝本がアルベルトの長い足に手を焼いているうちに、試合時間は5分を切る。
やがてアルベルトが下から芝本の左足をデラヒーバアキレスの形で掴むと、状況を打開したい芝本は逆にアルベルトの右足をアキレス腱固めに捕らえ、前のめりに極めにゆく。しかしアルベルトも長い足を張り出して対応。
やがてアルベルトは足を4の字に組んで防御すると、芝本のズボンの尻の上の部分を掴んで上になり、スコアを2-0とした。下の体勢になった側が攻めるのに有利であることが多い軽量級の攻防。芝本に攻めるターンが来たともいえるが、現在芝本はアドバンテージにおいても2つリードを許しているので、ここからスイープを返してスコアを同点にしても準決勝に進むことはできない。
残り3分。芝本に上になられても勝てるアルベルトは、自分から寝てダブルガードの体勢を取る。左腕でアキレスのグリップをキープしている芝本に対し、アルベルトは体をずらしてゆくと、一瞬で芝本の右腕を伸ばしての腕十字へ! 何とか体をずらして難を逃れた芝本だが、アルベルトは3つ目のアドバンテージを獲得した。
いよいよ追い込まれた芝本はインヴァーテッドガードを作ると、立ち上がったアルベルトの右足を掴んでバランスを崩し、そのまま勢いを付けて後転して上に。これでスコアは2-2だが、まだ芝本はアドバンテージで3つ負けている。さらなる攻撃が必要な芝本は、またしても前のめりになってアルベルトの左足をアキレスで極めにかかる。
残り2分。芝本の裾を掴んで引っ張って距離を作らせないようにして耐えるアルベルト。芝本はスピンして極めにゆくが、アルベルトは腰をずらしてプレッシャーを緩和する。さらに芝本は腹ばいで力を込めるも、残り1分のところでアルベルトは足首を抜いて上に。芝本はこの攻防でアドバンテージを得たものの、上を取ったアルベルトは2点を加えてスコアは4-2となった。
残り時間30秒。オープンガードから引き付けて仕掛けたい芝本だが、アルベルトは腰を引く。ならばと芝本は体を起こしに行くも、アルベルトは下がってズボンを掴ませず。その後も芝本の下からの仕掛けをやり過ごしたアルベルトが勝利した。
橋本知之との日本人決勝を期待されていた芝本が、新鋭相手にまさかの初戦敗退。しかも、シッティング&ラッソーの仕掛けをアルベルトに見事に捌かれニアパスのアドバンテージを許し、上になっても長い足を用いたガードワークに手を焼く。ならばと繰り出したアキレス腱固めも防がれたばかりか、さらにはそれを腕十字に切り返されてヒヤリとするなど、各局面で主導権を取られての完敗といわざるを得ないものだった。
もちろんこの結果は、芝本のガードやパスや極めの技量がアルベルトに劣るということを示すわけでない。前半のニアパスからの引き込みによって「上下を入れ替えても勝てない状況」をアルベルトに作られてしまったことが、その後の攻防を大きく左右した。実力の拮抗した戦いでは、序盤の一瞬の局面を制されることが最後まで大きく影響しうる──そんな競技柔術の怖さを見せつけられた一戦だった。
それにしてもこの試合で、あの芝本から先制点を奪って流れを渡さず勝ちきれる力を持った新鋭が、また一人ブラジルから現れたことが明らかとなった。しかし、次の準決勝にてアルベルトを迎え撃った優勝候補のホドネイ・バルボーザは、上からは両足担ぎからのベリンボロを仕掛け、下では得意のハーフ&クウォーターガードを駆使してアルベルトにポイントを許さず、見事に接戦を制してみせたのだった。
マルファシーニ、テハ、ジョアオ・ミヤオ。数年前のトップ3が不在の状況にして、なおも分厚い選手層を誇る最軽量級。その高い頂を目指し、芝本がいかにこの敗戦を糧として3月のパン大会を、そして何より6月の世界大会に挑むのか。その姿を見守りたい。